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学園祭二日目

「あー、その、なんだ……今日も応援を頼めるか?」

「仕方がないな。◆◆◆◆⋯⋯【リフレッシュ】」


 二日目の朝、会場に向かうローレンスに魔法をかける。

 昨日、本人曰くこの魔法のおかげで勝てたらしいから、今日も勝利を祈って額を指で突く。

 昨日よりちょっと強めに。


「いたっ……お前」

「頑張って来いよ」

「……おう」


 額を抑えたヒラヒラと手を振って、友人を見送った。


「さて、今日からは見学を決め込むかな」


 ポツリと出るのは独り言。

 残念ながら、俺のように暇を持て余した友人は見当たらないのだ。



 ****



 昨日の試合終了後は多くの野次馬に囲まれて、抜け出すのにも一苦労だった。

 お疲れ様とか、感動したとかそういう声はありがたいのだが、身動きを取らせないのは勘弁してほしい。


 そんなところで助けてくれたのが、知り合いの貴族達である。


「やっぱり、君は最高だね」

「ウィルフレッドと、あれほど互角に戦えるのか……」

「楽しませてもらったわ」

「驚いた」

「レイ、あなたはやはり素晴らしいですわ」

「やっぱり、あなたすごいのね」


 カイル、グレン、ジェシカ、マーガレットといったクラスメイトたちと、彼らと一緒に居たらしいシャーロットとアリス。

 それから……


「俺も、まだまだだったな」


 つい先程まで剣を交わらせていた、ウィルフレッド。


 その顔ぶれは俺にさえ、俺の知り合いってこんなに豪華だったか、と思わせるほどである。

 周りの上下入り乱れた野次馬たちにもそれは同様だったらしく、彼らの登場にどよめいた後に急に静かになった。


「助かっただろ?」

「お役に立てて何よりですわ」


 ピタリと隣に着いた二人が、にこやかな笑みでそれぞれにアピールしてくる。

 二人ともそれなりの魔力を持っているのだからひりつくのはやめて欲しい。

 無意識か意識的かは知らないが、威圧が漏れている。

 俺が見た目通りの存在だったら卒倒ものだ。


「おい、あそこの二人ともレイを?」

「そうか、其方は知らなかったか」

「私には、カイルが口説いてるのを女友達のシャーロットが阻止してるように見えるのだけど」

「アリスの冗談なんて珍しいわね、けど同感だわ」

「あら、それならレイはわたくしが頂いたということでよろしくて?」

「笑えないなあ」


 最後の方の冗談はさておくとしよう。

 ただちょっと、カイルの最後の威圧は俺でもピリッと来たということだけ伝えておく。


 それで、昨日は彼らに守ってもらった訳だが、今日はそうはいかない。

 不本意ながら今日試合が無いのはクラスでは俺一人だし、誰も助けてくれる人はいない。

 辛うじてシャーロットはおそらく余裕があるが、彼女に頼るのはどうなるか分からないから御免する。


 それから貴族達に関わらず、ローレンスもナディアも手は空いていない。

 技専のダニーやシンディも、俺の試合以外にはあまり興味がないのと人混みに疲れたようで、今日からは気分であると言っていた。


 というわけで、正真正銘の一人である。

 俺の心持ち的には。



 ****



 完全な気配遮断を使えないのが、今日の難点だと言えた。


 ……人の目が多すぎる。


 学園のど真ん中にいるわけじゃないから、いつもの街と人の数は大して変わらない。

 けれど、ここにいるのは貴族や富豪、騎士といった、魔術に精通した者達だ。

 中には魔術師もいくらかいて、完全な隠形でも見つかる可能性が充分ある。

 そのレベルで気配が消せることを知られたくないわけでもあるから、気休め程度にしかかけられない。


 時たま投げかけられるじろりとした視線が気にかかる。


「いっそのこと目立てばいいんじゃないか? もしくは、さらに深めるか」

「……これが限界、とは思っていただけないのでしょうか?」

「あいつの教えをあそこまでも体現するやつが、"常闇"の薫陶をこの程度しか受けれていないとは思わんな」

「……」

「うおっ! …………そこか!!」

「……流石に"無敗"と呼ばれるお方には見つけられてしまいますか」

「いや、しかしあれだけ時間を奪えるのであれば逃げるには充分だっただろう」

「……貴方からは一旦逃げてもどうしようもないと思いますよ……今も団員の方々を撒いてきてるのでしょう? フランク様」

「ハッハッハッハ」


 クラスメイトの試合を見学に学内を巡っていた。

 ローレンスの試合の見学に、端の方にある第二十四運動場に居た時、騎士団長に見つかった。

 彼も闇の属性を持っているから、当然のように目立たないように工夫している。


 彼ぐらいの役職なら見学の日程は決められていると思うのだが、職務放棄にはならないのだろうか。


「それで、君のお目当ては……あー、彼か?」

「……お気遣いありがたく思います。はい、私のクラスメイトで、ローレンス・フレッチャーと言います」

「ローレンスか……悪くは無さそうだな」


 試合開始の時間になって、ローレンスがフィールドに出てきた。

 集中しているようで、こちらに気づいている様子はない。


 相手は一年の八組である。

 普通にやれば、負ける相手ではない。


「始まったが、うん、悪くないな」

「才能もありますが、基本に忠実な剣士でございます。平民にしては魔力も多く、魔力の扱いも得意としています」

「そうだな、これまでの鍛錬の成果が良く見える。だが、君ほどでないだろう?」

「……ああ、ローレンスが圧し始めました」


 何とも答えにくい質問に、適当に茶を濁してやり過ごしておいた。


