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制約の魔法使い  作者: 式神
第2章 初任務編
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第2話『法獣との邂逅』

また設定がちまちまと出てきます…ご了承くださいm(_ _)m


「やっぱりサンドイッチ持ってくりゃよかったな。なぁエレン?」

「ぼ、僕に同意を求めるんですか」

「いい加減軽口を叩くのはやめろレイドット。マリーナに言いつけるぞ」

「げっそれだけは勘弁してくれ」



 葉擦れの音が心地良く、葉と葉の間から差し込む光が温かい。一瞬だが、ここが狩り場であることを忘れてしまいそうだ。

 木立の中を進んで二十分。

 高かった木は少しずつ低くなり、その数自体も疎らになっていた。終わりが近いようだ。

 穏やかだったエレンの胸の内も、樹木の減少に伴い、徐々に緊張を帯び始める。拍動が速く、息が荒くなる。

 うっとうしげに枝葉を掻き分けていくルイが、不意に言った。



「ここを抜けると、小さな泉がある。そこが目的地だ。二人とも、戦闘準備を整えておけ」



 その声には、先程までの穏やかさは微塵も感じられず、ここに来た当初の感情――異様な緊迫のみが感じ取れた。つられるように、エレンの表情も険しいものになる。

 ここでいう〝二人〟とは、当然のことながらエレンとレイドットのことだ。

 レイドットは腰のホルスターから拳銃を一丁取り出し、ポーチから取り出した弾丸――先端に法晶石、末尾に火薬が仕込まれた特注のものだ――を詰め込んでいる。その表情は、中々鬼気迫るものがあった。

 エレンも、自身の脚甲を見下ろす。脚部に装着するエレンの魔具は、立ち止まらないと法晶石を挿入できないため、それらの工程は予めギルドで済ませている。故にその行動は、ただの確認に過ぎない。



 鎧型魔具、脚甲。



 エレンの膝下全てをすっぽりと覆う、正しく鎧と表現するに相応しい魔具だ。収束させた法力を脚撃の速力に上乗せする魔法を主体とし、近・中距離戦闘を得意とする。

 レイドットの双銃は無論のこと中・遠距離用であり、ルイの片手剣は近距離用に設計されている。

 均整のとれたパーティだと思う反面、敵の懐に飛び込むのが女性主体であることに気付き、大きな溜め息を吐いた。

 

 女性――と呼ばなければ流石に失礼に値する――が第一線で戦い、男共が後ろでドンパチ…………一般的にいってあまり気持ちのいい構図ではないだろう。


 別段、無理をしてもいいというのであれば、その有効攻撃範囲を広げることはできる。片手剣でも遠距離攻撃はできるし、脚甲もまた然りだ。

 それをしないのは、自身の内在法力と魔法の消費法力量との兼ね合いが大きな原因だ。

 遠距離への攻撃となった場合、大量の法力が必要となる。そしてそれは、人として逸脱した力を持つ魔法使い達にとっても、至難の業といえる。

 如何に収束させた法力といえど、そのままの形状を永久に保つことなど不可能だ。体外へ放出された法力は、急激な勢いで空気中への拡散を始めてしまう。つまり、近距離攻撃魔法を無理矢理遠距離用に置き換えるとなれば、それ相応の法力を捻出せねばならず、掛かる労力と負担は並大抵のものではない。

故に、拡散を上回る収速力と、法力濃度が備わった人間でなければ、遠距離魔法を用いた戦闘は困難を極める。


 レイドットの魔具――双銃は、その負担を大きく軽減することに成功した数少ない例の一つだ。

 推進力に法力を使うのではなく、火薬の爆発を利用する方法は、戦場に革命的な変化を齎した。従来の銃火器――火薬のみを推進力とした鉛弾――に、魔法という全く新しい概念を追加。

 結果として、今までは錫杖に頼るしかなかった遠距離攻撃の幅が大きく広がるという偉業を成し遂げたのだ。

 とどのつまり、レイドットのような戦闘スタイルが完全に確立されたのはつい最近のことなのだ。



(珍しいよなぁ、二人とも)



 視線が脚甲とレイドットの双銃とを行き来し、自然と笑みが零れた。


 やがて、一行は木立を抜けた。

 目の前には、柔らかな平原。その遥か先に屹立する、巨大な岩壁。いや、むしろ山と表現した方がいいスケールだ。その岩壁からは清らかな湧水が噴き出し、半ば滝のように降り注いでいる。流れ落ちた湧水は大きな池を形成し、そこから一筋の川が生まれている。

