エピローグ:最果ての守護者(ラスト・ガーディアン)
本編第三十話でハルたちが歩み出した輝かしい未来。
その裏側でネットワークの深淵から二人を見守り続けていた
「もう一人の記録者」の視点をお届けします。
暗闇の中でモニターの黄金色の光だけが俺の顔を照らしている。
地下の最果て、数百のサーバーが放つ熱気と駆動音。
二年前、一ノ瀬零という名を捨ててからここが俺の戦場であり唯一の「居場所」だった。
画面の向こうでは新しい朝が始まっていた。
「お兄ちゃん、あのね。零兄ちゃんがね、本当に困ったらこれを壊してって……」
陽向が一生懸命に俺との約束を伝えようとしている。
だがハルは穏やかに笑って陽向の頭を優しく撫でた。
「うん、分かってるよ陽向。
……兄さんの気持ちしっかり受け取ったから。おかげで最高に勇気が出たよ。ありがとうな」
ハルはそう言ってスーツの襟を正した。
この貯金箱には俺が構築した「真心の信託基金」が解禁されたこと。
今も彼の口座には生活に困らないだけの莫大な資金が「父親の遺産」の名目で、自動送金され続けていること。
お人好しのハルはその「裏側の真実」に一ミリも気づいていない。
「よし九条先生のところへ行ってくる。
……今日からまた新しいログを刻まないとな」
鞄を手に清々しい表情で転職先の九条法律事務所へと向かう弟の背中。
俺は思わずモニター越しに口角を上げた。
(……まぁ、いずれ知ることになるだろうし今はそれでいいか)
もしまた阿久津や桜庭のような連中が再び牙を剥こうとするなら、俺がこの闇からすべてを検閲してやる。
弟が金の心配も理不尽な悪意も感じることなく、誰かのために汗を流せる世界。
その「日常」を維持することこそが死人になった俺に課された最後のプロトコルだ。
「……さて、仕事に戻るか」
俺は最後に画面の中で大きく手を振る陽向と振り返らずに歩き出すハルの姿を、目に焼き付けキーボードに指を置いた。
完全な闇の中、俺の打鍵音だけが弟たちの未来を守るためのログを静かに刻み続けていた。
(完)
『【断罪の記録者】』、これにて全編完結です。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
誠実な者が馬鹿を見ない。
誰かのために流した汗が、正しく報われる。
そんな世界であってほしいという願いを込めて「記録」を綴ってきました。
私の実体験を元にしているので、最後まで執筆できて本当に良かったです。
私の今後の未来も明るくなれるように、前を向いて歩きたいと思います。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。




