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第三章『鏡』(3)

 あれから、あの女の俺を見る眼は畏怖や嫌悪になった。俺達の支部が設立されてまだ僅かで、あの女の前で俺が仕事をしたのはあれが初めてだったからだ。女は俺の銃を恐れ、俺を避けるようになった。少し大人しくなったので、俺にとっては悪くない。



 東京本社地下の、射撃練習場。本社の地下には、戦闘訓練場があり、ここはその一室。中野区支部に依頼の無い今日、俺は腕慣らしに来ている。素早く動く的の小さな点を狙い、銃弾は僅かにそれて貫通する。

「……」

 まだだ。まだ、力量が足りない。雑魚は始末できても、この腕では――――。


「ね、ねぇっ」


 他の社員が放つ銃声以外で、俺の耳に届いた高い声があった。見下ろすと、あの同じ支部の女。物凄く怯えながら俺を見上げてくる。射撃訓練用の耳あてをつけたままだ……こうして見ると、一層幼く見えるな。確か歳は、十五だったか。俺と三つしか違わん。

「……何をしに来た、女」

「な、何度言ったらわかるのよっ、私の名前は……きゃあっ」

 隣りでした銃声に、女は震えてしゃがみ込む。一体何をやっているんだ、この女は。襟首を摘み上げ、俺は女を連れて部屋を出る。



「……で、何なんだ」

 完全に呆れた顔で、俺は問う。女は目の端に涙を浮かばせながら、強気を必死に保った顔で睨み上げ、こう言った。


「その銃、見せてっ」


「は?」


「ちょっとだけでいいから、見せてよっ」


「嫌だ」


 即答。


「なっ……、いいじゃない! ちょっとぐらい!」


「これは他人には渡さん。大体、貴様銃など持てんだろう」

 「うっ」と女は言葉に詰まる。わからない女だ。拳銃をあれほど嫌っていたくせに、何故そんな事を言い出す?

「じゃ、じゃあ型だけでも教えてよっ。それくらいイイでしょっ?」

 俺は不満そうな顔で目を細める。それだけで女は怯む。背を向けて射撃室の扉を押し開けようと手をつけて、


「……リボルバー(回転)式拳銃《コルトパイソン.357マグナム》」


 気まぐれで、そんな事を言っていた。声が届いたかどうかはわからない。……俺らしくない。

 射撃場に戻り、俺は再び弾を装填し、精神を的に集中させる。全ての雑念を振り払ってから。


     ◆ ◆ ◆



「お、澪斗、ちょうど良かった」

 支部の事務所に戻ってきた俺に、振り返り際真が書類を渡してきた。ざっと紙面に目を通す。……依頼か。

「三日後か」

「せや。ちーとばかし大きい仕事やが、警備は一夜だけ。金塊を一晩だけ預かる銀行の、裏警備やな」

 ガチャガチャという何かの金属音に俺の意識は逸らされる。顔を向けると、音の原因は机の上に機械部品を広げているあの女だ。まったく、つくづくうるさい。

「……今度もあの女がいるのか?」

「そんな怖い顔すんなや。希紗は今回は監視室」

 別に俺は怖い顔をしていない。ただ尋ねただけだ。女にこちらの会話に気付いた様子は無く、機械いじりに没頭している。

「これよ……赤外線センサーを……配線に異常は無いわ……」

 ブツブツと独り言を零す女。そういえばこの女、本業はメカニッカーだったか。だがこんな歳の女が、一流に機械を扱えるわけもない。所詮子供騙し程度だろう。


「澪斗? どうした?」

「……何でもない。三日後にそこに行けばいいのだな、ならば俺はそれまで本社か家にいる。よほどの事がない限り呼ぶな」

「あんた……、よっぽどココが嫌いなんやなァ」

「フン、俺に合わないだけだ」

 この事務所に居たところで時間の浪費だ。本社で訓練をしていた方がよほど有効的だろう。大体、この空気を俺は拒絶する。馴れ合いは好かん。

「はいはい。すんませんね」

「真、返事は一度にしろ」

「はーい」

「伸ばすな」

 意地悪く返す部長を睨む。こいつはどういう教育を受けてきたんだ。大人げないやつめ。

 カバンを掴み、踵を返して俺は事務所から出ていく。暗い階段を降り、一階の駐車場に停めてある車のキーを解除しながら、ふと考える。


 ……俺は何故この支部に配属された?


 あの社長、配属される人間の性格を知っていながらわざと? 何故だ、俺に何をさせようと?



 車のサイドミラーに俺が映る。

 俺は……利用しているつもりで、逆に利用されているというのか……っ?



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