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閉じてはいけない箱

作者: 紙禾りく

 星の奇麗な夜であった。会社からの帰り道にふと立ち止まった彼女。どうやら近くの店が気になったようだ。

 その店はビルの間に挟まれて存在した。入口の左に小さく、小物屋との表示がある。どこか人を寄せ付けない佇まいだ。

 店内は薄暗く。外から見える範囲の商品はかなり乱雑に並べられている。それらは統一感が全くなく、そのうえ埃を被ったままのものも多数見受けられる。興味を惹かれるどころか。普通なら入ることを躊躇する店構えだ。


 ところが、なぜか彼女は吸い寄せられるように店内に入って行った。

 店内は思ったよりも広い。左右の棚にところ狭しと並べられた商品。古そうなものから新しいものまで、並べられるところに置きましたと言わんばかりに、無秩序に並べられている。

 それらも、やはり手入れされていないようで、ほとんどの商品が埃を被っている。


「おや、いらっしゃいませお客さん」

 左の棚を見ていた彼女の後ろに、いつの間にかやって来ていた男が声をかけた。どうやらこの店の店主のようだ。

 行き成り現れた店主に驚いたのか。それとも店主の風貌に面食らったのか。彼女は返す言葉に迷っている様子。


 店主の年齢は二十代後半ぐらいだろう。黒色の少しカールしたミディアムヘアに黒い瞳、身長は百七十後半に見える。そこそこ整った容姿、顔には縁の大きな眼鏡をかけている。その眼鏡はなぜか右のレンズだけ空色だ。

 服装は濃い緑色の単位の着物、近づけば格子の模様が入っていることがわかる。なぜか着物の上から黄色いネクタイを締めている。


「……独特のお店ですね」

 どうにか彼女が引き出したのは、そんな言葉だった。

「何か興味を惹かれるものでもおありですか?」

 彼女の言葉には、なんら反応を示すことなく店主は尋ねた。

「えっと、その棚にある箱が欲しいのですが」

 答えた彼女を、店主はじろじろと不躾に見る。視線は上から下へ、下から上へと数度廻る。最後は俯き加減になって、眼鏡の隙間から彼女の顔を注視した。


 その態度にたじろいだ彼女。たまらず声を出す。

「何ですか!」

「……あなたに、その箱はお勧めできませんよ」

 店主はゆっくりと告げた。その声は止しなさいと窘める響きを含んでいるように聞こえる。

「なぜですか?」

 納得のいかない様子で尋ねた彼女。その箱にかなり強く惹かれているようだ。

 店主は問いには答えず、箱を手に取ると店の奥にある帳場に向かう。そして帳場に座ると頬に手を当て目を瞑った。何やら考え込んでいる様子。


「それ! いくらなのですか?」

 答えない店主に、痺れを切らした彼女が少し強い声で尋ねた。

「仕方ありませんね。お売りしましょう」

 店主は答えた。そして言い聞かせるような強い口調で続ける。

「ただ約束してください。この箱は決して閉じないでください」

「はあ、何ですかそれ?」

 要領を得ない言葉に彼女は疑問を持った。


「お会計は千円で良いです」

 質問には答えず、店主は投げやりに値段を告げた。まるで彼女にはもう興味がないと言わんばかりの態度だ。

「はい。千円です!」

 彼女は乱暴に千円を台の上に出すと、箱を手に取り出口に向かった。度重なる店主の態度のせいか、足取りは荒々しげだ。

「決して閉じないでくださいね」

 彼女が店を出る寸前、念を押すかのような店主の声が背中にかけられる。しかし、彼女は振り向くことなく、声が聞こえていないかのように店を後にした。




 彼女は一DKのマンションに住んでいた。年齢は二十八歳、黒いミディアムヘアに黒い瞳、身長は百六十センチ、職業は銀行員だ。彼女の家は比較的片付いており、必要最低限の家具が置いてある。


 家に着いた彼女は鞄から箱を取り出した。その箱は十センチほどの正方形の木でできた箱で、表面には蔦のような彫刻が施してある。蓋はひっくり返した状態で箱の下にある。

 彼女は箱を持ち上げてじっくりと見る。少しして彼女は立ち上がるとタオルを取ってきた。そして箱の埃を拭き始める。


 一通りきれいに拭くと満足したのか笑顔を浮かべた彼女。箱を机に上に置くと夕食の準備を始める。しばらくの間、箱は放っておかれたが、布団に入る前に彼女の意識は再び箱に向いた。

