苦悩の幕開け
次の日、私は仕事の後、彼女と逢う事にした。
「昨日は祝ってくれてありがとうね!超嬉しかったよ。あんな誕生日、初めてでワクワクしちゃったよ、また来年も楽しみにしてるからね!」
「ううん。私も凄い楽しかったよ!初めての事で興奮しちゃった。」
少し沈黙が続いた。
私は彼女を信じていたので攻めるつもりは毛頭なかった。この場合、私から切り出すのがベターなのだろうか?多分彼女も今まであんな体験がなかったから何て言えばいいのか考えているのだろうか?私は自ら話しかけた。
「どうしたの?昨日の夜の事ならもう全然気にしてないから大丈夫だよ!」
「本当に?」
「うん。信じてるから大丈夫。だって、無理矢理だったんでしょ?違うの?」
「無理矢理だったけど…。キスされてたのは見てたんでしょ?だから私、あなたに、なんて謝っていいかわからなくて……」
みるみるうちに彼女の目から涙が溢れてきた。
「そうやってすぐ泣かないの!信用してるんだからさ!もう泣くな!怒るよ。」
と、言いつつも私は彼女の事を抱き寄せ頭をポンポンとした。
「前も言ったけど俺は姫ちゃんの事が好きなんだよ!それで良くない?他に理由いらないでしょ?俺がそれでいいって言ってるんだから、もういいじゃん!だからさ、笑ってよ!」
私は強がって、精一杯の言葉を彼女にぶつけた。本当は二度とあの時の事を思い出したくないだけなのだ。あの話しをされると自分でも整理がつかなくなりそうで怖いのだ。
「いいの?本当にこんな私で?」
まだ彼女は泣きべそをかいている。
「その台詞、この前も聞いたよ。いいに決まってるでしょ。だからこうして今日も逢ってるんだよ。嫌だったら逢わないよ俺。」
「いつも思うけど、あなたは私に優しすぎるよ。ズルイよ。」
「何が?俺にしてみれば、至ってこれが普通だよ。別に優しいのは元々なんだしさ。あ!でも他の人と比べたら俺の方が優しい人かもねっ!そこは自信持って言えるかも。」
「フ、フフフッ!何それ?そんな事言った人、生まれて初めてだよ。ハハハ。」
「ようやく笑ってくれたね。やっぱりその笑顔が好きだよ!」
「ばーか。でもさっき言った事、私信じるよ。ホントにこんな人、探してもいないもん。それと、こんな私の事信じてくれてありがとう」
なんとかなったかな…。私の心も落ち着きを取り戻した。でも、あんな事は二度とゴメンだ。それに、こういうやりとりはあまり自信がないのが正直なところだ。私は人を好きになると真っ直ぐになってしまう癖がある。それが、いい方向に向いてればいいが、嫉妬心が人より何倍も多いため自分を見失いやすい。そんな私が人妻を愛してしまった…この恋愛には必然的に嫉妬心がついて回るだろう。ここまで自己分析が出来ているのに今回はやめられない。それは、好きになってしまった人が誰か(旦那)のものだからだろうか……
私は………、ダメな人間だ
こんな事を思い、苦しみながら私の二年間が過ぎていこうとしていた。