無題
そしてお互い仕事が終わりそれぞれ一旦帰路についた。若かった私は心臓が張り裂けてしまうほどのなんともいえない幸福感をえた。あの憧れの人と二人っきりで飲みに行けるのである。当然の結果だ。
待ち合わせ場所まで行きドキドキしながらその時を待った。数分後、いつもとは違いお洒落な服装で姫が現れた。とても可愛くて今でもその姿は焼き付いている。世間話などをしながら目的地に向かう。
「さぁ着きましたよ姫ちゃん。今日はいっぱい飲んで盛り上がろうね」
「うん。今日はとことん飲んじゃうぞ。覚悟しときなね」
あまりにも理想的な展開で私の心は最高潮だった。今までの仕事の話し、お姫様のあだ名のいきさつ、姫と旦那の馴れ初め、旦那の愚痴などを時間を忘れて話しあった。気づくともう終電の時間である。夢の様な楽しい時間は残念ながら終わりを迎えた。店から出た直後に嬉しい事が私を待っていた。姫は結構飲んでいて頬をピンク色に染め、かなりご機嫌だった。そして私の腕に抱き着き、顔を肩に乗せて寄り添ってきたのである。
「大丈夫、姫ちゃん?飲みすぎたんじゃない?歩ける?」
「全然大丈夫でーす。でも少しだけでもいいからこうさせてて」
とは言うものの、明らかに酔っていて歩くのが難しいみたいだった。私は腕に抱き着かれながら幸せを噛み締めていた。でもこのままでは終電に遅れてしまう。そこで私は姫をおんぶしてしまおうと考えた。
「姫ちゃん、俺おんぶしてあげるから背中に乗って」
「は〜い。よろしくね。」
なんとも可愛い甘い声である。そして姫をおんぶして改札に向かった。これが恋人同士であったら、なんて羨ましい事だろうと私は感じていた。最寄駅に着き、またおんぶをして帰り道を話しながら帰った。
「もう1時過ぎだね。旦那さんに怒られない?こんな時間までごめんね。」
「やばいかもね。でも今日は凄く楽しかったし、ストレスも発散出来たよ。本当にありがとう」
「また飲みに行こうよ姫ちゃん。俺も凄く楽しかったし最高だったよ。姫ちゃんは凄く可愛いし惚れちゃいそうだよ」
私は思わず口からポロっと惚れちゃうと言ってしまった。その後事件が起きた。
「まだ家に帰りたくない。私に惚れちゃいそうなの?そんな言葉言われたら私もう……」
そう姫は私に言いながらキスをしてきた。あまりに突然で、一瞬私は何が起きたのかわからくなっていた。でも今私は夢の様な現実にいる。姫ちゃんのキスは優しくて甘くてそして卑怯なキスだった。
「姫!俺、仕事場で初めて見た時からずっと好きだった。でも、家庭持ちだから今まで言えなかった。大好きです。付き合ってください。」
私は自分でも信じられない言葉を発していた。
「ありがとう。私もね、実は好きだったんだ。でも私は子持ちだし旦那もいるから気持ちを抑えてきてたの。こんな私でいいの?」
私の答えは決まっている。「もちろんだよ。姫ちゃん大好きだ!」
私達はまたキスをした。
「ねぇ、この辺で休めるとこないの?ある?」
「あるといえばあるけど…」
私達は職場の付近で今までの会話をしていた。時間帯は2時30分を迎えようとしていた。