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最も素晴らしい魔法  作者: mazicero
第一話 死者を蘇らせる魔法
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第一話 死者を蘇らせる魔法2

母が死んでからそろそろ一年が経つ。その間に、妻が出来た。とても綺麗なロングストレートの赤い髪が印象的だった。彼女は無口な俺に喋ることを強制せずに、ずっと無言が続いても寄り添ってくれた。相思相愛という言葉を一番当てはめにくそうで、一番当てはまる夫婦になっていた。今では、あと半年もすれば赤ちゃんが生まれるまでになった。

妻に申し訳なかったことをあげるとすれば、妻のことより、これから生まれてくる子供のことを考えるより、村の中にいるとずっと母のことばかり考えていた。でも、いつまでもそうしているわけにはいかない。そろそろ、しっかりけじめをつけようと思っていた。

それからの行動は早かった。母を亡くしたという未練から遠ざかりたかったから、子供が成長して長旅にも耐えられるようになったら旅に出ようと決めた。もちろん家族全員でだ。

そして、このことは誰にも知らせないでおこうと決めた。

止められるのを防ぐため。情に流されて、この村に止まらないようにするため。


数年が経った。

その間に娘が一人生まれた。よく俺たち夫婦のやっていう仕事を手伝ってくれる心優しい子に育った。

そして、準備も着々と整っていた。

妻とは話をして、明日の真夜中に決行することに決めた。そこが一番村を出やすいから。この村には一つだけしか入口がない。ここでは村人が日替わりで門番を一晩中することになっていた。なので、次の日は畑仕事をやらなくてよくなる。

そして、明日の真夜中は俺の古くからの友達で、門番をしている最中に居眠りしてしまう奴がつくことになっていたはずだ。そして、仮に俺たちの一家がこの村を出る事を目撃しても黙って見過ごしてくれる唯一の頼みの綱だった。今日は俺が当番だった。だから、明日は一日中準備のために使える。

そんな事を思いながら、暗い夜を一人で過ごしていた。


決行当日。

妻とは予め決めた通りに動いた。

妻が機織りなどをしている間に俺は家の中の荷物を片付けていた。娘は村の養育場に行っていた。俺が長年住んだ家だから隅々まで知り尽くしている。それに、前々から荷物はまとめていたから今日は点検だけだった。

家の隅々まで見終わると、次に掃除をした。そして、捨てる物は分別した。多分この家は取り壊されることになるだろう。そうでなくとも、他の人が使うはずだ。なので、ここの村人のために自分たちの尻拭いは自分たちでする。だから、この家の処理も自分たちでする。だから、そのための魔法陣を設置するのを忘れない。

そして、それが終わると母の墓参りに行った。別に父や他の兄弟が嫌いだったわけではないが、母以外はどうでもいいような気がしていた。母の墓に着くと持ってきた花束を土の上に乗せて火をつける。そして、母に今夜決行することを伝えた。


母さん。俺は今日、妻と娘と一緒にここを出ます。

移動にはうちで飼っていた馬を使うつもりです。

それから、ここには多分、もう戻ってきません。

今までありがとう。

こんな俺を育ててくれて。母さんとは一緒に行けないけど、いつまでも忘れない。

こんな頼りない俺をいつまでも見守っていてください。


多くの村人がそれぞれの家へ帰ろうと、楽しそうに仲間と談笑している中、その男だけがただ一人、静かに墓の前で目を閉じていた。


日はずいぶん前に落ち、村人のほとんどが寝たであろう時間。薄暗い月明かりの中、馬に荷物を積んでいく一組の男女の姿があった。二人は一切物音を立てぬまま馬車に荷物を乗せていく。そして、全ての荷物を乗せ終わったのか、女を先に荷台に乗せて、男は小声で何事かを唱え始めた。よく見ると、家の中央に集められたゴミの上で何か大きな紙が光を放っていた。そして、男は馬車に乗って何一つ音を立てることなく、そこを去っていった。暗がりの中、ただひたすら門についている明かりだけを頼りに進んでいく。

