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えでん・おぶ・ですとぴあ  作者: 石狩 真冬
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「コウヘイくん、今日なに食べる?」



ついさっきお風呂から上がったらしい男にそう聞けば、米がいい、なんて大雑把すぎる返事が帰ってきた。

彼の私が投げかける問いに対しての答えはいつもこうだ。

適当にも程があるだろう、と私はつねづね思っている。


とりあえず、彼の適当なオーダーを用意するために私は冷蔵庫の扉を開いた。







「「いただきます」」


それなりに広い一軒家に、私達2人の声が木霊する。


ここは彼の家だ。

彼と彼の家族が住まう家に、私は押しかけた。


「味はどうかな。結構自信あるんだけど」

「普通に美味いよ。流石元一人暮らしだな」


一言余計よ、と返しあたたかいご飯を口に運ぶ。今日の晩御飯は親子丼だ。


出汁の旨味をしっかり閉じ込めた玉子と甘い玉ねぎ、ジューシーで程よい歯ごたえの鶏肉。目に鮮やかな緑はミツバだ。その上をとろっとした温泉卵の黄身が流れていく。最高だ。


卵や鶏肉にはちょっと個人的なこだわりがあるから、私は親子丼だけは妥協を許さない。


最初の会話を除けば、お互いの食事の音だけが響く静かな食卓だ。


「ごちそうさま」

「ん、お粗末様でした」


先に食べ終わった彼が食器を片付ける間に、私も食べ終わった。

キッチンに2人で並び食器を洗う。

ただそれだけなのに、心地よい時間だと思った。







食器を片付け終わり、寛いでいた私は、いつの間にか寝てしまっていたようだった。


もうとっくに10代を突破した体でソファーで寝るとなかなかに響くらしい。やや軋む体を起こすと、TVは有名な洋画を映し出していた。

「コウヘイくん、私どれくらい寝てたかな」

「1時間半くらいだと思う」


適当な返事が返ってくると思ったが、しっかりとした回答を貰えてビックリしている私に、彼は紙袋を差し出した。

「まだ薬飲んでないだろ」

「本当だ、ありがと」


ソファーから立ち上がりキッチンで水を用意して薬を飲む用意をした。

××が2錠、○○が6錠……

手のひらの上に積み上がる錠剤を見ていると、急に現実に殴られたような、一瞬で恋が冷めた時のような気持ちになった。

私はそんな思いをかき消そうと、ぐいっと薬を口に突っ込み、一気に水で流し込んだ。








キッチンから戻ってきた彼女はどこか様子が違うように見えた。



ササハラ ハルコ


彼女は高校時代のクラスメイトだった。

特に仲が良かったわけでもなく、ましてや恋人同士だったという訳でもない、ただのクラスメイト。

高校を卒業してからはこれといった接点もなく、彼女がうちに押しかけてきた理由が俺にはよく分からなかった。

高校時代の彼女はよく笑う、女子たちの中心人物みたいなものだった。

突然の再開を果たした彼女は、知性を感じさせる1人の大人の女性になっていて、特に仲のいいわけでもない元クラスメイトの家に押しかけるなんてしないような人物に思えた。


「体調が悪いのか」

「ううん、体調は大丈夫」


体調は、ってことは気持ちの問題だろうか。

残念ながら女性経験はゼロに等しい俺は、女性の気持ちを慮ってどうにかするなんてことはできない。

仕方なく洋画に意識を向けながらも、彼女のことを考え続けていた。





「ねえ、コウヘイくん」


暫くして、彼女が唐突に口を開いた。


「今の私達は幸せなのかな」


思ったよりも真剣な口調の問いに、言葉が詰まった。

俺が戸惑っているうちに、彼女の意識は洋画へと向いていた。

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