7 ◇ 事件解決!これにて決着……?
全11話+後日談2話(執筆済)。基本毎日投稿予定です。
本日も3話分投稿してしまうことにしました。
そのクソみたいな真実に気が付いたのは、事務局を辞める意思を職場の皆に伝えたとき。
同僚達にベラとは違って
「事務局を辞める?!
……そ、そっか。突然の決断で驚いたよ。
うーん……同じ職場の同僚としては、フィリップがいなくなっちゃうのは寂しいし、正直『勿体無い』とも思うけど。
でも、俺たちはフィリップの決断を応援するよ。」
「フィリップ!職人の道は険しくて大変だと思うけど、楽しんで修行しろよ!
いつかフィリップの店で、とびっきり美味いコーヒーをオレに飲ませてくれよ!……あ、とりあえずまずはその喫茶『シャンテ』だっけ?遊びに行かせてもらうからな!」
って、温かく応援してもらえたとき。
俺がそこで、皆に感謝しながら
「これからはさ、自分のペースでまたいろいろ勉強しながら、ゆっくり金を貯めていこうと思う。
……たしかに事務局よりも手取りは下がるけど。でも、これからもちゃんと堅実に稼いで──……それで、辛かった時期を支えてくれた『恋人』のことも、これからは幸せにしてやりたいんだ。」
って言ったとき。
……俺が無駄に惚気て、同僚達が盛り上がってくれたときだった。
アレンが俺の言葉を聞いて、すっごく安心したような、本気で嬉しそうな顔をして、俺にこう言ってきたんだ。
「フィリップ、恋人がいたのか?!
──……っ、うぅー……良かった!
あっ、いや!本当に悪いってか、余計なお世話だったんだろうけどさ。
……実は僕、ずっと『フィリップは真面目な頑張り屋だから、私生活に全然余裕が無いんじゃないか』って思ってたから……恋愛系の話題は、ちょっと振らないように気を付けてたんだよ。
でも、そうだよな。フィリップみたいないい奴に、彼女がいない訳ないもんな!
本当ごめん!変な気を遣っちゃって。
……あーあー。これでせっかくフィリップとそういう話もできるようになったと思ったのに。フィリップ、辞めちゃうんだもんなぁー!……なあ、今からでも辞職は考え直さないか?」
俺はそんなアレンの言葉に笑って、何も身構えずに返した。
「あはは!ありがとな、アレン。そんなに気を遣ってくれてたのか。
でも別に俺は『他人の恋愛話は鬱陶しい』とか『お前だけ幸せそうでムカつく』とか、そんなこと全然思わないから。そんな心配してくれなくていいよ。
……ここの仕事は辞めるってもう決めたけど、良ければこれからも俺と仲良くしてくれよ。これからは俺に彼女がいようがいまいが、いつでも気にせず話振ってくれていいからさ。」
するとアレンは「そうか!じゃあまた近いうちに一緒に飲もう!前みたいに仕事終わりに酒場に行って。お互いの彼女の話でもしようぜ!」って、ノリノリで俺を誘ってきた。
「へー!ってことは、アレンにも彼女がいるのか!
まあ、アレンこそ彼女がいないとおかしいもんな。こんなに明るくて気が遣えるいい奴なんだから。」
俺が軽くそう感想を口にしたら、アレンはこう言ってきたんだ。
「あー……ははっ。あのさ、フィリップ覚えてるかな?
その、前に酒場に行ったときに一緒に飲んだグループにいた奴。
──【イザベラ】。あのフィリップのことずっと褒めてた奴。
あれ、実は僕の『恋人』なんだ。」
って。
「………………へ?」
「あ、やっぱ覚えてない?まあ、あの一日だけだったもんなー。
イザベラさ、今でもしょっちゅうフィリップのことを僕の前で褒めてくるんだよ。よっぽど印象に残ったんだろうな。
それで僕に『フィリップさんを見習って、アレンも頑張りなよー?』って。すっげー揶揄ってくるんだよなぁー。……いや、あれどっちかって言うと説教か?
ま、そんな感じなんだ──」
それからのアレンの言葉は、もう俺の耳には入ってこなかった。
……俺が一方的に「付き合ってる」と勘違いしてた?
…………そんな訳ない。だって、俺とベラは明らかに一線を超えた「恋人」関係になってたから。
……アレンが、ベラを寝取った?
…………違う。俺だ。
俺の方が後からベラと知り合って……それで半年間、俺はアレンの恋人の「浮気相手」になってたんだ。
最悪な真実を知った瞬間だった。
その瞬間、今までの何もかもが一気に俺の中で崩れた。
ようやく築けてきた同僚達との友情も、
ずっと「お守り」にしていた、初めての恋人「ベラ」との関係も、
そんなクズな女の馬鹿な言葉に慰められて絆されて……世界一愛していた母さんを優先できなくなって……最期すらも見届けてあげられなかった──……俺の、……俺の人生最大の後悔が、
すべてが最悪な形で崩壊した瞬間だった。
◇◇◇◇◇◇
最悪な真実が判明してから、俺は即ベラに会って二股のことを問い詰めた。
俺の本気の怒りを見て、ベラは泣きながらすぐに認めた。
「っ、……ごめん、ごめんね?フィル……!
私、ちゃんともうアレンとは別れるから……!」
「…………は?
