幕間手袋
旅をし始めて間もない頃。その頃はちょうど夏で、特にその日は暑かった。まだ朝だし、少しすれば日陰もあるだろうそこで昼寝をして、夕方になるのを待とう、と思ってスクーターを走らせていた。
でも、どれだけ進んでも日陰はなかった。
「仕方ない、手袋を外すか」
そこまでの道中、少しづつ上着を脱いで、あとは手袋以外に脱ぐものがないとなっていた。そして、手袋を脱いでスクーターのハンドル下についているカゴに手袋を入れた。
しばらくして、ちょうど良さそうな日陰を見つけた。そこはちょとした坂の頂上になっていて
スクーターから降りて周りを見渡してみると、少し進んだところに森があるのがわかった。その森をよく観察すると、少し中に入ったところに川の流れているちょっとした空き地があることがわかった。
「よし、あそこまで行ったら、今日はもう動かないでおこう」
そう誰に言うのでもなく宣言して、スクーターのところまで戻った。
「さて行こっ……あれ?ない。祖母の形見の手袋が」
いつのまにかスクーターのカゴに入れていた手袋がなくなっていた。今までにペンなどの文房具はなくしたことがあったけど、大事な祖母の形見をなくしたことだけはなく、また無くさないように気を配っていたのですごく驚いた。
なくしたことに気がついたあとは早かった。来た道を戻って、手袋を探していく。
それまで上り坂を中心とした道だったので引き返すのにそう時間はかからなかった。
でも、見つからなかった。
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「え。それでどうなったの?見つかった?」
「ああ、見つかったよ。でも、すごく不思議な見つかり方だった。どんな見つかりかただと思う?」
そうハイドが聞くと、マーチンは真剣に考えるそぶりを見せた。だが、
「やっぱりわかんない。どんなだったの?」
「それがね……」
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そのあと、手袋を外したところまで戻ってきたが、見つからなかった。祖母の遺品を失くしたと思うと、ひどく悲しくなってきた。
「神様お願いします。僕の失くした手袋の場所を教えてください」
そう言って、神様にお願いしてみても、失くしたものが帰ってこないのはわかっていた。神様だって全能じゃない。わからないことだってあるはずだ。僕みたいな性格がひん曲がったとよく言われる人間のいうことなんか神様は聞いてくれないだろう。そう思った。
しばらく道の脇でスクーターを止めてその上に座って「これからどうしよう……」と思っていても何も変わらないのはわかっていた。だから、失くしたものは仕方ないと割り切って旅を再開しようと、スクーターに跨った時に、首にかけているお守りの宝石が光り、浮かび始めた。ある高さまでくると、今度はその宝石は僕をどこかに向かわせたいかのように、僕の首を引っ張り始めた。
そして、ゆっくりとスクーターを走らせると次第に光が強くなっていっていた。
道のりを四分の一程に差し掛かった頃、宝石が少しずつ下がっていった。そして、
「ウグゥ……少し痛すぎない?」
今度は会えではなく下の方に宝石が首を引っ張った。地面をみてみると、そこには失くしたはずの手袋があった。
「あった……。あった。やったー」
そして、今度は暑くても失くさないように手袋をはめた。
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「それでそれで?」
「あとは、坂の頂上を越えた先にある森まで行ってその日は休んだ。今でもその現象がなんだったのかわからないけど、あれが魔法だったなら最も素晴らしい魔法にしてもいいなって思った」
「そ、そっか………」
なぜかマーチンが釈然としない顔をしていたが、そのことにハイドは気がつかなかった。
たぶんそれは、魔法だと思うけど、できれば多くの人の役に立つ魔法にしない?
マーチンの思いは一生届くことはないだろう。