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第三章『鏡』(5)

『……み、みんなっ……きゃあっ!』


 ノイズ音に変わり、通信は遮断される。

『おいてめぇ! セキュリティーの解除装置はどれだ!』

 無線はまだ生きていた。ノイズに紛れて、そんな男の声が聞こえる。やはり侵入者は監視室にいる。

『教えるわけないでしょっ!』

『この女ぁ……! そんなに早死してぇのか!』

 監視室まであと僅かだ。だがあの女、このままだと金庫室のロックまで解除してしまうかもしれない。使えないヤツめ……!


『こ、殺したいなら早くやりなさいよ! 私は、私に恥じなく生きるのっ!!』



 …………。




「……上出来だ、女」



 豪快に破壊された扉に手をかけ、女の首をしめていた侵入者の腕を撃ち抜く。撃たれた男は呻き声を上げ、他の男どもが驚愕の視線をこちらに向ける。

「手間をかけさせたようだな。感謝しろ、《セキュリティーが出向いてきて》やったぞ」

「澪斗……っ」

「なんだと!? どういうことだっ」

 止められていた呼吸に息を荒くしながら、女が座り込んでこちらに振り返る。侵入者はざっと十人程度か。口止めされていたが、ここまで来られた以上セキュリティーの内容を話しても問題有るまい。全員、生きては返さないのだからな。

「無駄話は好まんが、教えてやろう。ここのセキュリティー……《防犯システム》は俺達警備員のことだ」

「ンだとっ!?」

「つまりは俺を殺せばセキュリティー解除だ。その女を揺すったところでどうにもならんぞ」

 鼻で軽く嘲笑する。男どもは驚いたのか困惑の表情を見せる。


 俺は嘘をついていない。本当に、この銀行には今、防犯システムが働いていない。俺達以外は。せいぜい最低限の金庫室のロックぐらいだ。返ってこちらの仕事の邪魔になるので先に解除してある。下手に警報でも鳴らされれば警察が来て厄介だからな。


「ふ、ふざけやがって……! まぁいい! てめぇ一人を殺せば金塊が手に入るんだからなぁ!」

「……殺せれば、な」


 粋がって銃口を上げた一人の左胸を、刹那に撃ち抜く。……一人目。


 続いて銃身が重い機関銃の照準を合わせていた右二人の脳天を連続射撃。遅い。……二、三人目。


「こ、のヤローっ!」

 三日月状の大きい青龍刀を振り上げ、熱くなって襲い来る。愚かな。

 刃を振るうが、隙が有りすぎだ。寸前でかわし、マグナムを左胸に押しつける。男を見もせず、無表情のまま指に力を込める。

「……さらばだ」

「がっ、あぁ……!」


 至近距離からの発砲により即死。ゆっくりと倒れゆく身体と擦れちがう。……四人目。


「な、なんなんだこいつ!」

「まとめてかかれ! 連続しては撃てねぇっ!」

 ……一応訂正しておくと、連続発砲可能なのだが。ただ、リボルバー式の銃は再装填するまでの銃弾が少ない。連射式と比べ、俺の銃は一度に六発しか連続発砲が出来ないだけだ。銃弾を装填する瞬間に隙が生じるのがデメリットか。

 四人一気に飛びかかってくる。腕の届く範囲に入られるまでに一人を射殺、太い腕を伸ばしてきた男の眉間を銃身で殴り飛ばす。自棄状態で腰に掴みかかってきた男の鳩尾を蹴ると、腰に下げていたストック用の銃弾がばらけて落ちていった。四人目がそれに脚をとられて滑ったので、その隙に監視室の奥に転がり込む。


「ちっ……」


 出来ないわけではないが、俺は肉弾戦が好きではない。あんな原始的で野蛮な手段で戦おうとする者の気が知れん。

 一度監視室内の大机に身を隠し、両者距離をとって様子を窺う。


 ……どうするか……。


 先程の一発で、六発全てを撃ち終わってしまった。ストックの銃弾は男どもの倒れている床の上だ。悪状況に再び舌打ちをしたくなるが、こちらが今不利だということを敵に悟らせるわけにはいかない。

「ねぇ……ねぇっ、澪斗っ」

 潜められた声に不機嫌な顔で振り向くと、同じ机の影にあの女が隠れていた。そういえばこの女、いつの間にか視界から消えていた。ここに隠れていたのか……。

「どしたの? なんで隠れてるの?」

 この女……つくづくわからなくなる。こちらが訊きたい。何故貴様はココに……裏社会にいるんだっ?

「……弾のストックを失った。もう銃は使えん」

 俺にも自棄が回ったのか、女に状況説明してやる。女はふと頭を捻って考える仕草をする。


 ……?


