第五章『みんなの支部』(3)
遼平がいの一番に飛び込んでいき、澪斗も既に照準を合わせてノアの引き金を引ぃとった。いつもの事やけど、ワイは一番最後や。遠目に全体を見渡して、《穴》になる場所を埋めるのがワイの役目……って、いつの間にかなっとった。だって澪斗も遼平も全然人の指示聞く気無いんやもん。だから元より指示なんて出さん。あっちが勝手に動くなら、こっちも勝手にまとめるだけや。
出るタイミングを窺っていたワイの目が止まる。左から二番目の男がショーケースに飛び出した!
「近づけさせんっ」
澪斗と遼平の《穴》から抜け出た一人を、鞘の一閃で薙ぎ飛ばす! 横の壁に飛ばされていく身体。一応攻撃の手は考えておる。
「澪斗、遼平! 絶対に落とすんやないで!」
ここは高層ビルの八階や、落ちたらまず命は無い。勢い余って突き落としたりしたら、大変な事になる。……あいつら、ちゃんとその事考えておるやろか……あァ、まず無いな。とりあえず、遼平は。
「おらおら手ぬるいんだよーっ!」
一発の強打で昏倒させていく遼平が、その足下に気絶した者達を重ねる。澪斗がカートリッジ切れのノアを再装填させている。あとは……。
「な……っ!?」
ふと横を見て、ワイは一瞬気が抜ける。さっきワイが飛ばした男を、純也が心配そうに介抱しとる!? なっ、何しとんのやあの子はっ?
「純也! あんさん何してるっ」
「えっ? だってこの人痛そうだから……」
「その人はエエのっ! 悪い人やから!」
なんでワイ説明しとるの?
「でも……」と純也はまだ不安そうに男の腕を優しく握っている。手加減したから、骨の一本や二本ならともかく、絶対に死なへん。……純也も、よく診る内にわかったらしく、恐る恐る離れようとした。が。
「うわっ?」
純也が介抱したせいで男が目を覚ましよった。しかも、純也はその男に捕まる。あァもう! せやから言ったのにっ!
「よかった、気がついたんだねー」
「おいっ、状況考えんかい! あんさん捕まっとんの! 良くないからっ、何一つとして良かったコトないからっ!」
思わずツッこむワイ。いや、なんか血が騒いで……ツッこまずにいられんかった。ハリセンが手元にあったら使いたい気分やわ……。
「へ、へへ……ガキが……! おいお前ら! このガキがどうなっても知らねぇぞっ」
うわー、よくある手やわァ。しかもタチ悪いし。ったく、だからワイは注意したんに……どないしよ?
「遼平っ、いったん下がれ! 澪斗も止まれ!」
「あぁ!?」
「ちっ……」
思いっきり叫んだので二人にも聞こえたらしく、場はふっと静かになる。純也を強く身体の前で掴んだまま、男はゆっくり少なくなった仲間の元へ歩み寄る。顔は興奮に歪んでおった。
「動くなよお前ら……」
「ふん、俺がそんな脅しに乗ると思うのか」
『俺が』って言い切るあたりが澪斗らしい。遼平だって普段なら動じないはずやけど、今回は違うかも……とちらっと遼平を窺うと、その顔はにやけておった。……何考えとんのや?
「純也、聞こえるかー」
「え、何、遼?」
「そいつら悪い人間だぞー」
「そうなの??」
自分が捕まっとるってまるでわかってない。頭抱えたい気分やった。にしても、遼平は何言っとるんや?
「お前ら、ふざけた事を……! 一人ぐらい死なねぇとわかんねえか!」
銃口がワイに向く。…………へ?
「え、何!? ワイっ? ちょっと待てっ、ワイ何も言ってないやん!」
焦って顔の前で手を振る。『脅しに乗らない』ゆうたのは澪斗やし、挑発したんは遼平やん! ワイ黙ってたのにっ!
「おぉすげーな真、ご指名だな?」
「今まで何処にいたんだ? 影が薄すぎてわからなかったが」
あんたらァァァっ!!
「ずぅっとワイはここにおったわ! 影薄いって言うな! 最近モロに気にしとるんやからっ」
あ、なんか胃痛してきた。ワイってつくづく不運……。
「うるさいぞお前ら! そこの金髪、死んどけぇぇ!」
ええええぇぇーっ!?
『死んどけ』って、そないに簡単に言わないでぇぇっ! 人の命って大事なんよー!? ……あ、ワイが言っても説得力無い? せやねぇ……。
とかなんとか考えとる間に力が込められる引き金。避ければ純也が危ない、か……飛び込めば一瞬で片づけられるか? ここはイチかバチか……!
「ダメェェ――――っ!!」
「へっ?」
高い叫び声と一緒に強風が吹き込んできて……全ての視界が、白に染まった。