私の決意
静かに彼女は口を開いた。
「私ね…私の問題だから、あなたに知られたくないからずっと黙ってきたけど…事ある毎に旦那から暴力を受けてるの。あなたに傷の事とか言われた時、転んだとか、ぶつけたとか言ってきたけど、ほとんど全部旦那の私への暴力だったんだ。私達夫婦は昔から上手く行ってなくて、向こうが気に入らない事があると、すぐ蹴られたり、水かけられたり、髪引っ張られたりと、それが当たり前の様になってた。でも今まではそれも全部自分のせいだと思って耐えてこれてたけど、今日は子供達に水かけて、灰皿投げ付けてきたの。だから許せなくて、私も子供達守るために反抗しちゃったの。そしたらバット持って来て、殺してやるって言われて………。私、もう嫌だよ…あんな人と一緒に生活できない。このままじゃ、私も子供達も何されるかわからない。だから家飛び出して来ちゃったの。そしたら追って来て、その後はわかってる通りで、今ここにあなたといる。」
彼女は泣きながら私に申し訳なさそうに話してきた。
「そっかぁ…今までつらかっただろうに…。ごめんね、気づいてあげられなくて。ごめん…。」
「なんで謝るの?謝るのは私の方でしょ!」
「だってさ、言いたくても言えなかったんでしょ?言ったら俺の性格だから、旦那の事殴りに行くとか言いだしそうだからでしょ?俺に余計な心配かけたくないからなんでしょ?」
「うん…。その通りだよ。だって実際、旦那がバット持って表れた時、見たこともない顔してたし、かなり怒ってた感じしてたから。こんな話ししたら、またあなたをそういう気持ちにさせちゃうでしょ?」
こんな状況だが私は嬉しくもなっていた。
「うちらって知らず知らずお互いの事よく理解してるんだね。だって、思ってる事一緒だもん。」
私は続けた。
「姫さ、俺とこのままどっか行っちゃおうよ!お互い全て捨てて、二人きりで暮らそう!姫の事は俺が何があっても守るからさ!」
あながち嘘はついてない。私は本当にそう思ってた事であったし、彼女となら、この先苦しくてもやっていける勇気も自信もあった。自分がこの人を護らないで誰が他に護るというのだ。私意外の人とは上手くいくはずもない。彼女の隣には私しかいない。自信過剰かもしれないがこの頃の私は本当にそう思っていた。
彼女はずっと泣いている。
「ありがとう…本当にありがとう。こんな私の事を好きになってくれて、しかも…全て捨てて一緒になろうなんて言ってくれて、今の私にはもったいない言葉です…。私は………あなたと一緒に生きたい。」
「俺もお前と一緒に生きていきたいよ。これまでもずっとそう思ってたよ。苦労はかけるかもしれないけど、きっと幸せな生活が待ってる。姫………、俺と一緒に行こう!」
「うん………。」
私の胸で彼女はワーワー泣いている。もうどれぐらい経ったのだろう…。私は彼女をきつく抱きしめた。こんなに、か細かったのかと思うほど彼女は小さくみえた。そんな私達のやりとりをみていたぼんやりとした月が、私達を優しく照らし出してくれていた。
「愛してるよ姫ちゃん。」「私もだよ…。」
二人は優しく長いキスをしてから立ち上がる。
「行こうか…。」
彼女はまだ少しベソをかいている。私はいつかの様に彼女をおんぶして車に向かった。
「あのさ…。」
「何?」
「苦労は嫌だからねっ」。
「はいはい。かしこまりましたよ、お姫様…。でも今日は言わせてもらっちゃお、バーカ!」
「フフフッ。ハハハッ。」
「調子でてきたじゃん!それでこそ俺のお姫様だよ。俺が大好きな姫だ。」
車に到着した。私達は車に入りもう一度をキスをして出発した。この時私は希望と決心をして、なんとしてでも幸せにしなきゃと思いアクセルを踏み込む。
………でも………その決意も………この後すぐに無意味だと思わされる事になるなんて………私は知るよしもなかった……。