「おい、その出血はどうした」

 女の横顔から見えた、顔を紅く染める流血。俺はこんな状況にも関わらず、何故かそんな事を尋ねていた。

「へ? これ? あぁ、最初に背後から殴られちゃって……あはは、私トロいから」

「……」

 痛みを堪えているのがわかる無理な笑み。同僚の殺傷状況などいつも眼中に無かった俺が、初めて気にかけた。自分自身、その理由がわからん。



「どうしたガキぃ!早く出てこいっ」

 机が銃弾に耐えている。だが、長くはもたない……!



 状況打破の方法を探っていた俺の思考を止めたのは、意外な声だった。


「あの……さ、もしよければコレ使ってみない?」


 俺の顔色を窺うように女が差し出したのは、あの黒い銃。三日徹夜で作ったとかいう、胡散臭いカートリッジ式の……。

「そ、そんな極度に嫌そうな顔しなくても……」


 ……俺はそんな顔をしているか?


 無意識に俺の眉間は深いシワを刻んだらしい。

 おどおどする女の手から、黒い銃を取る。もうこの際だ、玩具に賭ける。賭事は、俺の性に合わんが。

「……貴様はそこから動くな」

 銃を握り、机の端から侵入者達を確認する。こけおどしでいい、一発放ったら飛び出して、ストックの銃弾を回収する!

「そこかっ!」

 黒い銃口を上げて、同時に構える! 引き金を全力で引いて……俺は驚いた。


 速いっ!?


「がぁっ」

 俺が放った弾丸はマグナムより速かった。しかも貫通こそしないものの、撃たれた男は激痛が走った顔で倒れる。

「や、やれ!」

 驚きで最初の計画を忘れ、俺は反射的にそのまま黒い銃を構えていた。あと男は四人。確実な急所を一瞬で定め、一番近かった二人組みを撃つ。

 やはり銀色の弾は身体を貫通しないし、あまり銃声もしない。だが倒れていく男ども。

 この感覚は……。

 この重量、銃身のサイズ、引き金の重さまで、俺のマグナムと酷似している。わざと意図して作ったというのか? 俺のマグナムと同じ型で……?

 しかし威力が足りないのか、一度撃った男が一人起きあがってくる。

「澪斗っ、オマケにこれ!」

「なっ」

 女から投げ渡されたのは、軽く薄い縁のない眼鏡。俺は視力は悪くないのだが。コレを、どうしろと?

 眼鏡に注意を取られている隙に銃弾に襲われ、なんとか跳んで避ける。ここまできてしまったらしょうがない……俺は賭けた。この銃に、あの女の腕に。

 眼鏡をかけると、視界に文字が浮かぶ。飛んでくる弾丸の軌道が表示され、容易に避ける事が出来る。銃口を上げればその照準が青い輪として浮かぶ。

「いい加減死ねぇぇ!」

 男がドコを狙ってくるかが表示されてわかる。それを避けるのは簡単で、同時に青い輪が眉間を狙う!

 射撃位置は完璧だった。眉間に弾を当てられた男が卒倒する。今度は起きあがる気配を見せない。

 残ったのは二人。一人が怖じ気づいて後ずさる。

「く、くそ……」

「一つ訊く。貴様らは裏の人間か」

「だっ、だったらどうした!」


「…………右手に狼の入れ墨をした殺し屋を知っているか」


「知らねぇよそんなヤツ!」

「……そうか」

 答えが聞けたので用済みの一人を撃って昏倒させる。……あと一人。

 一度近くの棚に隠れ、最後の隙を窺う。もうこの銃の扱いは覚えた。次で決める……!



 最後の一人が震えて銃を構えている。俺が身を乗り出そうとした時、軽い何かが倒れた音が。瞬間、侵入者の男と共に注意がそちらに向く。男はその音を俺だと思い込み、瞬時に銃を構えていた。音の元凶は……倒れて机の影からはみ出したあの女。怪我のせいでもう意識が……!



「ちっ」

 怯えて引き金を引こうとしている男が見えて、俺は女の方へ飛び出していく。……俺の意思とは関係無く。

 転がり込んで女を抱き、一発は避けた。だが、銃を構えて両者動けなくなる。俺は片膝をついて片腕に気絶した女を抱いたまま、銃口を真っ直ぐ急所の位置に向けている。だが、男の銃口も俺の喉元に向いた状態だ。


 ……どうする。


 俺は冷静だった。この体勢では、素早く動けない。動いたとして、激しく揺らせば女の容態が悪化する。頭部からの出血が続けば、脳に障害が残る恐れがある。


 ……?


 何故俺はこの女にそんなに構っている? 答えが出てこない……こんな状況だというのに、俺自身に虫唾が走る。《俺》が、わからない。


 俺の理性が、負けている……? 一体何に!? この俺が……!


 …………俺は強引に答えを引きずり出した。『この女にはまだ、利用価値がある』……そういう事だ。



 だから、ついでに護ってやる。



「こ、ここ……こうなったらてめぇは道連れだあぁぁー!」

 完全に自我を失いつつある男が、引き金を引こうとする。


 相打ちなど好まんが、俺は……!!



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