 それから、試合が続くと、場に変化が訪れた。


「◆◆◆◆⋯⋯【地動アースムーヴ】!」

「……っ!!!」


 ローレンスの対戦相手が、ぶつぶつと何かを唱え始めたと思ったら、魔法を行使してきたのである。

 地面を小さく隆起させたり、陥没させたりするぐらいの魔法だが、少しでも足場を崩されるのは危うい。


「……ここで魔法を使うのか」

「差し出口かもしれませんが、誰かの模倣ではないでしょうか?」

「……あれは君が悪いのではないか?」


 ウィルフレッドが魔法を使ったことで、暗黙の了解が破られてしまったのが原因だろう。

 おかげでローレンスが苦戦を始めた。


「まあだが、大勢は変わらんな」

「はい、相手の使い方もなっていないようですから」


 けれど、ローレンスはそれで狼狽えることなく、きっちりと反撃に出始めた。

 一度崩された足場を、反対に回ることで回避して、むしろ利用したのである。

 すぐに足場を元に戻せない相手の脆さも出た。


「決まるな」

「決まりますね」


 それから相手が一歩引こうとした時に、俺と団長の声が揃った。


 体勢が崩れる。

 立て直そうとするが、崩れた時点でおしまいだ。

 ローレンスが一気に攻め、勝負が着く。


 俺と団長は相変わらず気配を消しながら、並んで拍手を送る。

 そこで、隣の彼から尋ねられる。


「そうだ、今晩は空いているか?」

「……はい」

「ああ、君に私が尋ねれば命令となるな。いや、しかし、来てもらいたい」

「どちらへ伺えばよろしかいでしょうか?」

「今晩、十時の鐘がなった頃に、学園の正門前へ。気配は消してくれていて構わない……以上だ。【転移ワープ】」


 早口での口約束だけ言い残して、団長は目の前から消えた。

 理由はもちろん、ただ一つだ。


「あ、また逃げられたわ!」

「……引き止めていた方がよろしかったでしょうか?」

「……わっ! ごめんなさい、気が付かなかった。……って、あなた!」


 王国騎士団の団員、というか、副団長である女性騎士が早足で近づいていたからである。

 名前は確か、"神速"クラリス・ランバート。

 王国女性で最強と名高い人物だ。


 そんな彼女が遮断を終わらせた俺に、ぐいと顔を近づけた。


「昨日の……ジョ、ジョゼフ様の弟子じゃない!」

「え、はい、その通りですが……」


 ジェシカからいつか聞いた通りの反応だった。

 曰く、自他ともに認める王国一の"聖壁"のファン。

 彼女はそんな女性だった。

 ちなみに何故か重要な役職にいるのに未婚であることで有名らしい。

 理由は、まあ想像におまかせしよう。

 ちなみに師匠も未婚である。


「ねえ、あなた、今晩は空いているかしら? あなたのお師匠様の話が聞かせて欲しいの。ああ、別にあなたをどうしようってわけじゃないわ。ただ少し、最近のあの方がどうされているか聞きたかったの」

「申し訳ございません。今晩はさるお方との面会の予定が入っておりまして……」


 流石に、公爵の息子であり、騎士団長であるフランク団長の誘いは断れない。


 それに、未婚の彼女が、夜に俺を呼び出していたらどんな醜聞が広がるか。

 少し冷静になれば彼女もすぐ分かるはずなのだが、平静を失っているということだろう。


 ……確か、師匠の竜退治をその目で目撃したんだったか。


 盲目的な信仰の裏にはちゃんと理由があるらしかったが、今はそんなことは関係ない。


「あら、私の誘いを断らなければいけない相手だなんて……。って、あのクソ団長か」

「……クラリス様、そのような暴言はよされた方がよろしいのでは……」


 貴族女性らしからぬ、痛快な物言いだ。

 やはり男社会である騎士団にいるからだろうか。


「いいのよ、あれは。実際私が騎士団長みたいなものなんだし。今日みたいに雑務はポンポン転移でどっかに行って抜け出すんだから」

「あはははは……と、クラリス様は仰られてますが、私はどうすればよろしいでしょうか?」

「嫌な予感がして戻ってきてよかったようだな。聞かなかったことにしてくれないか?」

「え」

「用は終わった。私も合流しよう」

「ええっと、今のは言葉の綾と言いますか、客観的事実を述べたまでと言いますか……」


 話の途中で、実はフランク団長は俺のところに戻って来ていた。

 流石に失言が過ぎたようで、クラリス様が焦る。


「それじゃあ」


 何故か自分がクラリス様を連れていくような体で彼は手を振り、去っていった。

 深々としたお辞儀で俺はそれに応える。


 それから、姿勢を戻して、向き直る。

 そこには試合を終え、兜を抱えてこちらに来ていた友人がいた。


「お疲れ様、ローレンス」

「あ、ありがとう。今のは……」

「王国騎士団団長と副団長だな」

「まさか、クラリス様が私の試合を見てくれていたのか!」


 最初は戸惑っていたようだったのに、ローレンスの声が急に大きくなる。


「いや、見てたのは俺とフランク様だ。クラリス様は終わったあとに、フランク様を連れ戻しに来た」

「そ、そうか……」

「まあ、午後の試合に見てくれる可能性もあるから頑張って」

「そうだな、そうしよう」


 無事勝利したローレンスには、今日はもう一試合用意されている。

 千二百人のトーナメントだから、五日間は勝ち進めばハードスケジュールである。


 ……まあ、勝ち進めばだけど。


 残念ながら俺には今日にも予定は無い。

 ああいや、大事な予定が一つあったか。


 ……師匠の親友ったって、何を聞かれるのかな。


ありがとうございました。


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