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幼馴染とあれこれ

「いつまでやってんだ? それ」


 あまり長い時間では無かったと思うが、天下の往来での行為である。

 リーナの後ろ側から呆れたような声がかけられた。


 リーナと目を合わせ、二人でそういえば村の中ではなかったと気づくと、互いに笑って距離が離れる。


「……」

「……」


 俺の後ろではローレンスとウェインが二人とも呆気に取られていた。

 しばしの間を置いた後ローレンスは、レイがあの距離に人を入れるのかと呟いていた。


「でも、レイお兄ちゃんが変わっちゃってたらどうしよーって旅の途中はリーナがうるさかったけど、いつも通りで良かったよ」

「ちょっと、ラス!!」


 下手くそな声真似でラスが妹を茶化す。


「はは、一年じゃそんなに変わんないよ……ラスは、だいぶ背が伸びたみたいだけど」

「あー、そうだな。レイが縮んだかと思ってた」

「おい」


 俺がまもなく来るであろう成長期を待ち望んでいた間、ラスは喉仏が出来て、声が低くなり、背が高くなっていたらしい。

 百七十センチは超えているだろうな、と目算する。

 俺の身長はせいぜい百五十ぐらい、いや、それよりもう少し低いか。


「……だけど、変わってないな」

「……へえ」


 先程までは軽口を叩いていたが、今はラスが畏れを含んだ目で俺を見ていた。

 相手の実力を測る力が備わってきたらしい。


 多分昔見ていた俺との比較で、内にあるものを推測したのだろう。


 そこでラスに手招きし、耳を近づけさせる。


「風が一人、それから水と風で小さいのが二人ずつ増えてるぜ」

「! ……」


 他に聞こえない声でささやけば、ラスはガバッと顔を上げて驚いた後、呆れ顔になった。


「わけわかんねえよもう」

「旅の途中で偶然会っただけだったんだけどな。……って、旅で思い出した。ラス、お前がここまで来たってことは……」


 ヒスイ達のことを伝えると、去年の道中を思い出し、その過酷さを思い出す。

 それから、旅に出られる条件のことを。


 そしたら、案の定だったようだ。

 誇らしげな顔でメダルを取り出した。


「去年の春に上がったよ。オレもCランクだ。まあ、ここまではロイさん達に一緒に来てもらったけど」


 ロイさんというのは、一昨年の夏頃からウォーカーの街を拠点にしていCランク冒険者だろう。

 ラスだけでも恐らくここまで一人で来るのは至難だっただろうし、リーナもいるのだから、実力のある冒険者とやって来るのは当然だ。


 俺と投げやりに比較して肩を落としかけるラスに、素直に拍手を送る。

 一年と少しでのCランク昇格も、異例中の異例だ。


「Cランク!?」


 その証拠に、後ろでウェインがぎょっとした。


「すごいことなのか?」

「すごいも何も……師匠はともかく……」


 冒険者の内情を詳しく知らないローレンスが、ギルドで育ち冒険者をよく知るウェインに尋ねた。

 ローレンスは俺がCランクと明かした時も、あまり驚いていなかったと思い出す。


 二人がこちらに聞こえる声で話していたので、良い機会だろうと呼び寄せる。


「二人に紹介するよ。こいつは村の幼なじみで、冒険者仲間だったラス。それからこっちが」

「ラスの妹のリーナです。トルナ村から参りました」


 俺が紹介しようとすれば、リーナは自分で言葉を引き継いだ。

 リーナが挨拶と共に披露したお辞儀は文句の付け難い完成度であった。


 ローレンスとウェインの二人も、リーナに応じて綺麗な礼を見せながら挨拶を返す。


「私はローレンス・フレッチャー、レイの学友だ」

「ウェイン・ベインズ。レイ師匠の一番弟子だ!」

「師匠……?」

「お前、弟子取ってんの?」

「成り行きでな。今日からだけど」


 掻い摘んで全員との出会いのあらましを双方に伝えていく。

 ちなみに、ウェインは全体の七番手程度の成績で合格を果たしていた。

 今日から正式に俺の弟子であるから、俺に迷惑をかけない程度なら好きに言わせておくようにした。


「リーナも、さっきの感じだと」

「うん、合格してたよ。侍従科の十組」

