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サクッと成長

 

 そんなこんなで月日は流れて俺は現在、五歳と十一ヶ月ほどになっております。

 季節は夏の盛り、お久しぶりです皆さん。

 赤ん坊からだいぶ成長しましたが大した事件は起こっておりません。異世界のド田舎の村で今日まで平穏無事な生活を過ごしています。


 改まるのもここら辺にしておこう。特に丁寧な性格になったわけでもない。


 そろそろ六歳になる俺にはこの世界の大体のことが分かってきた、と思う。

 こっちの世界の言葉も大人のようにまでとはいかないが、十分なレベルになった。脳みその作りに関係なく前世の思考力はそのまま引き継がれているらしいからガキンチョにしては小難しい言葉もペラペラと口から出てくる。


 そう、今の俺はファンタジー補正で日本語を話してる訳ではないんだ。全く知らない名前もよく分からない言語を話している。

 思考レベルでは語彙力が圧倒的に多いうえに、容易に叶斗時代の記憶を引っ張り出せる日本語を使うことが多いけれど。今みたいに。こっちの言葉を日本語に訳そうとすると一つ一つの言葉のニュアンスをしっかり掴むことも出来たりして発見も多い。


 脳内ではそんなことをしている俺だけれど、前世の記憶があるということには母親も気づいていないだろう。

 基本は大人しく、賢いけれどたまにやんちゃする子。それぐらいの認識を持ってくれているはずだ。


 それに関しては俺より一か月ほど早く生まれた、隣の家のラス君という存在が大きく貢献していることが間違いない。


 初めてママと言ってくれたやら、這ったやら、歩いたやら。ラスの母親と俺の母親がママ友であったから、情報はすぐに入ってきた。

 そのためにあらゆる赤ん坊のイニシエーションを、彼が行なったと聞いた後に行うことで、恙なく突破することができたのだ。寝返りや首が座ると言った生理現象はなすに任せたし、トイレだけはラスより早くにできるようになっていたんだけどね。


 ちなみに赤ん坊がおぎゃーと泣くのは生理現象に近いから、欠伸を我慢しないというぐらいの難易度でこなすことができたのだった。つまり結構勝手に出る。


 さて今からは色々六年間で知ったことを話していこう。


 俺が住むのはトルナ村、ウォーカー伯爵領というところの領都のほど近くに位置する、森に囲まれた小さな農村だ。


 野菜や米を作り、木を切って薪を売り、街で貨幣を稼いで、税を納めながら生活は細々とだけれどみんな楽しく暮らしている。

 一緒に住む夫婦、今ではじいちゃん、ばあちゃんと呼んでいるモルドとエレナも畑を耕しているし、母さんと俺もそれを手伝っている。

 ただここ数年は実りが格段によくなって、村全体の収穫高が増えてきていた。理由はあるけどそれは後にしよう。


 ああ、ちなみに米が育てられている理由はサムライのお陰だ。水稲栽培をなんとかして広めたと読み聞かせで知ることができた。お陰で食生活に寂しさを覚えることも少ない。母さんやばあちゃんの料理が抜群に上手ということもあるだろうが。よくラスの母親のシェルファさんが教わりにやって来る。


 しかしただトルナ村が街に近いとは言っても森に囲まれたしがない農村であって、この世界のことはあまり多くのことを知ることはできていない。何でも知ってる村の長老も、近くの森に住む偏屈魔術師なんかも身近にはいなかったし、この世界の農村には自由に読める本もなかった。

 暇な時にせがんで、結構な教育を受けていたらしい母さんやじいちゃんばあちゃんから文字を教えてもらい、話を聞くのが精一杯だ。


 だから今日まで普通に生きて、村の世界の常識が少しずつ身についたぐらいの現状である。


 早く街に行きたいところだけど、六歳の洗礼式までそれはできない。村以外で行けるところは近くの森の浅い所ぐらいで、日常は代わり映えしない。

 最近では、そんな平坦な毎日をどこまでも楽しそうに生きるラスたち純粋な子供を少々羨ましく思ってしまう始末だ。


 そんなだから、魔力に関する知識はほとんど得られることがなかった。


 けれど、立ち止まっているわけでもなかった。

 そこは世界のイレギュラーである自覚があって、独学で相当の制御をできるようになっていると自負している。これに関しては左目の魔眼と、前世の異世界ファンタジー知識が大いに役立った。


