転生しました☆
ここまでがプロローグみたいなものです。
はいどうも、俺です。
末吉叶斗だった俺です。
交通事故で死んだと思ったら魂になって、漂っていたら異世界へ転移して、挙句の果てにそのまま転生までしてしまいました。
なんのこっちゃ分からん。
まあいい実感の話はいい。大切なのは事実。今までに分かっている事実だけ述べさせてもらおう。自分の頭の整理のためにも。
まず俺が転生したのは転移した先の異世界で間違いなかった。
確証が持てる理由は母親にある。
髪色はおそらく、プラチナブロンド。
赤子の体になって視力は弱いわ、色覚も違うわでなかなか苦労しているが、間違いない。
まあ髪の色が分からなくても彼女の顔は簡単に忘れられるものではなかった。
そう、こちらの世界での俺の母親は、王城で一目見て絶世の美女と称した女性だ。
でも今はどうも、王城やその城下町を離れてどこだか分からない農村で暮らしている。
もしもここが王都ならこの国の政治は駄目だろう。あんなに立派で豪華な城が建てられていた外側の街が、こんな森に囲まれていて、隙間風の通る木造の小屋のような家が並んでいるようならがっかりだ。
ちなみに父親は見たことがなく、一緒に住んでいるのは老夫婦……というにはまだ若い四十過ぎの夫婦だ。
母親の態度がやけに丁寧に見えるから、俺の祖父母ってわけではないらしい。
王城から離れた美女、行方の分からない父、農村で隠棲、って……出自の時点で色々と不穏すぎやしないかね、俺の第二の人生。 前世は一般企業勤めの父とパートタイマーの母に地方の住宅街で育てられた安穏そのものという生活だったのだけど。
さて、無駄話をしていると大幅に時間を食うからサクサク進めよう。赤ん坊の脳のスペックを舐めないで欲しい。ちなみにここまで話すのに数日程経っている気がする。いちいちの活動にエネルギーを使い過ぎるのだ。
され、不穏なのは新しい俺の出自だけではない。この世界での俺の立ち位置は完全にイレギュラーなものだろう。
なんと言っても生まれ持った時点での魔力が大きすぎる。魂の時に思った通り、苦労しそうな来世だった。記憶が引き継がれているのが想定と違うが。
俺の魔力は周りの大人たちと比べて一回り大きいどころの話じゃないのだ。数十倍、数百倍、もしかするとそれ以上の単位で魔力量が違っている。
どうして俺にそれが分かるのかというと、俺の左目に宿った”魔眼”のおかげである。
ああ、別に生後数ヶ月にして中二病を罹患した訳じゃない。元々罹患者だったわけでもない……多分。
さて、魔眼はこの世界で数千人に一人へ神様から送られると言われているギフトで、魔力を可視化できる目のことだ。魔力眼、略して魔眼。シンプルである。身体的特徴は現れないもの、らしい。
魔眼を生まれ持つことがこの世界、少なくともこの村では喜ばしいことだそうで、つい先日、新生児たちのお披露目を兼ねた魔眼診断なる行事が村をあげて行われ、俺に魔眼があると分かると無礼講の宴になっていた。もっとも、宴の準備はその前から進められていたようだから普通にお披露目のお祭りだったのだろう。
魔眼があると魔力のこもった石を目元に近づけられるだけで眩しいから、赤ん坊が自然と目を細めてしまうのをチェックするようだった。
ちなみにだが、多分右目にも何かがある。
たまたま偶然自分の魔力が右目に集まったとき、キラキラしたカラフルな羽虫みたいなものが自分の周りを乱れ飛んでいるのが見えてしまった。叶斗時代の知識から大体のことが察せられてしまうのがもはや悲しい。これ以上要らないチートを増やさないで欲しいものだ。
そもそも俺はこの転生自体がめちゃくちゃ嬉しい、というわけではなかった。
こうして記憶を持って転生してしまうと、どうしても、何でもう一度咲良達に会える、向こうの世界でこうしてくれなかったんだと思ってしまう。
きっと向こうの世界にいたままなら、俺は消えてなくなっていたのだけど、でもやっぱりそう思うことを止められはしない。それぐらい、俺は末吉叶斗としての人生とそこで出会った人たちを愛していた。
これ以上思い出すのはやめておこう。苦しくなるだけだ。
……まあ、それでも生きる理由はあるからそっちを言うよ。
自分を見つめる今の母親の、純粋に子を思いやるあの目を見てしまえば、彼女の子供として生きてあげなければと思ってしまうのだ。
孝行できなかった日本の母さんには申し訳ないが、こっちでは向こうにいた時より親孝行をすることになりそうだ。
違う誰かの子供として生きていくとしても、また素直になれないなんてことにはならなくていい。
素直になって、自分の成長を助けてくれる人を喜ばせられる方がずっといいだろう。
他の人に対しても同じだ。特に、女の子には。
小さい頃の俺は咲良に構ってもらうために怒らせるということしかしていなかった。今ならもっと違う方法もあると分かっている。
できれば咲良にもそうできればよかったのだけど、それはもう後の祭りだから、与えられた今世に。
向こうで刻んだ通り、叶斗の大きすぎる後悔を楔としてしっかりと大バカな魂に打ち込んでおこう。
色々言いたいことはあるけれど、折角貰った異世界転生のチャンス。叶斗の霊魂時代は他人事だと思っていた来世を、前世の記憶を持ったまま始められる。
バカは死ななきゃ治らない。日本にはそんな言葉もあったが、一度死んだ大バカがどれだけバカを治せるか試してみるのも一つだろう。
それに俺はネット小説なんかも読んでいた。だからこんな異世界ファンタジーの世界が嫌いではないのだ。さっきから嫌々も言いつつ、何ができるんだろうとワクワクしている自分も確かに存在している。
科学の発展は乏しく、温かいお湯さえ貴重なこの世界で生きるか死ぬか分からないけれど、そんなのは向こうの世界も実は同じだった。だからいきなり死んだ。それを知っているアドバンテージは少なからずあるはずだ。前世の知識も大したことはないけれど、多少は。
まあ、なんであれ、今はまた生きているのだから仕方が無い。
俺の異世界での生活を始めてみようと思う。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
まだ誰かと話すことも、名乗ることもしていない彼の物語を、一人でも多くの方と共有できるよう努力していきます。