第四章‐3
……眼を開く。辺りは暗い。まだ夜は明けていなかった。潮の香り。波の音が聞こえる。身体の下には砂の感触、足には寄せては返す波の感触。どうやら弾き飛ばされて海に落ち、海岸に流れ着いたようだ。視界がぼんやりしている。眼鏡は海に落ちたときに紛失してしまったらしい。身体中が軋むように痛かった。特に、右手の痛みは耐え難い。アッシュは重たい右手を持ち上げて、顔の前にかざしてみた。
「……は、はは……」
思わず、乾いた笑いが漏れる。右手首から先が完全に異形と化していた。掌から手の甲までぶち抜くかたちで巨大な紅い石が埋まっており、手首から指の先まで黒く刺々しい、キチン質の甲殻類のような装甲で覆われている。禍々しい印象を受ける異形だった。
(これはもう、包帯程度じゃ隠せねぇなぁ……)
ぱたりと力を抜いて、右手を地面に落とす。
次に、左手に意識を向けた。最後まで離さなかった彼女の右手。その右手は海水で冷えたのか、とても冷たい。自分の手の温度も似たようなものだろう、と思う。彼女に怪我がないか、確認せねばならない。だが、首を動かすのも億劫だった。視線だけで自分の左隣を見る。
(……?)
しっかりと繋いだ彼女の右手。
「あ……、ああ……、ああああああああぁぁぁぁぁーっ!?」
掠れた絶叫が、喉から迸る。
その右腕の肩の先には、――なにも、なかった。