門の前を通る前に男が降りて、中の様子を確かめた。

「うん?どうした?何かあったのか?」

「いや特に何もない」

いつもこのぐらいの時間になるとうたた寝ているはずの友人は予想を外して起きていた。

「そうか。それならいいんだが。……それよりどうしたんだい、その格好は。まるで今から何処かへ行こうとするみたいに重装じゃないか」

いつもと変わらない調子で言ってくる。やはりこいつには伝えるべきか……。

「実は、……俺は旅に出ることにした。妻と娘も一緒だ」

「そうかい」

友人は何を言うでもなく、さっきと変わらない表情のまま、ただ相槌を打った。

「もうこの村へは戻ってこないと思う」

「そうかい」

二人の間には沈黙が流れた。幼少の頃からの唯一の親友だ。だから、二人の間には様々な感情が流れていた。

「そうかい。それじゃあ、もうお前とは会えないのか……」

「済まない……」

「でもいいさ。俺はお前の初めての友達だ。それに変わりはない。だから、お前のことは忘れないよ」

「ありがとう……」

「いいんだよ。その代わり、時々でいいから手紙を送れよ。そして、俺のこと忘れるなよ」

「わかった」

だからこそ、二人はこれ以上語れなかった。

そして、男はその場を離れた。

自分を操っている主人の気持ちを代弁するかのように馬の鳴き声が聞こえた。


その村では、早朝にある家が爆発した。

村人の多くが、この家に住んでいた夫婦と子供は死んだと思い込んだ。

ただ一人の男だけが真相を知っていた。

ただし、男からの手紙は途中で途絶えてしまった。

***

最初こそ順調だった旅はどんどん苦しいものになっていった。金銭面は大丈夫だった。問題は、自分たちが住むのにちょうどいいと思えるような場所に巡り会えないことだ。

確かに良さそうだと思えるところはあった。だが、その多くが移民の受け入れを法律で禁じていたり、禁じていなくても町全体に不穏な空気が漂っていたりと、なかなか見つからない。


何十回とやってきているので野宿は慣れた。

その慣れによる気の緩みが俺たちを襲ってきた。

「お父さん!」

「ああ、わかってる。お前たちはここに隠れていろ」

ある晩、一家を魔獣の群れが襲った。しかも、かなり凶暴と言うことで知られているブラック・ウルフが五匹もいた。

男はこの程度なら一人で戦えた。これが、守る対象がいない昼間の戦闘なら。

幸い月明かりが強かったので視界は確保できた。だが、守るものがあるということは、その方向に魔獣を近づけてはいけないのと同じだ。

馬車から離れて、被害が出ないようにする。一匹づつなら大したことない相手だが、それが複数になると四方から同時に襲いかかってくる。

男は常々六本は持っているナイフを、一匹づつに刺して、確実に一発で仕留めていった。

手持ちのナイフを全て使い終わる頃には片付いていた。男の周りには魔石が六つとナイフが六本落ちていた。いつもならかすり傷ひとつつけずに終わらせるところを、それほど、ダーク・ウルフ《《六匹》》は強力な相手だった。

もう終わったことを伝えようと馬車の中を覗くと、中で妻と娘が倒れていた。よく見てみると、二人とも体に大きく抉られた痕があった。妻は背中を向けていたが、娘はこちらを向いていた。起き上がれないのか、体の下敷きになっていない腕をこちらに伸ばしてきた。その動きは力がないようだった。

足を踏み入れるとピチャッと、音がした。赤黒い水たまりができていた。これがランタンの光なのかどうか、その時の自分には判断がつかなかった。

「お……とう……さー………………」

娘の腕が床を叩いた。白目を向いている。口からは泡が吹いていた。

周りからはすでに魔獣の気配は消えていた。

視認することのできたブラック・ウルフは全て倒した。なので、撃ち漏らしたはずはない。それでは、何が娘と妻に傷をつけたのか。

その時は分からなかった。


***


一夜を呆然と過ごし、日が登る前の少し青い空をただ呆然と眺めていた。

すると、白い布を体に巻きつけて止めただけの体格のいい男性が目の前に立っている事に気がついた。

「どうかされましたか?」

「いや、急ぎのようではないのだが、君に行くつか質問をして見たくなってね」

この時俺は目の前に立っている男がよく分からなかった。

「さて、それ絵では一つ目の質問に行こうか。君は何を信仰している?」

「いえ、何も……」

「それでは二つ目。君は今までの人生を真面目に生きたかね?」

「まあ、そうですかね。で、この質問って何かいまがあるんですか?」

「大いにある。さて、最後の質問だ。きみは、人を殺せと命令されたら、殺せるかね?」

男は、ばかばかしいと感じながらも考えて、答えた。

「……はい」

「なら上出来だ。君、「魂を狩る者」 になっては見ないかい?」

「魂を狩る者」がなんなのか分からなかったが、もう人生がどうなってもよかったので、、やけくそになって答えた。

「……はい。ただ、僕からもひとつお願いがあります」

「お願いとな?」

この時俺は、すぐに直属の上司になり、尊敬する人である神とある契りを交わした。


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