帰り道
彼女との深夜のデートから数ヶ月、あれから私達はいつものペースで電話やメールを続けていた。時間が合えばご飯を食べに行ったりしていて、お互いの仲はとても良い感じになっていた。そんな間柄だったので、私は彼女の事を日に日に好きになってきていた。
とある夜の事だ…。彼女から一通のメールが届いた。
【道に迷っちゃった…ここどこだろう…。】
私はそのメールを見て、急に心配になりはじめた。彼女になんかあったのだろうか?
【どうしたの?道に迷ったって…電話できる?】
【電話は無理。今電車乗ってるんだけど、なんだか違う電車乗ってしまったみたいで……】
【次の駅の名前教えて。俺がそこまで迎えに行くよ】
【〇〇駅。わかる?とりあえず止まったら降りるね】
駅名はわかった。結構遠いな…でもなんでそんなところに?
彼女から電話がかかってきた。
「とりあえず降りた。わかる?ドジでごめんね。」
「わかるからもう大丈夫だよ。安心して。とりあえずそこから三つめの〇〇駅まで行こうか。そこなら駅も大きいし、コンビニとかどっかで時間つぶせるから、女性一人でも大丈夫だと思うんだよね。今そっち向かってもう走ってるから、40分くらい待っててね。」
「結構遠いところなんだね…、迷惑かけてホントにごめんね。コンビニあったから、そこで立ち読みして待ってるね。気をつけて来てね。」
「良かった。そこなら安全だと思う。出来る限り早く行くから少し辛抱しててね。それから、全然迷惑だなんて思ってないよ、じゃあまた後で。」
私はそう言って電話を切り、先を急いだ。時刻は12時を過ぎていた。
「おまたせ、そろそろ着くよ。大丈夫?」
「ありがとう!大丈夫だよ。少し疲れてるだけかな。外出て待ってるね。」
車は彼女のいるコンビニに着いた。
「ホントにごめんなさい…助かりました。夜遅くにごめんね。」
そう言って彼女は私の好きな銘柄のコーヒーを渡してきた。
「このおっちょこちょいめ、なんでこんなところにいたの?話しは車で聞かせてもらうから帰ろう!さぁ乗って。」
彼女は申し訳なさそうに助手席に乗った。
「んで、どうしたの?言いたくなかったら言わなくてもいいけど。」
「実はさ、元カレと話し合いしてきた帰りなんだ。そしたら帰りに電車乗り間違えちゃったみたいで…。」
私は彼女に好意を寄せていた身だからその発言に動揺した。
「そ、そうなんだ。なんかあったの?今さら話し合いなんて…。」
「復縁したいからとりあえず会って話しがしたいって言われて、行くには行ったんだけどやっぱりもう彼とは無理って言ってきた。」
「ホントにそれで良かったの?未練ない?」
「うん!全然ないや。これで綺麗サッパリ出来た感じがするよ。」
彼女の強がりだろうか…そうは言うものの、うっすら目に涙を浮かべていた。
「いいじゃんいいじゃん!良かったじゃん。アユちゃんを泣かせるような奴は最初から無理だったんだよ。これからは新しい恋に走ればいいじゃん!アユちゃんぐらい可愛い娘ならすぐ新しい彼氏見つかるって!」
「そうかなぁ…。いい人と巡り会えればいいけど。」
「大丈夫だって、俺が保障するよ!なんなら俺、立候補しちゃおうかなっ。」
「そうやって、また優しいんだから…。冗談でも嬉しいよ。」
私としては冗談なつもりではなかったのだが…。
「冗談じゃないかもよ?だって俺、アユちゃんの事好きだよ!」
「ありがとうね。あなたといると凄く優しい気持ちになれるよ。」
あら?なんだか本気と思われていないようだ…。ま、いっか。今はまだ彼女の気持ち自体不安定なんだから仕方ない。回復したらまた改めて気持ちを伝えよう。
「とりあえず今は嫌な事忘れて帰ったら寝ちゃいなよ!それが1番だよ。」
「そうだね。そして気持ち切替なきゃね。」
「そうそう、そのいきだよ!俺でよければいつでも相談のるし、気分転換にどっか行ってもいいしさ。元気出して!」
「うん。またあなたに元気づけられちゃったね…。いつもありがとうね。」
私は無事に彼女を家まで送り届けた。
「本当にありがとう。このお礼は必ずするから。気をつけて帰ってね。おやすみなさい。」
別れ際に彼女はとびっきりの笑顔を見せてくれた。
「おやすみ。またねっ。」
私は自宅に向けて車を走らせた。
今度彼女と会う時に、いい感じになったら思いきって告白してみよう。私はそう決めて眠りについた……。
しかし、あんな事になるなんて今はまだ思ってもいなかったな…。