「良かった。おめでとう」


 リーナの雰囲気を見て薄々察していたが、彼女も十組だったらしい。

 これでここにいる学園生の四人全員が十組ということになった。

 単純計算、学園内の十分の一しか居ないはずなのだが……


 そういえば治癒師科のナディアも十組だし、魔法科のアリスも十組だ。

 貴族科と薬師科、それから他の学生には大した知り合いがいないし、俺の知り合いは全員十組ということになってしまった。


 ……あー、いや、シャーロットは違うか……


 侍従科では、人に仕えない立場になることが確約されている貴族の子女は、実力で分けられるクラスに属さない。

 花嫁修業としての授業を受けつつ、他の生徒達の教材として、授業に参加するのだ。


 ……って……


「はあ……」


 嫌な予感、というか確定的な未来が頭の中に浮かんでため息が漏れた。


「? レイお兄ちゃん、どうしたの?」

「……いや、ちょっと、な」


 下を向いた俺の顔を覗き込むリーナの顔立ちを確認してまたため息が出そうになったが、今回は抑えた。


「レイ、私もおそらく同じことを考えているぞ」

「ローレンスでも思いつくんだもんな……」

「む、否定はしきれんが、酷くはないか?」

「はあ……いや、まあ、悪いことばかりじゃないし、むしろありがたいんだけど」

「?」


 可愛らしく疑問符を顔に出すリーナの頭をポンと撫で、むしろ後で俺からシャーロットに頭を下げておいた方が良いかなんて考えてしまう。


「二人で何の話してるんだ?」

「知り合いの侍従科貴族様の話。ちょっと色々面倒というか、なんというか」

「貴族様……」

「リーナは心配しなくていいよ」

「ううん、頑張る。リーンさんからも言われたの」


 不安そうな顔をしていたから去年の自分を思い出して声を掛けると、リーナが首を横に振った。

 リーナには珍しい反応だった。


「いっぱい頼れる人を見つけなさいって。……レイお兄ちゃんにも助けてもらうかもしれないけど……頑張る」

「そっか、頑張れ」


 リーナが頑張ると決めているなら、俺は応援に専念しよう。

 それで、助ける時になったら全力で助けてやろう。

 うん、それでいい。


 そう心に決めていると、他の三人が所在なさげに、ラスは特にうんざりした顔でこちらを見ていた。


「なんだよ」

「いや? 相変わらず仲が良くてよかったと思ってるだけだ」

「村でもこんな感じだったのか?」

「いや、もっとベタベタしてたよ。手を繋ぐなんて当たり前。さっきのハグも、二人にしては普通だな」

「……それは、本当か?」

「師匠すげぇ」


 ローレンスがこの一年見て来た俺とのギャップに目を見開く。

 ウェインも女っ気は無かったらしく、純粋な尊敬の念が口から漏れていた。


 まあ、俺も同じぐらいしか人生経験が無かった頃は似たようなことを言っていたと思う。

 大切なのは何が大切かを知っていることである。


「……どおりで他の女子から人気のはず──」

「お兄ちゃん、それホント!?」


 ローレンスが要らないことを呟くと、間髪をいれずリーナが食いついた。


「……あんまり否定はできないけど、特に何も無いよ」


 最初の頃は遠巻きにされていたわけだし、本当に特に何も無い。

 愛の告白だなんてものも、学園の気風なのか全く無かったし。


「それに、俺のことを未だに女と思ってる層も半分ぐらいは居るだろうし」

「……男の子の制服を着てるん、だよね?」

「騎士科の伝統でな──」


 男装女子がそこそこいるせいである。

 彼女らに性別を断定して何かを言うのは不文律で禁止されているから、噂レベルでしか性別は確認されることがないのだ。

 まったく、早く成長期が来て欲しいものである。


「ラス、堪えられなかったら、分かってるな?」


 学園の慣習について話している間、リーナの後ろで今にも吹き出しそうだったラスに釘を刺す。


「学園でパワーアップしたレイの説教は無理だ」

「よく分かってる」


 なんてふざけたりもしていると、話はリーナ達が学園都市に来るまでについてとなり、今とこれからの話になった。


「──二人で宿を取ってるのか」

「ああ、リーナが入寮するまで」