「うーん。蓋できないしなー」

 どうやら、店主の言葉は守ることにした様子。箱を閉じるのはやめておくことにしたようだ。

「とりあえず小物入れとして使おう」




 それから二か月ほど経つと彼女は箱のことなど、特に気にしなくなった。箱は相変わらず小物入れとして使われている。

 箱自体は気に入っているようで、彼女はちょっと大事なものを入れていた。まだ店主の言いつけを守って、蓋は開いたままだ。


 いつものように仕事に出かける彼女。満員の電車にしばらく揺られた後、勤務先の銀行に到着した。

「おはようございます」

 銀行に着いた彼女は同僚に挨拶すると、さっそく仕事に取りかかる。問題なく午前の業務を終えた。

 昼休み、給湯室で昼食を食べていた彼女は、携帯に一件のメールが届いていることに気がついた。そのメールは五歳年上の彼氏からで、内容は今日の夜に話があるので銀行近くの駅前で待っていると書かれていた。


 彼女がその男と知り合ったのは二年前だ。男が銀行に資産運用について相談に来たのだ。

 相談のお礼に食事に誘われるようになった彼女。その縁で一年ほど前に付き合うようになった。


「珍しいわね」

 今まで仕事終わりに男に誘われることはなかった。

 彼女は十九時までには駅に向かえることをメールした。すると、すぐに男から返信が来た。十九時に駅前の喫茶店で待っているそうだ。

 

 昼休みが終わり、彼女は仕事を再開した。

 午後の業務も問題なく終わるはずだったが、先輩の一人が大事な用事があると言って途中で帰った。仕事を押し付けることになることを、真摯に謝っていたので誰も文句を言わなかった。

 しかし、先輩が抜けた分、残っていた業務を片付けるのに時間を要した。

 彼女は急いで銀行を飛び出した。すでに時刻は十九時五分、待ち合わせには間に合わない。少し早歩きで駅に向かう彼女、携帯を取り出すと男に遅れることをメールした。




 彼女が喫茶店に到着すると、いつもの席に座っていた男が迎える。二人は何度もこの喫茶店を利用しており、いつも好んで使っていた席がある。

「やあ、遅かったね」

 男の声はいつもより少し硬かった。緊張しているようだ。

「何か、いつもと感じが違うわね」

 すぐに男の様子がいつもと違うことに気づいた彼女。

「ええ、そうかな」

「そうよ。声がいつもより硬いもの」


「そうか……」

 言いよどんだ男。話そうとするが言葉が続かない。実は、男は別れ話をするために彼女を呼び出したのだ。男は最近、同じ会社の同僚の女性と交際を始めた。だから彼女との仲を解消したいようだ。

「実は、いや……」

 どう切り出すか迷っている男。

「何よ。はっきり言いなさいよ!」

 彼女はきつめの声で先を促した。


 すると男は決心したのか、言いづらそうに別れ話を切り出す。

「その……、実は別れて欲しいんだ」

「えっ!」

 まさか別れ話を切り出されるとは彼女も予想していなかったようで、驚きの声がもれた。

「別れるってどういうことよ!」

 彼女が少し大きめの声で尋ねた。

「えっと、ほら。僕らあんまり会えないし……。趣味とかもそんなに合わないし……」

 本当の理由を言うのが躊躇われたのだろう。男は適当な理由を並べたてる。ただ、本当に思っていることではないからか、自信のない弱々しい声だ。


 二人は確かに仕事の関係で一緒に出かけたりする機会は少なかった。ただ、二人とも趣味と言えるほど、のめり込んだことを持っているわけではない。

 そこまで好みが被っているとは言えないが、相性が悪いということもない。傍目から見たら問題のない普通のカップルに見える。


「嘘でしょ。他に女でもできたんじゃないの!」

 男の様子に不信感を抱いたのか。彼女は少し強い口調で言った。

「い、いや違うよ。ただ、こうなんと言うか、君とは合わない様な気がするんだ。仕事も違うし……」

 図星を突かれた男は慌てて否定したが、うまく言葉が続かない。

「別にそんなこと、私は気にしないわ」

「僕が気にする! 君は仕事ができて、おまけに美人だ。きっと僕には相応しくないよ。長く付き合ってわかったんだ」

 別れ話の方向性が決まったようだ。さっきよりも自信のある口調になった男。


「そんなんじゃ納得できないわ」

「君が素晴らしい女性だとはわかってる。だけど、僕が君と付き合うには未熟だと思うんだ。だから、きっとこの先無理が出てくる。君が悪いわけじゃないけど別れたほうが良いと思う」