 首が座り始めた頃の俺がとりあえず覚えたかったのは魔力を平凡に見せる方法だった。

 魔眼でもない限りは魔力が分からないことが一般的であるにせよ、他の魔眼持ちに見られたら六色の魔力を、ありえない量で保持していることが一瞬で分かる状態だったのだ。幸いに村の中に俺以外の魔眼持ちはいなかったし、来なかったけれど。

 このおおよそ六年間、今後の人生に面倒を持ち込まないため、魔眼でのセルフチェックを繰返しながらとてつもなく頑張った。俺が物静かな子どもだった理由は転生者であること以上に暇さえあれば一人で試行錯誤していたことだと言える。


 生まれてからの二年間のほぼ大半を魔力の制御に費やした。

 ある日偶然動かせた魔力を操り、隠して、小さく見せて。

 師匠もいない、本も無い状態で、たったニ年の内に魔力の隠蔽方法を確立させることができたのは大きな成功だと言える。

 歴四年を越えた今では呼吸をするように魔力の操作が行えていて、油断しても膨らんだりしない。昔は泣く度に解けてしまっていたけれど。


 さて、そんな成功をしてしまった俺だから欲が出た。


 あれ? もしかしてこれ、今でも魔力多いけどこれ以上増やしても大丈夫なんじゃ?


 そんな感じだ。

 そこからの俺の動きは早かった。暇だったから。


 とりあえず試した方法は魔力枯渇。魔力を増やすのには魔力を全部使い切るのが一番、なんてネタはネット小説にゴロゴロあったからだ。


 初めて魔力を全部使い切る時はなかなか勇気が必要だったが、今では日常としてこなしている。

 今では、ということでお気づきになっていただけるように、この方法は見事に成功した。


 数回の魔力枯渇の末に魔力を入れる器、すなわち魂の器の輪郭が大きくなっていることが確認できたのだ。

 それに気づいてから今までほぼ毎日、一日三回は魔力を体から抜いている。

 魔力枯渇後は、数十分の気絶に強い倦怠感と疲労感、それから謎の罪悪感や吐き気に苛まれることになるし顔色の悪さを心配されるけれど、メリットの大きさを考えるとその程度のデメリットは見過ごせてしまうものだ。

 ちなみに、俺が気絶の後のしばらくを賢者タイムと呼んでいることは誰にも教えるつもりはない。


 他の魔力操作も色々してみると、そのほとんどが意味を持った。

 前世の知識バンザイ、異世界ファンタジー万歳だ。


 魔力を圧縮してみれば、魔力の輝きが増した。身体中を巡る魔力の流れを速めれば魔力の回復速度が上がった。属性魔力を分離して取り出したり、見せる属性を自由に変えることもできたし、魔力を筋肉や骨を意識して纏えば当然のように身体強化になった。それに、傷口に魔力を送れば治癒力も上がった。


 まさにとんとん拍子である。


 あとは魔法を覚えるまでに、これらの魔力操作を魔力制御と同じくらい気楽にこなせるようになっておけば、大きなアドバンテージになるのではないかと考えている。


 戦うための魔法を覚えることは絶対の課題だ。

 どうしてかって?


 この世界にはやっぱり、魔物なんてものが存在してしまうからだ。




 俺が初めて魔物の存在を、この世界においては現実のものなのだ、と認識したのは四歳になってしばらくが経った頃だった。

 もちろん魔物が存在するという話はそれ以前に物語や、村の教えとして伝えられていたけれど、実感のない話であった。


 しかしある日の日暮れに、牙狼ファングウルフが森の浅い所で見つかった、という話を村に帰ってきた猟師が伝えた。

 子供が遊ぶような場所で魔物が、とパニックになる、なんてことは全くなくて、村のおじさん達は久しぶりだと言いながら迅速に情報が伝達をしていき、街まではいつも市場に荷を運んでいる馬が単騎で駆け、確かに存在している冒険者ギルドに森の魔物の討伐依頼が出されてすぐに事態は収束した。