 形容するのならば、穏やかな楽園。きっとあの滝の周りでは草食動物達が草を食み、水を浴び、一時の悦に浸っているのだろう。

 そんな幻視が目の前に浮かび、エレンはフッと口許を綻ばせた。目の前を歩くルイに見られれば、狩りの前にだらしのない顔をするなと叱咤されそうだったが、幸い、ルイは緊迫の面持ちで滝を見据えている。

 そのルイが、急に腰を落として片膝立ちになったときは、流石に何事かと思った。左手で腰に吊り下げられた剣の柄を握り、右手では胸の辺りを押さえている。背中から漂う、鬼のような気迫は、これまでにも増して恐ろしかった。



「ルイ先輩……?」

「お前達も姿勢を低くしろ。風下とはいえ、見つかったら厄介だ」

「あぁ」

「……っ」

「えっ?」



 順に、レイドット、エレン、リイシャンの言葉だ。首肯、瞠目、頓狂、三者三様に己の感情を表に出し、ルイの言葉に応じる。エレンは言われるがまま、即座に片膝をつく。リイシャンは、何が起こっているのか分からないまま、安危を問いかけるような視線をエレンに送っている。



「えと……どういうことですか?」



 驚きの声を上げたリイシャンに、エレンとルイがほぼ同時に前方を指し示した。



「あの滝、距離感と飛沫のせいでほとんど靄がかかったみたいになってるけど、その中に、いますね」

「あぁ、そのようだな。他の生き物を余所へ追いやって水浴びに興じるとは、腹立たしいな」



 リイシャンは、ますます困惑した表情で遥か先の滝を凝視している。



(流石に、無理だよな……)



 エレンが胸中でこう呟くのも当然で、今現在、エレンとルイの二人が見ている光景は、リイシャンとは決定的に異なっているはずなのだ。

 魔具や法晶石なしでは魔法を発動できないとされる人間達が使える、数少ない制約外魔法。それが、《肉体強化》だ。法力を用いて筋肉を活性化、それにより膂力や五感を底上げする、基礎魔法の一つだ。

今、エレンの眼前には、手の届く距離にまで接近した瀑布が広がっている。《肉体強化》の一つ、《視覚強化》だ。これにより自身の視覚に望遠機能を付与。遥か遠くの光景でさえ、目の前に映し出すことが可能になる。

 恐らくレイドットも、エレンとほぼ同じ映像を見ているのだろう。飄々とした面持ちはどこかへ消え失せ、張り詰めた緊張がそれに取って代わっている。

 唯一、《視覚強化》を行えないリイシャンだけが、首を傾げ、目を細めている。

 リイシャンにろくな説明も行わず、ルイは続ける。



「目標捕捉。数は報告通り、六体。こちらとの距離、およそ五百。作戦通りにいくぞ。気付かれる前に先制攻撃だ。レイドットは私と突貫、エレンはここでリイシャンと待機し、私たちの取りこぼしを迎撃しろ。私の合図で飛び出す、いいな?」



 是非、というより準備の確認に近いルイの言葉に、エレンとレイドットは即座に首肯する。



「はい」

「了解」



 ふぅ、と息を吐き、ルイの呼び声がかかるまでの数瞬、エレンは視覚をより強化した。

 より鮮明に、より拡大した視野に飛び込む、六つの存在。人のように二本の足で立ち、隆々と発達した両腕が一際大きく見える。直立二足歩行を旨とする肉体の上には、知能の低そうなトカゲの頭部。獣人型の名前通りの外見だ。形容するなら、トカゲ男といったところか。

 その存在を捉えた瞬間、エレンの中で何かが弾けた。静かな怒りが湧き上がり、同時に、何かが流れ込んでくる。

 その不気味な感触に、エレンは覚えがあった。

 ぬるりと心中に流れ込んでくるそれは、《あの日》の記憶。絶叫と絶望とが交錯した、もう二度と味わいたくない経験。血と涙に塗れた、最悪な日。

 フラッシュバックした記憶は、それまでエレンの中で鎮まっていた何かに、火を付けた。ちりちりと疼くその感情は、たちまち業火となって胸中に燃え広がっていく。





(法……獣……!)




 エレンの中で、どろりとした厭悪が広がっていく。


 


魔法名は考えていて楽しいです。

あとやっとバトルが書けます。自分で設定考えたはずなのに難しくて死にそうです。

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