異世界勇者ガチャがハズレしか来ない問題 魔改造ゥゥゥ！
これは「魔改造」という二次創作です。
ボーソはこことは違う、どこかの世界の神様的存在だ。
その世界に異物が現れた。紫の肌にウロコや角、羽。人型の化け物だ。
化け物は群で人々を襲った。
化け物はわずかな次元の揺らぎから生まれた。
ボーソは世界の民を護るため、隣の世界の神に頭を下げた。化け物の正体は異次元人と断定。異次元の敵に立ち向かうのは同じく異次元の民が妥当であると考えたからだ。
〝目には目を、埴輪ハオ〟である。
その世界の神は条件を付けて承諾してくれた。
条件とは
接触するのは14歳以上18歳以下の死んだ人間に限ること
元の世界で生まれ変わるという選択肢を与え無理強いしないこと
自分の世界に連れていくときに何か特別な力を付けること
の三つだった。
早速ボーソは条件に見合った男と対話する。
その男は若く、やたら辺りを見回していた。
それも当然のことだ。なぜならここは和室のようだが窓がなく、ちゃぶ台が中央に有るだけの閉塞感溢れる作りだったからだ。
これは、ボーソが転移者候補たちが落ち着くと思って作ったものだ。残念だがセンスは皆無だった。
転移者候補の男はこの状況を七割方理解した。
神様またはそれに類す|る者に拉致された|と。
そして男は恐怖した。もし、目の前の美青年が性目的で自分をここにさらった場合、生きて帰れる可能性は無いということに。
性目的で神様が人間をさらった実例を挙げようとすれば、ゼウス関連だけで一時間はかかる。そして浮気の神に限れば、ハッピーエンドは一つもない。
死んで星座になったエンドが精一杯だ。
「あの、なにか飲むかい」
ボーソは相手沈黙に耐えかね口を開いた。
「いえ、結構です。お構いなく」
しかし男は知っていた。
神様から出された食事は死んでも食わない方がいい、というエピソードが各地に残されていることを。
たとえば性的な目的で神様に拉致られた女が何とか現世に帰れそうになる話では、その神様からもらったザクロを食べてしまったから帰還に条件が付いたとか。
「あのー、あなたはどんな奇跡を残しどんな名前で私共の世界に伝わっているんでしょうか」
そして男は知っていた。
神様の原典を知らないと、マックスデンジャラスだということを。
だからへりくだってボーソに聞いたのだ。
「あまり名は知られてはおらぬが、ボーソだ。それより私の世界を救ってほしいのだ」
ボーソの純粋な願いを男は誤解した。
彼が悪魔か鬼の類だと。
なぜなら、どれだけあなたは素晴らしいのかという問いかけよりも優先したい願いがボーソにはあると看過したのだ。
それが男の脳内で伝書の中の悪魔や鬼の類の言動ユウワクと一致したからだ。
男は、悪魔や鬼の甘言に乗って破滅したくない、不敬な行動をとって死にたくない、名前を教えて呪いをかけられるのも避けたい。
「ではボーソ様、帰り方を教えてはいただけませんか」
ここでボーソは焦る。
自分の世界へ行かない方法を教えろと言われたのだ。まだ還ると断言されたわけではないが、目の前の男が渋っているのは火を見るより明らかだった。
「奥のふすまを開ければ帰れるが、私の頼みを聞いてくれ。取りあえず名前を教えてくれ」
男は、今の発言で四つの確信を得た。
一つ目に、奥のふすまはまず脱出口ではないこと。
馬鹿正直に脱出口を教える悪魔はいない。何らかの罠が仕掛けてある可能性が大きい。
二つ目に、名前を教えたら詰む可能性が高いこと。
名前を使った呪いは世界中に存在する。名前を知りたがるのは怪しむべきだろう。
三つ目に、こちらの合意を強引にでも奪い取る必要があること。
相手の目的がなにかにＹＥＳといわせる物である可能性が大きい。ＹＥＳと言ったら死ぬまで奪われ続ける可能性もある。
四つ目に、嘘を付いても死ぬ危険性があること。
相手が真実を司る大悪魔クラス、またはその配下だった場合、嘘は容易に看破され魂を抜かれるかもしれない。
この四つの確信から男は最適な返答を編み出した。尤も、この四つの確信は一つを除き的外れもいいとこであったが。
「さあ、どうでしょう。当ててみてください」
この言葉で馬鹿正直に名前当てゲームに乗ってくれば十中八九西洋の悪魔だと断定できた。十字を切れば勝てる。
逆に力ずくで名前を聞き出そうとすれば東洋の鬼の類だろう。念仏を唱えれば勝てる。
そう男が確信したわけは、キリスト教の神様はいずれも横暴の極みで有名だし、東洋の怪物はほとんどが仏教の影響を受けているからだ。
そんな中、一刻も早く本題に入りたいボーソは更なる悪手を打ってしまう。
「それよりも、どうしたら私の世界を救ってくれるのだ」
縋るような目で訴えられた男は、ボーソを無名の木っ端悪魔だと確信した。
