中間テスト
事件というほどの事件ではないが、
彼女たちにとっては
事件である。
第2章 中間テストという戦
一学期が始まったばかり。ここ、何もしない部活には新入部員と言える子が一人も見当たらない。そればかりか、ダラけた少女三人見えるだけである。何をするわけでもなく、ただうだうだするだけの部活。どうしてこんな部活の存在を教師たちは認めているのだろうか。
相変わらず、祚良はあの絨毯から動く気配すら見せない。彌鷹は意識だけがどこかへ行き帰って来る気配がない。鵶果音はそんな二人がやる気を出すことを諦めているらしく大人しく本を読んでいる。
「そういえば、」
さっきまでゴロゴロとしていた祚良は何かを思い出したのかゾンビのようにムックリと起き上がる。その声に反応したのは鵶果音だけだが…
「あの教師、来ないよね」
祚良のその発言に鵶果音は「なんだったっけ?」みたいな反応してそれから思い出したようにうなづいた。
「…うわぁ、今完璧忘れていたでしょ。」
「うん」
「ひでぇ…人のこと言えないけど…」
と言ってまたゴロンと絨毯に寝転んだ。鵶果音はそれと同時に本に目を戻した。
バタンッ
突然部屋のドアが勢いよく開く。けれどもその音に何の反応もしない三人。どこまでだらけているのか。すると、ドアの方向から嘆きの声が…
「どうして何の反応もしてくれないの?!」
それは女性の声だった。祚良は仕方なさそうに絨毯でゴロゴロしながら答えた。
「反応することすらも出来ないくらい、忙しいからですよ、津座紀先生」
『津座紀先生』と呼ばれた女性はカツカツといわせながら、歴史探求部のテリトリーへ足を踏み入れる。
短めの髪は綺麗な茶髪。身長は小さく、小柄だが、ヒールで背伸びしている感じが20代と言うことを物語っている。
「どこが?!全然忙しそうじゃないじゃない?!
ゴロゴロしているだけでしょ?!」
そう。この女性こそがこのだらけた部活の顧問なのである。名を津座紀 三姫《つざき みき》。
「…う〜ん……そうだな…ちょっと待って」
と祚良は言う。やっと動く気になったのか…?
「適当な言い訳考えるから」
「そっち?!」
津座紀先生は全力でツッコミを入れる。そんなことも気にせずゴロゴロする。鵶果音が本から顔を上げる。
「…何しに来たんですか?」
「なんか聞き方冷たくない?…気のせい?」
「気のせいです。何しに来たんですか?」
鵶果音は威圧的に先生に質問する。圧されながらも、恐る恐る答える津座紀先生。
「…いや、ね。もうすぐ中間テストだってこと忘れてないかなって思って、さ」
その言葉に三人同時に反応する。鵶果音は口をゆっくりと、あんぐり、開けていく…彌鷹はゆっくりと瞳孔が開いていく…祚良はピタリッと動きを止める…
「「「わ、忘れていた」」」
三人は同時に同じとこを、そして、絶望的に発言する。
「うわぁ、三人とも忘れていたのぉ?うわぁ」
「なんだよ、人は忘れるもんなんだよ」
祚良はイラついたように睨みつけてヤンキー口調になっている。というか、苛ついている。津座紀先生は冷や汗みたいなのを掻きながら、生徒に向かって
「…すみませんでした…調子に乗りました…」
と謝る。なんとも奇妙な情景だ。
*
珍しく祚良が机に座っている。彌鷹にも意識がある。何をしているのかと言うと、部活ではなく
「うガァ!終わらない!」
テストの提出物である。やっと起き上がったと思えば部活ではなくテストの提出物である。
いつ部活というものをするのだろうか…?