 リーナは寮に入ることになっていたらしい。

 家の経済状況を考えれば当たり前だ。

 むしろ、それでも必要経費だけでも苦しいと思うのだが……


「あっ!」


 リーナが肩からかけていたカバンを漁り始めた。

 そこから取り出したのは見慣れた便箋に入った手紙だった。


「これ……」

「母さん達からの手紙だな」


 時期的に、夏に入った時に出した手紙の返信だろう。

 そうアタリをつけて受け取った便箋を開く。


『────リーナちゃんに会えてよかったわね。──実は彼女の入学に、うちから幾らか援助をしてます。────』


 目に飛び込んできたのは母さんの字で書かれたそんな文面だった。

 返信としての手紙は前半に書かれていて、これは後半部の冒頭だ。

 なにやら、リーナがここに来るために母さんが渋るリーナの両親を押し切って色々とお金を出したらしい。


 ここまでの旅費、冒険者への報酬、学園都市での初期費用、授業のための道具類、諸々だ。

 一般的な村の暮らしをするリーナの家では到底払いきれなかっただろう。


『──リーナちゃんも私の娘みたいなものだから、色々買ってあげちゃったの──』


 約束としてはリーナが職に就いたらゆっくり返していくというもので、日本の奨学金を思い出す。

 うちには明らかに使い切れないだけの金貨の山があるから、これは俺も問題はないと思う。


 だが、次の文字が読めてしまって、俺は反射的に手紙を閉じた。


『──でもまあ、結局あなたの借金になるでしょうから、あんまり気にしてないわ──』


 ……おい。


 反射的にリーナの方に視線を投げかけた。

 なにやらモジモジしている。


「……」

「……」

「はははは、リーンおばさん、ずっと言ってたぜ?」


 乾いた感じに笑ったのはラスだ。

 ラスで知っているということは、リーナも知ってるのだろう、いや、確実に知っている。


 今のモジモジは考えるまでもなく、まんざらでもないという様子だ。


「何が書いてあったというのだ?」

「あー、それはレイ君の将来に関わる話だから?」


 珍しく俺をいじれる材料があるということにラスは強気で、ニヤニヤしながらローレンスの質問に茶を濁す。


 ……何言っちゃってくれてんだか。


 ため息が出そうだが、リーナの前でそんなことはしない。


「大体は把握したよ」


 ここは優しく曖昧に笑っておこう。

 結婚というものをまだ考えられる程、俺も大人ではないし、リーナだってまだまだ幼すぎる。

 貴族ならフィアンセが決まっていく時期だが、俺たちは平民だし、仕事に就いてから考えればいい。


 ここは一旦保留にすると決めて、話を切り替えていく。


「じゃあ、ラスはしばらくこっちに居るんだな?」

「……レイ?」

「レイお兄ちゃんが見たことない顔した……」


 ラスの危機察知能力は相当上がっているらしい。


「ちょうどウェインを弟子に取って、修行が本格スタートするとこだったしな」

「あー……ちょっと仕事に行くかも? ほら、見習いだから休んでられないし!」


 逃げようとするラスの肩を掴む。

 体格差があっても、力の差はない。

 むしろ最大出力は俺の圧勝だ。


 魔力があってよかった。


「痛たたたたたたっ!!!」

「せっかく一年ぶりに再会したんだ、ゆっくり剣でも交えながら話そうぜ」

「オレは何も悪くないだろー!」


 ラスの絶叫がこだました。


 ……いーや、ラス、お前は絶対笑ってた。


 確証がある。

 というか、さっきも後ろ向いて笑ってた。


「ウェイン、いい相手ゲットだ。行くぞ。ローレンスも準備あるか? 」

「はい!」

「すぐに準備する」

「リーナも、おいで」

「うん!」

「ちょっ、リーナ、レイを止めてくれ!」

「ラス、旅の途中の話、もっとする? 例えば、レイお兄ちゃんがオレの義弟になるんだなんて言ってたこととか」

「ちょっ、言ってる言ってる、痛ってえ!!!」


 さあて、ラス、色々吐いてもらうことがありそうだ。


ありがとうございました。


ブクマ、感想、レビュー、お待ちしております!

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