根拠はこの状況で商談を続ける鈍感が上級悪魔天である可能性は著しく低いからだ。
男は十字切りアーメンコンボを決めた。
「アーメン」
ボーソは瞬きをした。
「アーメン」
ボーソは爪を気にした。
「アーメン」
ボーソは困惑した。この男は自分を悪魔かナニカと誤解しているのだろうと。
全く持ってその通りだがボーソはその現実を認められず、目の前の男が信心深い変人だと解釈した。ジッサイそれは半分正解だ。
「どんな財でも力でもやるから私の世界を救ってくれ」
男はイエスもノーも言わないお口チャック作戦〝無言の計〟を施行した。この作戦は相手に言質を取らせない最終局面で使用する戦術だ。
頷かない。
首を動かさない。
口を開かない。
この三つを護ることで成立する。
この作戦を実行した理由は、わずかでも了承する素振りを見せたら酷い目に遭わせてくる類の悪魔だとボーソを分類したからだ。それはある意味では間違っていない。
ボーソの打つ手がことごとく悪手になる呪いがかけられているかのようだった。
「なあ、なにが不満なのだ。富も財もくれてやると言っているのに」
男目線では魂など他の物が保証されていないように感じたからなのだが、ボーソはその可能性をすっかり見落としていた。
「なあ、何とかしゃべってくれ」
男は無言を貫いた。ボーソが話すほど男は警戒を高めていった。
そして男は脱出方法の糸口を発見した。
だが、これには〝無言の計〟作戦を一時中止する必要があった。それでも男は躊躇せず口を開く。
「すみません、やっぱりなにか飲み物を出してくれませんか」
そう、男はボーソが飲み物を出した場所が出入り口である可能性を考えていたのだった。
さらにこの言い回しは、何か飲みたいからではなくソレをどこから出すのか見たいという意味にもとれることが、男的には高評価ポイントだった。
「そうか、わかった」
ボーソは躊躇なく虚空に手を突っ込んだ。
男から見るとボーソの手首より先が消えてその断面は真っ赤に見えたことだろう。男は引きつりそうな頬を、意志の力で捻じ伏せた。
「水でいいな」
ボーソの手が見る見る内に生えていくのは精神衛生上よろしくないが、脱出のヒントを見逃さないよう男はその手を凝視した。
お口チャック作戦を再施行しながら。
はたしてボーソの手には水の入った陶器が握られていた。
「どうした、飲まないのか」
無造作に突きつける陶器を前に、男は絶対に口を開くまいと思いながら愛想笑いを返した。
ボーソは眉を寄せた。
最初から敬語で礼儀の正しさを感じさせながら話題を振ってきたかと思えば、いきなり十字を切ってアーメン連呼、その後ほぼ口を開かず、飲み物を催促する。
ボーソには、目の前の男が不気味に見えていた。
だが、だからこそ同時に自分の世界をこの男なら救えるかもしれないという希望も感じていた。
「君は、世界を救うにはなにが必要だと思う？」
ボーソ渾身の優しさスマイルにも男は愛想笑いを崩さない。
「ねえ」
だが男は鉄壁の微笑みを崩さない。
「ねえ」
だが男はオペレーション〝愛想笑い〟を続行する。
「ねえってば」
だが男の表情筋は一ミリも動かない。次第にボーソは恐怖を感じ始めていた。
「水、飲んだら」
だが男は微笑み続ける。
しかし男はただ表情筋を殺していたわけではなかった。ここから脱出し現世に帰る方法を考え続けていた。
実際には奥のふすまを開けて、記憶を失いなにか別の生物に転生する以外の術は無いのだが。
無知故に男は探し続けた。出口を、自らの死も忘れ。
そうして一つ思い当たった。
その名はオペレーション〝胡蝶の夢〟。
夢の中で眠ることで現世に帰るパターンだ。
男は寝転がって、眼を閉じて羊を数えた。一つ、二つ、三つ、四つ、五つ
男は眠れるまで数え続けた。六つ、七つ、八つ、九つ、十つ
ボーソは男がいびきをかき始めた辺りから別な勇者候補の面接を始めた方が良い気がしてきていた。
新たな勇者候補の面接の前に、今回の失敗点をボーソは振り返りだした。
まず相手に死亡を宣告しなかったこと。実の所、この一点に今回の失敗は凝縮されている。
次に押しが強すぎたこと。まあこれも問題として小さくない。
押しが強すぎて裏があると勘違いされたことは、拗れた直接の原因だろう。自分の偉業の一つや二つを語ってやれば多少は楽だったかもしれない。
この男がイレギュラーすぎたこと。
これこそが最大の原因だろう。この男は下手な知識が場を荒らすを体現した存在だったからだ。
非常に惜しい人材だったが面接の結果不採用ということで、男を奥のふすまに押し込んだ。この世界の神との契約的には、無断で自分の世界へ呼ぶのはアウトだがあるべき流れに戻すのはセーフなのだ。
ボーソは輪廻の輪ガチャを回した。
次回の勇者候補がまともであることを願い。
少なくとも次回は自己紹介してくれますように、と。
