第三話 僕と夜明け
僕は薄暗い部屋の中ソファーの上で、目が覚めた。
「うぅ……すぅすぅ……」
部屋のどこからか、可愛らしい寝息が聞こえてきた。もちろん僕のではない……
僕の体に、少し体重がかかっているのに気がつき、その方向を向く。すぐ横には、静かに寝息を立てている愛の顔があった……でも僕は驚くことはなかった。
――そういえば、昨日はご飯を食べたあとに、テレビゲームとかして遊んでたんだっけ……そうか! 疲れて寝ちゃったんだ!
頭が回り始めた頃、気恥かしさで顔が熱くなった。
僕は眠っている愛を起こさないようにそっと抱き寄せて、自分の部屋へと連れていった。自分のベッドの上に寝かせて、風邪を引かないようにと毛布を掛けた。顔に少しかかっている髪をどかすように頭を撫でる。
愛がどんな夢を見ているのかは、僕にはわからない……でも、楽しそうに笑う愛の顔はとても可愛らしかった。そして、すぐにすぅすぅと静かに寝息を立て始めた。
起こしてしまったのではないかと思いヒヤヒヤしたが、愛が寝息を立て始めたのを見てホッとする。
――あー……びっくりした……いつもは眠っている時は可愛いのになぁ……
眠っている愛を見て、僕はふふぅっと笑う。そして、家の鍵を持って外へと出た。
午前3時頃――
外は当たり前だけど真っ暗だ。
「う、寒い……朝でもこんなに寒いなんて……でも、もうちょっとで目的地に着くし、まぁいいか……」
僕はあるところに向かって歩いている。街灯が立ち並ぶ住宅地の一角に、ひとつの建物から淡い光が漏れている。
その建物の中に入ると、
「おはようございます! 今日も精一杯働きますので、よろしくお願いします!」
と言って僕は頭を下げる。
そこは、新聞配達をしている事務所で、僕が一人暮らしをする条件の一つでもある。
「お、いらっしゃい。司ちゃん」
「司は今日も早いねぇ~」
「司ちゃん、お菓子とかあるけど食べる?」
中にいた数人が次々と、僕に声をかけてくる。
「あ、あの『ちゃん』付けは止めて頂けませんか?
お菓子は後でもらって帰りますが、今はいいです」
僕は困ったように答え、新聞紙の間にチラシを挟んでいく。
――この人たちは僕を子供扱いする……でも、人あたりはいいから、気にはしていない。
「うんうん、司はチラシを挟む速さは、相変わらすだな!」
奥の部屋から出てきて、そんなことを行ったのはここの社長だ。
――褒められて、悪いものではない……まぁ、普通に嬉しいし……
「あっ、社長! おはようございます!」
「おはようございます」
「おはよっす!」
社長さんに気がついたのか、周りの人たちも挨拶をする。
「今日もみんな頑張れよ!」
社長さんがそう言うと、僕の方を向いて声をかけてきた。
「司、ちょっといいかい?」
「あ、はい! ちょうどチラシを挟み終えたところですので……」
「そうか、いつも早いな……じゃあ、こっちに来てくれ」
そう言って小部屋に招き入れて来る。そこは、いつも社長さんが使っている部屋で、いろいろな資料などが置いてある。
僕が入ると、すぐに扉を閉めた。
「えっと、どのような用件でしょうか……?」
「ああ、司は段々慣れてきたようだから、配達する場所を増やそうと思うんだが……
悪くない話だと思うが、どうかね……?」
「あ、ありがとうございます! 謹んでお受けいたします!」
「そうか……わかった。なら、今日から頼む。もちろん、給料もその分増すし、量も増えるから、これまでどおり頑張ってくれよ!」
「はい! それでは新聞を追加して、配達に行ってきます」
「あぁ、そうだった。はい……これ新しい地図だ」
「ありがとうございます! それでは、仕事の方に戻ります」
そう言って社長さんにお辞儀し、小部屋から外に出た。
扉の近くには、仕事をしているはずの人たちがいて、僕は目を丸くする。
「み、皆さん、なんで……!」
「司ちゃん! 社長に呼び出されたから、クビになるんじゃないかって、びくびくしたよ」
「司のようにやつは、珍しいからな。そんなことなるわけないだろ!」
「だって、司ちゃん! おめでとう!」
などと僕を囲んで話している。すると、僕の後ろの扉が平入れ、社長さんが出てきた。社長さんの姿を見てか、みんな自分の仕事へと戻っていく。
――僕も早く配達を終わらせないと!
追加分の新聞は意外と少ない、すぐにまとめ終わった。
「それじゃ、配達に行ってきま~す!」
「いってらっしゃい!」
僕は配達用の白いショルダーバックを持って、その中に新聞紙の束を入れて、地図を持って走り出した。
その頃には、少し空が白んできているように見えた……
こんにちは、愛山 夕雨です。
三話目までは、とりあえず順調だと思います……二話目のあとがきで言っていた通り、司の朝の日課ということで、二話目の延長に続いてアルバイトの話の部分まで。司と一緒にいない時の愛の様子が少し気になりますね……。
次回は、まだ考えていないですが、学校に登校するあたりまで行きたいです。
それでは、また会いましょう!




