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合流

『レイ様、ご報告です』

「おかえり、ナギ。ありがとう」


 遠方まで偵察に行ってもらっていたナギが、情報を持って家に帰ってきた。


 速さが自慢の風精霊はヒスイとフウマも合わせて三人居るが、一番こういう役目に向いているのはナギである。

 ヒスイは頼まれるまでに少しごねるし、フウマは密偵という役割に向いた性格ではない。

 まあ、二人に頼んでも十分な働きはしてくれるのだろうけど。


『──ということでした。内部の対立が進んでいます』

「わかった、ありがとうナギ」


 ナギらしい簡潔な説明を受けて、お礼に魔力を手渡す。


 彼女に調べてもらっていたのは、隣国──ナディアの住むフランクールの内情についてだ。

 結果として、ナディアのこちらへの合流が遅れた詳細な理由が判明した。


「お父さんが狙われたか……」


 どうやらあちらでは、ナディアの父である元皇太子の暗殺未遂が起こっていたらしい。

 幸い、暗殺者は事前に取り押さえられて大事には至らなかったようだが、ナディアの一家には厳重な警戒網が敷かれたという。


 ……内紛を起こしている暇は無いだろうに……


『隣の国って確か前、あの強いニンゲンが……』


 ルリがフランク団長との会話を思い出して呟く。


「そうだね、北の大国ルスアノと戦争が始まるかもしれない」

『バカなのかしら?』


 ばっさりとヒスイが切り捨てるが、俺も同感だった。


 ナギの調べでは、直接賊をけしかけ罰せられたのはそれなりに地位はあるが、言ってしまえばそれなりでしかない末端の人間である。

 しかし、おそらく更にその裏にいる人物は違う。

 フランクール共和国を司る中央議会の議員の誰か、もしくはその一派閥だろう。


 彼らが、隣国ですら気付き始めている戦争の気配を感じていないとは思えない。

 内と外、両方でやり合おうと考えたところで、待っているのは破滅しかないだろうに。


 ……まあ、皇帝の血を継いだ彼を、今だからこそ担ごうとしている奴らもいるのは確からしいけど。


 帝国時代のフランクールは超大国だった。

 そして、その礎を築いた初代皇帝は、この世界でもエルフの始祖や"サムライ"などと並ぶレベルで語り継がれる程の英雄である。


 そして、血の繋がりが重視される文化は、共和制になっても強く根付いたままだ。

 かつての姿を望む者達にとって、直系である元皇太子とその一家は、彼らの旗として極めて重要な存在になっているのだろう。


 今の国で主導権を握る"議会派"としては、北の大国とやり合う前に、内紛の芽となる"皇帝派"を潰そうという算段だったのかもしれない。


『もしかするとなのですが』


 そんな思考を垂れ流しにしていたら、カイトが口を開いた。

 彼は小精霊の四人、いや、もしかすると精霊六人の中で一番頭が働く。


「何?」

『北の大国が議会派と繋がった可能性もあります』

「……なるほど。考えてなかった」


 両者は敵国である。

 一見すると、そこが繋がるメリットは無いが、合点が行く部分はある。


『どうして?』

「旧帝国領に、今はそれぞれ独立した国家があるんだけど、だいたい北の大国と面しているんだ。あの国は途方もなく広いらしいから」

『それがどう繋がるっていうのよ』

「その国々とフランクールは、詳しい事情は省くとして、今でもなかなか深い協力関係にあるんだ」


 独立した時、自分たちの北に面する大国を恐れた新たな国達とフランクールが結んだ軍事同盟がある。

 戦争が起こる可能性が極めて高いのはそのためであった。

 今のままでルスアノが元帝国領のどこかに攻め込めば、フランクールはほぼ間違いなく参戦する。


「なんだけど、その同盟は多分、皇帝派にしか得がないんだよね」


 かつての帝国時代の繋がりを維持しておきたい皇帝派としては、その軍事同盟は喜ばしいものである。

 恩を売ることもできれば、もしかしすると再びフランクールが帝国となった時に併呑するのも容易になるかもしれないからだ。


 しかし、議会派としてはこれといったメリットは見受けられない。

 むしろ、共和国としてのフランクールのみを考えるなら、お荷物でしかないと言えた。


 ……だが……


 何がメリットデメリットになるかは判断がつき兼ねる。


「もう少し情報を集めたいな」

『お呼びでしょうか、レイ様』

「呼んでないけど、シズク、頼み事。ナギも」


 水と風、一人ずつを呼んで指示を出していく。


 今は多分、このくらいで十分、だろう。



