傷名だらけの記録1 善悪も消えた時代
新しく書き直した星願のアサンブル。前回のものは、世界観のつかみを捨てましたが今回は世界観をつかみやすくするための序章を製作しました。
見方についてですが、ある程度のおやじギャグみたいなものが理解できてたら、楽しめれるものになってますので、まずはどうぞ。
あたしは、親に捨てられた子供の一人であった。
通常で考えて、子供を捨てることは非人道的な行為であるのだが、ネイン歴2010時代にとっては何ら変哲もない、行為の一つであった。
国が過剰債務で、社会サービスや公共事業等の首が回らなくなることを避けるために、豊国政策を行った。
その政策の一環の制度に、人口を増加させる目的で、結婚してなくとも子供を産めば高額の援助金が一括にして、支給されるというものだった。
一見子供を作るハードルを下げた政策に思えるが、少し考えてみれば一括で支給されることに、不信感を抱く。
通常は、支援金受け取るにしても定期的に一定の額が支払われる。それは、不正利用を防止させる意図や経済のインフレを抑える為にも重要な部分だが、内容には一括と記載されている。理由として、処理コストを削減するためだといわれていたが、実際には違う話であったそうだ・・。
当時の若者たちは、性欲的なことにしか興味はなく、ゴシップで騒いだり愚痴をこぼすだけで何もしない、とういう状態ある。
仮にもこの政策の問題点に気づいた人はいても、行動を訴えるものはほとんど存在してなくて、支援金目的で、浮気や不純異性交遊行為などを行っていた。
その結果、人口増加は確かに達成されたが、従って問題も多発した。
例えば、産んだ子を施設に預けて、そのまま消息を絶つ人もいれば、子育てに奮闘しすぎて過労で亡くなった人々もいた。そんな家庭や施設の子供たちを利用して、裏では人体実験の被検体や淫乱行為などの消耗品として、取引されたこともあった。
その中には、家も戸籍もないホームレスたちが増えてゆき、悪いと理解していても生きるためには盗みを働いたり、誰も助けてくれないと知っていても物乞いをするくらいでしか、命をつなげない状況であった。
本来なら、親に愛され家庭と呼ばれる生き場があるのだが、この時代の子供たちは、親にも愛されず生きる場所どころか、行き場すらない。
一言でいえば、お金のために善悪を捨てた時代だ。
そんな、現実に救世の手を差し伸べた組織があった。
忘れもしない、あたしが捨てられたあの日。そして、その組織の存在一つに拾われたあの日を。
ネイン歴2021年6月21日それは、空が鉛色に染まった雲が鼓動をたてながら、開いた窓から舐めるような湿った生暖かい風が入る天候の中、あたしの十回目の誕生日の朝を迎えた。
誕生日というものは不思議なもので、年に一回誰にでも訪れる、無条件で生まれたことを祝ってくれる日だ。そうは言っても、家の人のほとんどは祝ってくれない。なぜならあたしは、とある令嬢の影武者として生まれた、道具だからだ。
クローンとは、遺伝子的に同一の起源をもつ、複製である。あたしの場合は弱能クローンで、見た目はオリジナルと一緒だが、内臓以外の機能は低く設定された、クローンである。ちなみに、なぜ内臓は低く設定してないかというと、オリジナルが病気になった時移植できるようにした、保険だからだ。
そんな物と同じ存在でありながら、あたしはオリジナルを超えた力を付けてしまったのだ。
最初に語っておくが、オリジナルの能力が100とするなら、あたしは40程度で半分以下であると考えてみてほしい。
数値的に見て当たり前だが、オリジナルの方があたしよりも能力があるのは、一目瞭然だ。
勉強において、オリジナルがよだれを垂らして居眠りしていても、少し勉強すれば簡単にあたしの成績を超える。
運動においても、50メートル走るのにあたしが10秒かかっても、オリジナルは8秒で走り切る。
客観的に見て、あたしはオリジナルが生きる上でのかませ犬。というのがあたしだ。
情の厚い人なら「かわいそう」だとか「気にするな」とか言われそうな、立場だが、あたしはとても幸せだった。
だって、あたしが強くなればオリジナルは、もっと強くなる。そう考えたら、より一層燃えてオリジナルよりも勉強して、運動したくなって個人的に努力を重ねた結果。