 なんとか穏便に別れたい男。言い訳がましく言葉を重ねた。

「だから、そういうことじゃなくて……。私はあなたのことが好き! あなたはどうなの? もしかしてもう嫌いになったの?」

 彼女は不安そうに尋ねた。

「嫌いではないよ。だけど……。その……」


 その後もなんとか別れたい男が、彼女が納得できる説明をしようとしたが、逆に彼女はヒートアップしていった。二人の口論はすでに十数分続いている。

「君と居ると疲れる。お互いにもっと良い相手が居るのじゃないかな!」

「何よそれ! やっぱり、他に女ができたのじゃないの!」

 はっきりしない態度の男。適当なことを言っていると確信を深めた様子の彼女が再度問い詰めた。


「うっ、ごめん……。実はそうなんだ。……だから、君との交際は解消したいんだ」

 どうやら男も観念したようで、正直に本当のことを言った。

「信じられない」

「ごめん……」

 しばらくの間、沈黙する二人。重苦しい空気に、時間の流れが急に遅くなったように感じられる。


 おもむろに彼女が言う。

「そんなの、納得できない」

「ごめん」

「私と付き合っていたのに、他の女を作るなんて最低!」

「ごめん……」

「私はもう何をしても無駄なの? 悪いところがあったら直すから……」

 悲痛な声の彼女。男に考え直して欲しい様子。そんな彼女の言葉を途中で遮って男は言う。

「ごめん。君は悪くない……。けどもう君は一番じゃないんだ!」

 男の決意は固そうだ。


「なんでよ。私、あなたのこと大好きなのに……」

「ごめん」

 しばらくの間、彼女のすすり泣く声が響く。

「わかったわ……。しょうがないし別れましょ」

 弱々しい声で言った彼女。

「ごめん」

 結局、彼女も引き留めても仕方がないと思ったようで。男の提案を受け入れた。




 家に帰ってきた彼女は、布団に倒れ込み呟く。

「最悪」

 あの後、すぐに喫茶店を出た彼女は重い足取りで帰宅した。

「ああ、腹立つ」

 布団をバンバンとたたく彼女。しかし、振り下ろす腕は自然と力なく弱っていった。

「最悪」

 彼女は再度呟いた。しかし、その声は先ほどとは違い涙交じりだった。どうも怒りで悲しみを和らげようとしたようだ。


 寝返りを打ち仰向けになった彼女。携帯を取り出すと、友人に電話をかける。その友人は高校と大学が一緒で、今でも交流が続いている親友、彼女のもっとも仲の良い友人だ。

「この時間だと出ないかな」

 呟いた彼女。時刻は二十一時十五分だ。しばらくの間、呼び出し音が鳴り続けた。


「もしもしー」

 やっと電話に出た友人。

「もしもし。ちょっと聞いてほしいことがあるのだけど。時間良いかな?」

「おお? 大丈夫だけど。何か怒ってない?」

「怒ってるわ」

「うわー、めんどくさそう……」

「ちょっと! いつもあんたの愚痴聞いてるでしょ。今度はこっちの番よ!」

「冗談だよ。それでどうしたの?」

 友人は苦笑混じりに言った。

「……彼氏に振られた」

 沈んだ声で彼女は言った。

「えっと……。ご愁傷様? 今日はとことん付き合うよ」

 

「ありがとう。それでね、腹が立つのはね。他に女ができたらしいのだけど、きっぱりと言わなくて何か適当な理由を並べたてて、別れてくれって言われたのよ!」

「しかも、すっごいおどおどした話し方なの。だからすごくいらいらしたの! そのうえこっちが責めると小さくごめんって謝るだけ。もうちょっと言い方とかあるでしょ!」

 悲しみを誤魔化すかのように、どんどんヒートアップしていく彼女。その後も彼女の怒りは収まらず、果ては交際時代の不満を次から次へと、話し始めた。結局、友人が解放されたのは深夜を過ぎたころだった。




 目を覚ました彼女は、窓から差し込む光が眩しかったようで顔を背けた。そして、頭の上に置いてあった携帯を手探りで掴むと時間を確認した。時刻は十時十分だ。平日なら完全に寝坊している。幸い今日は休日だから問題ない。

「はぁ……。どうしようかな」

 どうやら昨日のことを、引きずっている様子。

 彼女は悲しいことや嫌なことを、いつも引きずってしまうタイプだ。もうどうしようもないとわかっていても、未練が断ち切れないのだろう。


「あんな男なんて忘れるのよ私」

 彼女は気持ちをリセットしようとするかのように声に出した。

 気持ちをすっきりさせるために、シャワーを浴びることにした彼女。昨日は友人と電話で話して、そのまま寝てしまっていた。

 布団から立ち上がった時、なぜか彼女は立ち止まる。机の上に置いてある例の箱に視線が固定されていた。箱は別段いつもと変わらないがどうしたのだろうか。

「何か、すごく気になる」 

 彼女は箱が気になる様子。


「何これ?」

 彼女は戸惑った様子で、ゆっくりと机に近づいた。そして誘われるように箱を手に取る。

「駄目だ。どうしても閉じてしまいたい」

 どうやら箱を閉じたいらしい。

 ただ、小物屋の店主の閉じてはならないとの言葉を思い出したのか。なんとか意識を別のところに向けようと彼女は頭を振って、箱から視線を外そうとした。

 しかし、やっぱり目が離せないようだ。

 

 彼女は自然と蓋に手をかけた。彼女の衝動は自分でも止められないほど強いものらしい。

「大丈夫よ。何も起こらないわ」

 そして、自分に言い聞かせるように呟いた彼女。遂に箱の蓋を閉じてしまった。箱を閉じた彼女は少しの間、微動だにしない。

「やっぱり何も起こらないじゃない……」

 彼女は呟いた。どうも何も変わったことは起こらなかったようだ。

 あの店主の言葉は何だったのだろうか?


