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第一章『優しき獣』(3)

「本気出せよっ、つまらねーだろ!」


 俺より背の高い男の顎を蹴り上げてから、そいつの身体を踏み台にして跳躍、奥の男に踵落としを喰らわす。

 まだ身体の小さい俺は、小回りが利くから俊敏性はあるが……一撃があまり重くない。よって、一人あたり三発くらい攻撃しねぇと倒せないわけだ。殺すなら、その倍が必要。

 面倒くせぇのに……それでも心のどこかで、快感を抱いている俺がいる。人間を倒す快感を……。

「なんだよ、このガキっ」

「手加減してんじゃねぇっ、ぶっ殺せ!」

「し、してねぇよ、手加減なんて……っ」

 細い路地を、一人も俺の背後に回られることなく潰していく。俺の拳が紅で塗られるのは、刃物で切られた腕が血を流すから。


 俺の血……人間から忌み嫌われた力の宿る、俺の紅……。


 そんなことを刹那思ったからだろうか。気絶させるだけじゃ生温く思い、手加減をやめて本気で殺すことにした。

 人間が生きるのに、意味も価値も存在しねぇんだ。だから、その命を消すことに意味なんて、無い。理由も、要らない。



 邪魔なら潰せばいい、目障りなら消せばいい。俺が最も憎んだ種族を。



 人間がギリギリで微かに聞き取れる音波を、路地に響かせる。まだ使い慣れてねぇ技だが……こいつら潰すのには充分だ。

 高音の周波数を維持している時間は隙が多くなり、そこを狙われて傷が増える。だが、あと二十秒……十秒……五……、

「ひれ伏せ、ザコども」

 俺が見据えた男達から順に、膝から崩れてアスファルトにへたり込み、こちらに頭を垂れる姿になる。驚愕の表情をしながら。

 まぁ、それを見下ろしている俺も、ビル壁に寄りかかった体勢なのだが。


 いくら蒼波の下級歌と言っても、まだ超音波を使い慣れていない俺にはキツい。確か名前は、『呪縛波』……耳の奥の三半規管って部分をマヒさせる技、だったか? よくわかんねーけど、そこがマヒすると人間は身体のバランスがとれなくなるらしい。だから、こんなダサい姿勢になるわけだ。

 当然俺の耳にも聞こえるわけだから、俺自身にも効果が及ぶ。なんでも、何度も使用していれば耳が慣れてくるらしいが。


 顔面蒼白になって、突然の身体の異常に焦っている男どもが、見ていて可笑しい。醜い動物ども。

 だがやがて俺のマヒが治った頃には、一番俺の近くにいたうつ伏せ状態の男の首を掴み上げる。

「や、やめ……っ!」

「命乞いか? 本当に人間らしくて………………ぶっ殺してぇな」

 たった十三にして人の首を絞め殺せるだけの握力を持った俺の手。発達しているのは耳と喉だけじゃない……生まれながらにして、常人とは違う《破壊》の身体。


 俺に存在しないモノ。

 常識。

 権利。

 普通。

 意味。

 価値。


 ……求めて手を伸ばしても、俺の手自身が握り潰して壊しちまった、一度は望んだモノ達。

 《求めるコト》自体が間違いだと気付いた時、それは子供の俺にとって、あまりに早すぎた。人間を……人間である俺自身を嫌ってしまうほどに。



「死ねよ」


 この言葉にさえ、意味は、無い。




 指に全握力をかけるのに、二瞬。

 ビル風だろうか、疾風が俺達をすり抜けていくのが、一瞬。



 そして、大きな手は強く、握りしめる。


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