なぜ、女の子は胸が2つしかなかったのか?
「三矢さ。訊いて良いかな?どうして、女の子っておっぱいが2つしかなかったのかな?」
「そのふざけた口を抑えようとしたが、先に喋られたか」
その質問はどうしてか、タイトルと違っているのは致し方ないことだろう。
さすがにね。
「瀬戸。なぜ、そんな疑問を抱き、なぜ俺に尋ねる?」
「だって、三矢は僕と同じで彼女がいないし。どうやって性欲を処理してるのか、気になるじゃん?」
「俺が質問するほど、テメェはおかしな発言をしていく気か!?」
こんなくだらない会話。いや、なんかこう。どん引きされるべき会話を社内で行なうことができるのが、この瀬戸博という馬鹿である。見た目は小学生みたいなチビであるが、デザイナーとしては超一流で、女の子を描くのがとんでもなく好きな奴。男の本能に最も忠実に再現された感じの男だ。
対して、三矢はヤクザの顔のような強面で、本来なら瀬戸が気軽に話せるような男ではないほど、怖い顔をしている。しかし、内面は優しく、こんな馬鹿な話にも付き合ってくれる奴だ。
「ねー、どうして?女の子のおっぱいが2つなのはなんで?」
「それはもう神様とかが決めた人間のフォルムにイチャモンつけろや。だいたい、1個増えたら何ができると思っているんだ?」
「そりゃ1つ増えるんだから、1つくらい僕が気軽に揉んでも良いじゃないか!」
「お前、ホントに馬鹿だな!ありえねぇよ!」
うんうん、と頷くような。当たり前な正論で不可能と言わせる。
「初期状態でさえ、おっぱい2つあんのに、1つも気軽に揉ませてくれねぇだろ!3つあっても、4つあっても女が変わるわけねぇ!!」
「がーーーん!それは確かに!!」
ふとした疑問、願いを瞬殺して崩壊させる三矢の正論に瀬戸は泣いた。
「ううっ、おっぱいが3つあれば女の子は僕にも気を許してくれると思ったのに……」
「3つになってたとしても、甘くねぇよ」
深い反省をしながらのこと、
「ほら、三つ目とか、ハーピーとか、人魚とか、猫耳とか、色んな動物の要素が入った女の子がいるじゃん。最近、嵌ってね」
「モンスター娘とかそんなんか?」
「そーゆう異形との組み合わせがあるんだったら、もうストレートにさ。おっぱいとか、○○○とか、○○○が増えた方が、男という性欲の塊の処理が非常に容易くて画期的じゃないのかなって、思っているんだけど、上手く行かなくて」
「デザイナーだったら最初からそれが、すげぇ気持ち悪いって分からねぇのか?」
「馬鹿!!それは見ていない、やっていない、すぐ諦めるという者が口にする言い訳だ!!斬新な発想なくして、新ジャンルの開拓はされない!」
どうやら、先ほどの質問もここに辿り着くためだったようだ。瀬戸は仕事にムラがあり、一度悩むと進行速度と精度が著しく落ちる。しかし、おっぱいを増やすとか、尻を増やすとか、頭を増やすとか迷走がハンパ無い。
冷静にかつ、瀬戸の迷いを振り払うアドバイスを送るのが、仕事仲間としての勤めだ。
「俺なら女の子を2人にするな」
「な、なに!?」
「ただおっぱいが欲しいというだけでは芸が無いだろう?巨乳と貧乳や、美乳×2=4とか、楽しめるじゃねぇか!」
女の子のパーツを増やすのではなく、女の子そのものが増えれば良いというハーレム展開をすぐさま伝える三矢。単純にして、効果的な処理であり、様々な組み合わせが可能。
「なんて単純な事だったんだ!それでいいだけじゃないか!」
「いや、最初からそれだったろ?お前の悩みってホント、馬鹿」
はぁーっと溜め息を漏らし、ようやく瀬戸の悩みが終わってホッとする三矢であったが、もう1人の難敵が後ろにいた事に今気付いた。
やべっ、今の話を聞いてましたみたいな、妙に明るい笑顔を振り撒いて、蠱惑な紫髪をなびかせて
「面白い話をしてたわね」
「と、酉さん。今の聞いてたのか」
このゲーム会社の心臓とも言うべき、チームリーダー。酉麗子がホントに楽しそうに今の会話に混ざろうとしていた。今さっき、纏めたばっかなのに続きをする気かこの人。あんたは女だろう!
「確かに女の子を2人扱えば、おっぱいもお尻も2倍になるわね」
女が何言ってんだ!恥ってのが、まったくねぇのか!?この人は!?
「でも、結局それってただのいつも通り。姉妹や後輩先輩、仲間同士みたいな組み合わせばかりよ」
「い、いつも通り……」
「瀬戸君。あなたは言ったわよね?新たなジャンルを開拓したいって、今、三矢くんの言ったことはあまりに普通。セオリー通り。惑わされてはダメよ」
せっかく、悩みがなくなったのに何また考えさせようとしてんだ!
「ですが、どうしても。その」
「あら?言いたいことを言いなさい」
止めろー!瀬戸の口を抑えよう!ロクなこと言わねぇぞ!
パシッ
「!なっ!?」
「あら~、三矢くん。手なんか出しちゃって、私と手を繋ぎたかったのかしら?」
酉さん!何、あんた。俺の手を止めてんだよ!行動を読んでるのか、この人!?ヤバイ!ロクな事になんねぇよ!
「はっ!?な、何してるんだよ!三矢!僕はまだ、酉さんと手も繋いだことないのに!」
「お前はそんなことを言うのかい!結果、止められたから良いか!」
「あらあら、残念だわ」
しかし、この出来事が瀬戸のインスピレーションを高める事となった。彼の頭の中はやっぱり女の子と触れ合いたい事だけしかない。今まで悩んでいた点を挙げるに、女性という形状を根本から変えようなどとしていた。
だが、今起こった偶然を見た瞬間、また新たな分野に目覚める。
「!!そうか!」
「なんだよ!」
ラッキースケベは不快でしかない。だが、例えば!
「好きな巨乳の女の子の前で告白し辛いとき、胸に飛び込んで、好きだとアピールするとか!裸が見たいから、堂々と女湯に飛び込むとか!そう!変態らしい行動があれば良いんじゃないか!?」
「堂々とやってる分、悪意がハンパねぇだろうが!」
それは生きているとも表現されるべき、躍動感と臨場感であろう。瀬戸がまだ足りなかったものは、キャラクターとしか描けなかったところだ。まるで生きているかのような動き、仕草、本当に恋をし、愛し合い、一緒に繫がるまでも、自然となっている一体感。さらにはそこに至るまでの過程が賞賛されるべき、雰囲気作り。キャラクターだけでなく、その周囲がより引き立たせるようにしなければならない。
男と女だけでも完成であろうが、高みを目指すならその全ても描けること。
「どんな言葉を並べようが、変態だろ!」
そもそもなぜ、男と女は惹かれあおうとするのだろう?運命とか、生物的な理由とか、色々なことがあるが、誰しもホイホイとくっつくわけではない。男には男の、女には女の。魅力、魅惑があるからだ。人間だけではなく、動物も、昆虫も、その良さをアピールし、奪い合いとも似た惹かれあいに辿り着く。
誰だって、みな同じ。
「みんな、エロイのよね」
「それをあんたが言って締めるんかい!?」
その後、瀬戸は人物以外の描写にもますます力を入れ、さらに急成長を遂げるのであった。
そして、新ジャンルは結局どーでもよくなった。