オリジナルを超えてみじめにした、最悪のクローンが誕生してしまった。
そんなあたしを唯一祝ってくれるのが、そのオリジナルである。
オリジナルは、大手エネルギー会社 『御門会』 の令嬢で、立場的には誰もが羨むお嬢様であると同時に、四六時中悪い人たちが目を光らせ狙っわれる、渦中にいる方でもある。
性格は、常に外交的で他人ばかりに興味を持ち、ところかまわず落ち込んでいる人を見ると駆け寄り、元気づけ人を笑顔にする。彼女いわく、「落ち込んでる顔が、明るくなる瞬間が好きだから、元気づけに行く」だと満面の笑みを浮かべる、優しくて人思いな自信家の一面がある。その一方他人の悪事に協力していたずらをしたり、人の話に割り込んだりする一面もある、天真爛漫な女の子だ。
あたしは、そんなオリジナルが好きだった。
そして今年もオリジナルは、あたしのことを朝から祝ってくれた。オリジナルは使用人の力を借りて、隠れてケーキを作ってきてくれた。あたしはオリジナルの気持ちと行為に、にやにやが止まらなかった。つられたて、オリジナルも悦楽した顔をしてこう言った。
「十回目のお誕生日おめでとう、これからもよろしくね。マナ」
毎年この日だけは、笑顔で迎えようと思うけど、オリジナルのその声に感激をして目を潤わしながら「ありがとう」と伝えると、オリジナルは無言で笑みを見せたあと、口を開いた。
「何はともあれ食べましょう」
オリジナルは、ケーキを切り分け始めた。ケーキはふわふわのスポンジ生地だから、普通ならぐちゃぐちゃにつぶれて、きれいに切るのは難しいのに、いとも簡単にきれいにお店で見るような切り分け方をした。
そのケーキを見て、思わず質問をした。
「どうやって、このケーキきれいに切ったの」
ナイフを振りながら、自慢げに方目を瞑り、話してくれた。
「このナイフのおかげ。このナイフ超音波ていううものが流れていて、そのおかげで柔らかいものでもつぶさ素に切れるのだ」
補足つきで解説を入れておくが、超音波とは、人が感知できないほどの高いく細かい音の波のことで、一秒間に数万回振動している。それを利用して、ものを切るからいくら早くやっても、つぶれず柔らかいものでも切れるのだ。ちなみに、切れ味は抜群なのだが通して素材は脆くなりやすいので注意が必要です。
「それって・・使って大丈夫なわけ」
「大丈夫なわけないじゃん」
オリジナルの悪い癖が出たことに、呆れたがらしさが出ていて内心あったかい気持ちになった。
そして、一緒にケーキを食べて、オリジナルと幸せなひと時を過ごした。
ケーキを食べ終わった後、オリジナルはちょと寂しい顔をして、口を開いた。
「つぎはさあ・・。家族みんなで食べたいね」
「・・・」
思わずあたしは、沈黙した。もちろん素敵なことだけど、あたしにとっては夢のまた夢の話だった。
そんな思いを察してか、オリジナルは交渉をするように約束をしてきた。
「大丈夫です。いつか家族で食卓を囲められるようにしますので、楽しみにしてね」
「うん・・楽しみにしてる」
勇敢なオリジナルの言葉ではあったが、あまり期待ができなかった。
一応オリジナルの母親は、あたしの母親でもあるのだが、腹は違う。だからいつでも、捨てられる可能性は高くあったからだ。
部屋を出て、廊下を歩いていると、視界の先に黒服の男と母親の姿がそこにあった。
黒服の男があたしに近づいてかがんみ、視線を下から上に物を査定する目で見つめてきた。その行動に気分の悪い胸騒ぎがして、身震いをした。
「この子であったら、三億てとこですかね」
「そうですか、わかりました現金で払いますので、今すぐにお願いします」
「わかりました」
母親の殺伐とした目つきと声にひるみつつ男に視界を移すと、黒服の男は、テーザー銃を片手で持ちあたしに向けていた。
突然の出来事に驚怖きょうふをして眼を見開いた、その瞬間に身体中の感覚を飛ばすような痛みがほとばした。目を瞑った時に見える鮮やかな閃光が風景を白く濁していき、キーンと耳鳴りをたてて床に倒れこんで、暗煙あんえんを纏まといながら視界を奪っわれていっき、気を失っていった。
楽しめましたか。善悪で物事を考えると何とも言えません。あなたはどう思いましたか。