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二年生の学園祭:決勝戦

フランク、ウィルフレッドの視点を挟みます。

 自分の足音さえ、かき消される。


「……」

「……」


 口を開いたとして、距離のあるまま互いに声を届けるのは一苦労だろう。


 それほどまでに俺たちにかけられる声は多く、大きい。

 中央塔から正午を知らせる鐘が鳴ったことに、観客たちは気付いているだろうか。


 それでも互いが互いに一度、同じタイミングで同じ方向を向いた。

 その所作に会場も湧く。


 視線の先で手を振って反応を返す二人の伝説の続きを目撃できると、皆が高揚していく。


 それに見合う戦いをするつもりだ。


 天気は快晴、一世一代の舞台に立つ相応しいだろう。


 耳を澄ませる。

 大勢の声の中から聞こえるクラスメイトたちの声、マスターの声、ナディアの声、ローラの声、カイルの声、リーナの声、母さんの声……


 全て届いている。


 抜剣した。


 目の前の相手と、語るべきことはない。

 それは全て、この先に置いてあるのを拾うだけだ。


 名乗り、応え、構える。


 決勝の火蓋は切って落とされた。



 ****



 さて、ウィルフレッドと俺の実力は互角なのだが、決定的な差が一つある。


 最初の踏み込みから全速力で、最初の一撃から必殺のつもりで剣を振るう。

 もちろんそれで決着は付かないが、とりあえず優位に立つ。


「……っ」

「ふっ……」


 ウィルフレッドとの差、それは魔力量の差に他ならず、言ってしまえば継戦能力の差だ。

 出力で言ってしまえばこちらは魔力を操る技巧で補える程度なのだが、どうしても、本当にどうしてもそこだけはままならない。


 だから最初から試合を決めに行ってみた。


 もちろん、他の戦い方もある。

 俺が完全に足を止めて、ウィルフレッドの自滅を待つ方法だ。

 確実に勝てる見込みはなくても、勝率は上がる。


 だが、それで楽しいだろうか。

 この試合はそれほどまでにして勝たねばならぬ試合だろうか。


 いや、俺にとっては違う。


 もちろん勝ちたい。

 けれど、無様な姿を見せたくないなと思っているだけで、どうしても勝たなければいけないわけではない。


 ならば何が一番か。

 楽しいこと以外にあるだろうか。


 もちろん、負ければ悔しいけれど。

 やはり勝ちたいけれど、それはそれだ。


 どうせ最初から自分にハンデを強いてしまっている戦いなのだから、最後の最後まで振り絞るような戦いはみっともない。


 俺が主導権を握り続けて、ウィルフレッドを試し続けてやる。



 ※※※※



 隣でやけに感慨深そうに弟子を見守る友に聞いた。


「思うところは無いのか?」

「何が」


 本気で何も思っていないようだった。


「あれはお前の教えた動きではないだろう?」

「ん? ああ、そのことか」


 ひたすらに攻め立てる姿は昨日と同じようであるが、どうしても、息子と彼の勝負だと、過去の自分を重ね合わせてしまう。


 しかし、レイの動きにジョゼフを思わせるところはどこにもない。


「レイと私では違うから仕方がないさ。私から指摘するべき点も見当たらない」


 それは確かにそうだ。

 レイの動きは最高効率で、最適解を求め続けている。

 俺の目から見ても圧巻であり、このまま試合が続くようであればどこかでウィルフレッドは負けるだろう。

 昨日の戦いからだが、既に騎士団でも通用する剣だ。


 だが、ジョゼフがあれでいいのだと思う理由はもっと他にあるようだった。


「それに、よく似ている」

「?」


 ジョゼフがそう言って二つの方を向いた。

 一つは"風爪"イアンの方で、もう一つはレイによく似た彼の母親方だった。


「本当に、よく似ている。……彼女もそう思ってるようだね」

「なるほどな」


 レン・タウンゼントという男を見たのは数度で、一度も手合わせをしたことはない。

 それでもこいつが気に入っていたのは事実で、俺も彼の剣がいかに苛烈で見事かを聞かされた。


 学園では"野犬"や"猛犬"、"番犬"として知られていたらしいが、三年生のトーナメントでは"剣鬼"とまで言わしめたと聞いている。

 過去の王国騎士団員の中でもおそらく最も魔力量の少ない男ではあったが、それでも決して腕の劣る人物ではなかった。


「そう思うと、恐ろしいが」

「……それもそうだ」


 確かに学生として振る舞う彼の魔力は決して多くない。

 優勝を争う顔ぶれの中では特に少ない方で、ああいう戦い方になるのも頷ける。

