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完成と前夜と夜更かしと




 材木を打ち付ける音で目が覚めるのにも慣れてきた今日この頃。

 エルルはいつもより音が静かなことに気が付いた。


 朝からいつものように作業を繰り返しているバハムートの様子を見るために、いつものように部屋のサッシから庭に出る。


「おはようございます、エルル様」

「ハムちゃんおはよー。もう完成なの?」

「はい、今日の夕方には内装まで完了します」

「さっすが……」

「いえいえ。いい勉強になりました。いずれは本邸もしっかり立て直せますね」

「あはは……頑張りすぎないでね」


 元々今住んでいる家も、うち捨てられた廃屋をバハムートが手探りで修繕したものだ。

 年月を経ていく内に補修を繰り返し、外観も内装も住むには十分な状態となっている。

 が、バハムートはまだ満足していないのだろう。

 いずれ彼の手で立派な豪邸が建てられてしまいそうだ。


「それもしても、明日かぁ……」

「会食の予定は二時間ほどです。少しだけで良いので、耐えてください」

「はーい……。まあ、今回は魔道書も頼んでるから無碍に出来ないしね」


 エルルは今回の会食において、手土産として各国が保有する稀少な魔道書を提示した。

 国家レベルで稀少な魔道書などエルルでも中々手に入れる機会が無い。

 写本でもいいからください、と綴ったエルルの手紙は、今ごろそれぞれの王都に届いているだろう。


「今日の朝食はトーストを用意してあります。リビングでイフリートが待っていますよ」

「あれ、せるちゃんとかノムちゃんは?」

「セルシウスとノームは森と周辺を見回っています。流石に明日ですから、彼女たちも緊張しているのでしょう」

「ライちゃんは」

「いつものようにぐっすりと」

「あはは……」


 明日の会食については、流石のエルルもいつも以上に緊張している。

 三ヶ国の王が一堂に会するのは初めてのことであり、今まで戦争していた国のトップ同士が共に食事をしようとするのだ。

 何かが起きても不思議では、ない。


「当日は私とセルシウスがエルル様をお守りします。ノーム、イフリート、ライカはそれぞれ三ヶ国の警備兵を監視します」

「うん、お願いね」

「料理は私が腕によりを掛けて作りますで、何かを盛られることはないので安心してください」

「はーい」


 「それでは続きに入ります」と言ってバハムートは材料や道具を抱えて会場の建設に戻る。

 バハムートの頼もしい背中を見送ったエルルは、小さな欠伸をしながらリビングに向かう。


 ご飯は大好きだが、個人的にはドーナツが食べたい。

 けれどバハムートの料理はどれも美味しいので、あまり我が儘は言えない。


「あむあむあむあむ」

「ばりばりばりばり」


 エルルを待っていたイフリートと共に朝食にありつく。イフリートはイフリートでテーブルの下で煎餅をかじっている。

 もちろんこの煎餅もバハムート特製だ。もはや皇帝竜というよりただの家政婦である。


「ハムは頑張るのう」

「凄いよねぇ」


 食後の紅茶を堪能しながら、窓から見える会場を眺める。

 今日は何して過ごそうかと考えながら、本棚から読み途中の本を取り出した。


「読書するのじゃ?」

「そうだねぇ。せるちゃんとかノムちゃんが戻ってきたら遊ぶのもいいかなー」

「それじゃあ妾はそれまで昼寝でもしてるのじゃ!」

「はーい。みんな戻ってきたら起こすねー」

「うむっ」


 イフリートはのそのそと小さな身体で大きなソファに昇ると、ぐいーっと身体を伸ばして横になる。

 エルルが読書に没頭するよりも早く寝息が聞こえてくる。

 二階で寝ているライカの事を思い出し、エルルはくすくすと笑い出す。


 エルルは召喚した召喚獣たちと、契約した時に交わした条件は意外に少ない。

 そもそも召喚の為の条件が「家族になって欲しい」なのだ。一緒に過ごしてくれるだけで、エルルからはそれ以上を求めない。


 それでも召喚獣(かれ)らはエルルの傍にいることを許諾し、共に日々を過ごしている。

 エルルは静かに暮らしたい。けれど、少し寂しがりだ。

 だから家族が欲しくて、召喚魔法を学んだ。幸いにもその分野に非常に才能があったために、今ではこうして沢山の召喚獣たちと暮らしている。


 人間とは、出来る限り関わりたくない。

 エルルにとっては、同じ人間よりも召喚獣たちと過ごす方が心落ち着く。


「……だって、人間は嘘つきだからね」


 英雄として暮らすようになってから、元々抱いていた人間への嫌悪感は否応にも増していた。

 見え透いたお世辞も、その根底にあるエルルを利用しようとする気持ちも全て見抜いている。


 あくまで直感に依るモノだが、エルルはこの感覚に絶対の自信を持っている。

 だから、出来る限り人とは関わりたくない。

 嘘と欺瞞に満ちた人間との会話は、エルルに要らない心労しか与えないから。


「さ~て、せるちゃんたち帰ってくるまでゆっくり読もっと。……英雄嫌いのあるじ様? なにそれ変なの」


 集中すればエルルはすぐに本の世界にのめり込む。

 帰ってきたセルシウスたちが声をかけるまで、エルルは物語に夢中になるのであった。


 ………

 ……

 …


「エルル様、明日の会食は昼食も兼ねていますのであまり夜更かしはしないでくださいね?」

「はーい大丈夫だよー」


 夕方には会場が完成したバハムートが満面の笑みで家に戻り、トランプに興じていたエルルたちに混ざることとなった。

 夕食はいつものようにバハムートが腕を振るい、その頃には目を覚ましたライカも混ざりエルルと召喚獣たちで夕食を囲んだ。


 お風呂を済まし、パジャマに着替えたエルルは再び読書に夢中である。

 今回は物語ではなく魔道書だ。エルルは自分の知識が増えていくことも苦ではなく、率先して学術書などにも目を通すほどだ。


 バハムートからの忠告を聞き流しながら、エルルは自分の部屋に戻る。

 今日はあまり眠くないようで、眠くなるまで本を読むつもりだ。


「さ~て、まだ読んでない本はどれだったかな~」


 エルルの部屋は入り口を挟んで左右に本棚が広がっており、読み直したりする本や未読の本が並べられる。

 読破した本は地下室だったり異空間の第二、第三家屋などに貯蔵されている。


「……うん、今日はこれにしよっか」


 エルルが選んだのは、武芸の国で生み出された恋愛ものの短編集だ。

 短編集ならばどこで止めても良いし、全体量もそこまで多くない。

 これなら夜更かしもしないだろうと判断して、エルルは布団に潜り込むのであった。







「…………………夢中になって読み直した挙げ句次のシリーズに手を伸ばしてしまった……!」


 エルルが寝付いたのは、朝日が昇ってからだった。

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