「あれ、開かないや」

 動き出した彼女が蓋を開けようとしたが、どうやっても開かない。すぐに開けるのを諦める。

「まあ、良いか」

 彼女は興味を失ったように箱を机に置いた。確か、彼女にとって結構大切なものが中に入っていたはずだが、中身は良いのだろうか。





 彼女が蓋を閉じて少しして、呼び鈴が鳴った。

「はーい」

 大きな声で返事をした彼女。

「誰かしら?」

 呟きながら扉を開けるとそこには、箱を売ってくれた小物屋の店主が居た。

 今日は黒のスーツ姿に前と同じネクタイをしている。そして顔には例の特徴的な眼鏡をかけている。


「あの、何か御用ですか?」

「あなた、あの箱を閉じましたね」

 彼女が尋ねると店主は答えた。

「ええ」

 気のない返事の彼女。

「そうですか。では箱を返していただけますか、別に構わないでしょう?」

 箱を返してくれと要求した店主。彼女は渋るかと思われたが、意外にもあっさりと箱を返すことを了承する。

「ええ、わかりました」


 一度部屋に戻ると、箱を持ってくる彼女。

「どうぞ」

「たしかに。おや、中に何か入っていますね。これはお返しします」

 店主は箱を受け取ると、あっさりと蓋を開いて中身を返した。そして、すぐに帰って行く。

「何だったのかしら?」

 彼女は呟いて扉を閉めた。


 しばらくして、またもや呼び鈴が鳴った。彼女が玄関まで出ていくと、今度は友人の姿があった。

「やっほー。今頃、塞ぎこんでいると思って、慰めにきたよー。

 彼女との付き合いが長い友人は、彼女が引きずりやすいことも知っていた。なので、昨晩の様子から心配になってやって来たのだ。

「どうぞ、入って。ちょっと散らかっているけど」

「今更、気にしないよ」

 部屋に案内する彼女。


「じゃーん! ケーキを買って来ました。好きだよね」

 友人は持っていた紙袋からケーキの包みを取り出して机に広げた。

 それは、彼女が好きな店のケーキだ。落ち込んでいるであろう彼女を元気づけるために友人が買って来たのだ。

「ありがとう」

 彼女は淡々とした声で、感謝を告げた。

「あれ? 何かあんまり嬉しそうじゃないね。もしかしてダイエットでもしてた?」

 友人はもっと反応があると思っていたようで、疑問を口にした。


「いや、そうじゃないけど……」

「まあ、いいや。ほら食べようよ」

「ええ」

 友人に勧められて、ケーキを食べる彼女。しかし、何やら首を傾けて府に落ちない様子だ。

「どしたの?」

 友人が尋ねた。

「私、何でこのケーキ好きだったんだろう?」

「えっ、何言ってるの。いつも美味しいって言って食べていたじゃない」

「そうよね。でも……。あれ?」

「もう。何か今日変だよ。昨日のことが原因だったら、話聞くから全部ぶちまけちゃったほうが良いよ」

 友人は心配そうに言った。


「昨日のこと……」

 やっぱり何か様子がおかしい彼女。

「どしたの?」

「昨日は悲しかったはずなのに、今思い出しても、もう何とも思わないわ。」

「それなら良かったじゃない」

「いや、そうなんだけど……。あれ? やっぱり何か……。好き……。悲しい。あれ、だから何なのだっけ?」

「もう何言ってんの意味わからない!」

 要領を得ない発言をした彼女に、友人が少し大きめの声で言った。

 その後も、彼女はおかしな発言ばかりを繰り返した。友人も心配して声をかけ続けたが、二人の認識が刷り合うことは無かった。




















 だが、それも当然だ。あの箱は閉じてしまった者から「不幸に思う心」を奪うのだ。だから彼女は幸福かどうかを判断できなくなった。

 物事には表裏があるからこそ、そこに想いが生まれるのだ。例えば白と黒の二色しかない正解があったとしよう。その世界から白か黒、どちらかの色が失われた時に世界は色という概念を失う。

 不幸と幸福、どちらか一方が欠けてしまえば、人は何も感じなくなる。

 彼女は箱に「不幸に思う心」を奪われたことで、一生不幸を感じることは無くなった。果たして、それは彼女にとって幸福なことだったのか?

 もはや、幸福も感じることができなくなった彼女には、答えることはできないだろう。

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