 それでも、俺たちは彼が隠すものの大きさを知っていて、それがあの動きと両立できないとは思えない。


 彼にあるのは恵まれた剣や魔法を操るセンスだけではない。


 戦闘を組み立てる戦術眼、戦況を見抜く判断力、そして絶対的な勝負勘。

 既に歴戦を思わせるそれは、幼い頃から冒険者たちの荒い戦場闘法に揉まれ、経験を自らの血肉へと昇華させた証であった。


「ウィルも負けてはいないが……」

「ああ、そうだね」


 今、目の前で繰り広げている戦いが互角である時点で、力で勝るウィルフレッドが技で彼に勝っていないことを示している。


 ウィルフレッドの努力は知っているつもりだ。

 俺を追い、ジョゼフすらも追い、越えていこうとしている姿は父親として誇らしい。


 けれど今、舞台の上で上回っているのはウィルフレッドではない。

 

「……だけど」

「なんだ」

「勝敗は多分、もう決まっている」


 彼の師である俺の友人は、戦闘そのものを支配した彼のことをおそらく誰よりも分かっているのだろう。



 ****



 今日は俺が先に魔法を使った。

 追い風を吹かして直線の加速に使ったのだ。

 それは別に不意打ちでもなんでもなくて、ウィルフレッドも確実に対応してくる。


 だがそれが確かな引き金となり、右斜め後方に魔力の揺らぐ気配。


 さて、お生憎さまだがウィルフレッド、転移のアドバンテージは多分そこまで大きくないぞ。


「!」

「はぁ!!」


風刃(ウィンドカッター)】を二門発動し、転移先に叩きつけながら自分もそちらへ直ぐに向かう。

 魔眼の力は魔力を見るだけじゃない。

 魔力を感じ取る力そのものを引き上げるから、見えるようになるだけだ。


 それ即ち、気配を探知するのに長けた俺が魔眼をフルに使っていれば、転移の先を割り出すことも難しくないわけで。


 ……いや、まあ、めちゃくちゃ疲れるんだけど。


 この魔力量では魔眼を使うのにも一苦労だ。

 しかし、こうでもしないと転移を見破る整合性が取れない。


 詰め寄った後に乱撃。

 しかし、それも転移で間を離されてしまう。


 ……これは、あれか。


 追いかけっこを続けていれば結局持久戦だ。

 ウィルフレッドがそういう戦いを選んだのであれば、それはもう仕方がない。


 もう一度だけ詰め寄って間を空けられて、やはりそうなのだと確信する。


 ……そうかい。


 仕方がない。

 実に仕方がない。

 追いかけっこをやっても仕方がない。


 ならばもう、最終試験を課してやろう。



 ※※※※



 自分の弱さを痛感する。


 ああそうだ、俺は逃げた。


 圧倒的な手数と、多彩な攻撃を仕掛けてきたレイを前に、魔法を使われた時点で魔法を使って逃げた。

 負けるわけにはいかないと思ってしまった。


 周囲の多くは当然として考えるかもしれない。


 だがしかし、カイルはどう見るか。

 ジョゼフ殿はどう見るか。

 父はどう見るか。


 そして、レイはどう見るか。


 この次元で戦える者はごくわずかだ。

 そのごくわずかな人間に、俺はどう映ったか。


 レイが追う足を止めた時、ひどく恥ずかしくなった。


 あれほど戦いを楽しみにしていると言ったというのに、勝ちだけを拾いにいくこの無様はなんだと。


 そして、脱力した彼がひどく鋭い気配を発して何をするかが分かった時、応ぜねばならぬと確信した。


「……」

「……」


 目には一人の男だけがある。

 耳にはその息遣いだけを聞く。


 あの男だけは、見逃してはならず、全ての情報を捕えなければならない。

 言うなれば既にあれは手負いの獣で、繰り出されるのは必殺だ。


「……」

「……」


 動、いた。


 既に顔は目前にあり、剣は振るわれていた。


 転移。


 無我夢中に魔法を使い、弾き、剣を握りしめる。


 互いに頼るものは得物一つとなり。


「はぁああああ!!!!」

「っ、らぁ!!!」


 互いの烈剣が交差して、勝負は決まった。












 ひどく長く感ぜられた静寂の後、大きな拍手と俺の名を呼ぶ審判の声が聞こえて勝利を知ると、刃の折れた剣の柄を強く握り締め、その栄誉を受け取った。


ありがとうございました。

顛末は次回更新で。


バイト再開して体が死にかけましたが頑張って書いていこうと思います。よろしければどのような形でもいいので応援のほどよろしくお願いします。頑張れます。

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