 ****



「ご心配を、おかけしました」


 ナディアが、俺とローレンスに向かって頭を下げた。


「いいんですよ、ナディア」

「移動にゴタゴタするのは、よくあることですよ」


 始業から一週間が経ってようやく、この週末にナディアとそれからカミーユは、留学生の使う転移陣を使ってこちらに来られた。

 今は週を明けた日の昼休みで、早速三人で図書館の近くに集まった。


 手紙にあった通りに、彼らは用事だったという建前を貫き通すようだ。


 カミーユにはおそらくどの程度知っているのか探りを入れられるが、知らぬ存ぜぬを突き通したい。

 色々と調べたが、噂話のレベルから逸脱した内容までついでにつらつらと話してしまいそうである。


「学年のスタートが遅れてしまった分、大変でしょう」

「何かサポートできることがあれば言ってください」


 本当に何も知らないローレンスに合わせて、話を進める。


「ありがとうございます、二人とも」


 しばらくは意識して俺もナディアの近くにいられた方がいい。

 彼女が申し出に感激していてくれるのがありがたい。


 というのも、向こうでの事件を引き起こした者とおそらく近しい関係にあった者の子女が数人、新入生や同級生としてこちらに留学してきている。

 学内で事が起きるとは少し考えづらいが、警戒をしておいて損は無いだろう。

 ありがたいことに、俺の実力は新入生にも何故か知れ渡っていて、近くに居られればそもそもの抑止効果も期待できるのだ。


「二人は、お変わり無かったですか?」

「はい。冬の間は領地で兄達と特訓に明け暮れていました」

「ふふ、ローレンスらしいですね。レイはどうでしたか?」

「冒険者として少し活動して、何度か技専にも顔を出しましたが、特に大きなことは」


 秘密基地を作って人工皮膚の作成にこだわっていたり、それを使って犯罪者を一網打尽にしていたり、技専で盗み見てきた技術を使って鍛冶とか調合をしていた。

 なんて部分はしっかりと飲み込んでいる。


「大きなことは、ってレイ。お前なんか、立場はだいぶ変わっただろう」

「? レイはどうかしたのですか?」

「いや、ああ、そうですね。幼馴染と弟子が入学して来たので、彼らの相手はしています。冬というより、現在進行形での話ですが」


 ナディアにも早いうちに紹介しておいた方がいい二人だろう。

 客観的に考えてもそうだし、何故かわからないが俺の直感が隠すことを良しとしていない。


「幼馴染……というのは一つ下の?」

「はい。いつかお話したことがあるとは思うのですが、冒険者をやっている幼馴染の、妹です」

「ああ、覚えていますよ。リーナ、というお名前でしたか」


 ナディアは、以前俺が少し話に出しただけのリーナのことをしっかりと覚えていたらしい。


「それから、話をしたことは無かったのですが弟子ができまして──」


 ウェインとの出会いを掻い摘んで話していく。

 興味深そうに聞いてくれて何よりであった。


 それから、ナディアに尋ねる。


「早く二人を紹介したいと思うのですが、明日にもここに呼んでしまっても構わないでしょうか?」

「ええ、もちろん。私も早くお会いしたいです」

「二人とも、レイによく懐いていて、悪いやつじゃありませんから、きっとナディアも気に入りますよ」

「あら、ローレンスはもうお会いしていて?」

「はい。冬の終わりは共に過ごしていました。ウェインは特に見どころのあるやつですよ」


 それで、明日の昼食後、またここで会うことになった。

 これまでの三人でのお茶会に紹介したいゲストとして招くだけだが、おそらく、今後も五人でのお茶会になるのではないかと予感している。



 ****



 午後の授業が近づいたことを知らせる鐘が鳴った。


「それじゃあ」


 次の選択授業は全員が違っているから、その場で挨拶をして、分かれて教室に向かう。


 一人になった後、足を進めながら制服の胸ポケットを探った。

 出てきたのは折り畳まれた小さな紙片である。


「器用だな」


 茶の準備をしてくれていたカミーユが、他の二人に気づかれないようにしながら落としたものだ。

 中を開いて目を通し、再びポケットにしまう。


 内容は一つだけで、今日の夜にいつかの街角で待つというものだった。

 どうやら、拒否権は無いらしい。


 ……さてと、どこまで話してくれるかな。


ありがとうございました。


感想、ブックマーク、評価、レビュー、心からお待ちしております。



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