 しかしその数ヶ月後、また同じようなことが起こった。そして、その次の月にも。

 流石に期間が短いと村の人たちも訝しがっていた。


 そんな時に、村に住む男衆の会話が耳に入ってきたのだ。


「魔物もうちの村が恵まれてて羨ましいんだろうな」

「違ぇねえ。今じゃ街の中でもここらで一番豊かな村って言われてっからな」

「ふん、誇らしいもんじゃねぇか」


 彼らは普通の冗談で言ったつもりだっただろう。しかし、それを聞いた俺は背筋が寒くなるのを感じた。

 もしそれが本当ならば、この魔物の出現は俺のせいだったからだ。


 ここで村が豊かな理由と魔力枯渇の訓練が線で結びつく。


 魔力を枯渇させるためには当然ながら魔力を消費する必要がある。俺が魔法を使うことができたならそうしていたのだろうが、残念なことにその知識は今の俺にもない。


 じゃあどうやって魔力を枯渇させてきたかといえば、俺は田に、畑に、土地に、自分の魔力を垂れ流していた。

 作物に適度な魔力を与えれば栄養として扱われ、実りが増えるのだ、ということは農村では常識だった。肥料みたいなものらしい。

 だから俺はどんどん育てなんて思いながら、村中の農作地や農作物に水やり感覚で魔力を与えていたのだ。


 まさかそれが魔物をおびき寄せることに繋がってしまうなんてこと、魔物の存在はどこか前世のフィクションと変わらない存在として捉えていた当時の俺には全く予想ができていなかった。


 ……もしあの時に村の誰かが怪我をしていたら。

 そういった事態に発展しなくてよかったが、もしそうなっていたらと考えるとあまりにゾッとしない。


 それで少しずつ、後の影響を考えてから行動しようと思い始めた。


 ああ、だからと言ってその後に村に魔力を与えるのをやめた訳じゃない。農作地にエサをやるのは一日一回だけにして、たまに森の奥に忍び込んで森にも魔力を送っている。

 その後は一度だけしか狩りをするような場所に魔物は現れていない。十分に通常の範疇と言えるだろう。

 もしいつもより強い魔物が生まれても、そろそろ俺が何とかできると思う。身体強化を覚えたあたりから、強くなった実感はある。


 しかしここで、毎日のルーティーンにしていた残り二回の魔力の使い道が浮いてしまった。


 どうしようか悩みながらひたすら魔力で繋げた見えない紐であやとりしていた時に気付いて解決してくれたのが俺の右目で見ることができた色とりどりに光る羽虫、精霊だった。

 カラフル羽虫が精霊だと分かったのは、母さんが寝物語に話してくれたおとぎ話なのか脚色のされた昔話なのかノンフィクションなのか分からない話の中に、精霊の見える目を持った人間の少年のお話があったからだ。

 母さんやばあちゃんのお話によれば、エルフ(国の中では滅多に見ないけれど確かに暮らしているらしい)はみんな精霊が見えるらしい。


 精霊は魔力が豊富なところによく集まってくるので、俺が村に魔力を注ぎ初めてから村に飛び交う精霊が日に日に増えていっている。

 ちなみに、俺が魔力制御をマスターする以前は常にわらわらと体の周りを飛んでいた。自分の周りを飛ぶ精霊の数で魔力制御の出来を把握していた部分もある。


 それで俺は火を、水を、風を、土を、光を、闇を、生きる上で必要な世界支える彼らに、感謝も含めて自分の魔力を無償で提供している。


 ……なんて言ってしまえば格好良いが、実際は魔力枯渇を行うための手段として利用しているだけに過ぎない。渡そうとすれば枯渇するまで吸い付いて来るから効率も良い。魔力操作に慣れた後は吸い出される感覚も捉えられるようになって、ドクターフィッシュのような心地だ。


 まあ、魔力をあげれば精霊達も喜んでくれるのが目に見えるし、ウィン・ウィンの関係にあると言えるから問題ないだろう。チビ精霊と言葉は交わせないが、プラスかマイナスか漠然とした感情のニュアンスはある程度伝わってくるのだ。

 母さんが話してくれた物語では言葉を解す精霊が出てきたからいつか精霊と話ができたらいいなとも思っている。



「おい、また休んでんのか?」


 もう日が暮れるのか。

 ラスがわざわざ呼びに来てくれたし、遅れると母さんに怒られる。


 綺麗な人だけど、怒るとしっかりお母さんらしく怖いのだ。


「ああ。今いくよ」


 そういえばまだ名乗っていなかっただろうか。


 俺はレイ。トルナ村のリーンの息子、レイだ。


 これからよろしく。

ありがとうございました



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