何言ってんだ?お前。」
「えっ?」
泣きながら薄っぺらい謝罪をしてくるベラに、俺は腸が煮えくり返った。
声を荒げる段階も通り越して、俺は怒りのままに、ベラに静かに命令した。
「『アレンとは』?何言ってんだ?お前。
……今のお前の言葉も嘘だろうが何だろうが、もうどうだろうがいいんだけどさ。
そもそもお前に選択肢があると思ってんのか?」
「…………えっ?」
「俺がお前みたいなクズと『まだ付き合っていたい』と思う訳ないだろ?
お前は俺とは別れるんだよ。そんなの当たり前だ、馬鹿が。
──それで、お前はアレンとも別れろ。
当然だろ?お前みたいなクズがアレンの恋人でいい訳無いんだから。
お前にどっちかを選ぶ権利なんてない。お前はアレンの前で『別の男と浮気してた』っつって正直に全部吐いて謝って、アレンに殴られて別れろ。」
俺が当然のことを言ったら、ベラは信じられないクズな主張をしようとした。
「は?……えっ?どうして?
……ねえ。私、フィルには本当に悪いことしちゃったって思ってるし、本気で反省してるよ?だから『ごめんね』って、今も何度も謝ってるの。
けど……っ、どうしてそれでフィルが、そこまで口出しして命令してくるの?
どうして私の人生まで全部決めようとするの?
『アレンに殴られて別れろ』って……っ、ねえ。自分の彼女に『殴られろ』って、本気で言ってる?
それ、暴力だよ?『人を殴っていい』なんて感覚、普通じゃないって……おかしいよ!
本当に、ほんとに全部私が悪いって、ちゃんと思ってるけど……でもだからってフィルがそんなことまで言っていい権利はないはずで──
「──ッ、ぐだぐだうるせえんだよ!!
黙れ!ふざけるな!!いいからアレンとも別れろ!!!」
「っ、ヒイィッ……!うっ、うえぇーーん……!ねえ!怖いっ……!いきなり壁を殴らないでよっ!
やめてよ!そんなんじゃ私、怖くて『話し合い』なんてできない!フィルがそんな人だったなんて──
「『そんな人』って何だよ!!『暴力反対』じゃねーよ!!被害者ぶってんじゃねえよ!!!
いちいち泣くな!!泣く資格ねえだろ!!全部お前のせいだろ!!!
──このクズが!!!!」
俺がベラの真横にあった空き椅子を思いっきり蹴り倒してキレると、ベラは怯えてまた泣いた。
それでも俺はキレ散らかして、最終的にベラにその場で「アレンを喫茶『シャンテ』に連れてきて、俺の目の前でちゃんと別れ話をする」ことを約束させた。
そして、アレンと来る予定の日時を、俺に報告させた。
……それなのに、ベラは──あの悪魔のような女は、俺に報告した日時を、三回も破ってきた。
◇◇◇◇◇◇
ベラは三度も裏切ってきた。
「絶対に次の週末にはアレンを連れて行くから!」って言って、それで約束の日時に来なかったことを問い詰めると「だって、当日会ったらアレンに『行きたいところがある』って先に言われちゃって……」とか何とかほざいて、毎回言い訳してきた。
最初は話し合いで許してやろうと思っていた。
……けど、3回目の「アレンが熱を出して行けなかった」って明らかな嘘の言い訳を聞いたとき、俺の怒りは殺意に変わった。
こいつはもう救えない。
……アレンをこいつから救うために、俺はもうこいつを殺すしかない。
そう思った。
俺はもう地獄のような現実の中で、本気でそう思った。
それで俺は久しぶりに、例の「お守り」を引き出しの奥から取り出した。
──母さんと自分のために用意していた、「瑠璃透黒蝶」の毒の薬瓶を。
◇◇◇◇◇◇
ベラのまともな行動を待っていたらキリがない。
だから俺は、辞めた元職場に行って、アレンに声を掛けて雑談の流れで誘った。
「──そうだ!なあアレン、今度俺が働いてる喫茶店に、例の彼女と遊びにきてくれよ。とにかくコーヒーが美味くて雰囲気もよくて、デートにぴったりな場所なんだ。仕事中だから話はできないけどさ、俺の奢りで飲み物一杯、二人にサービスするから。」って。
そうしたらアレンは「あはは!金くらいちゃんと払うって!誘ってくれてありがとな。ちょうど来週の平日、振り替えで休みもらってるから、彼女連れて行くよ。」って、二つ返事で了承してきた。
それでアレンとだいたいの時間も決めて、ベラに「絶対に遅刻するな。アレンよりも先に来て待ってろ。誠意を見せて謝れよ。」って釘を刺して、俺のやることは定まった。
立てた計画はシンプル。至って簡単なものだった。
《アレンよりも先にベラが喫茶店に来て、それでベラがコーヒーに砂糖をドバドバ入れて飲んで死ぬ。
俺はベラの鞄に、お守りだった薬瓶を隙を見て入れるだけ。
それで、俺は後から来たアレンにこう言ってやればいいんだ。
『なあ、アレン。……ごめん。本当に言いにくいことなんだけど……こいつはアレンを裏切って、俺と浮気してたんだ。』
って。
『俺はアレンがイザベラと付き合ってたって知らなかった。イザベラに騙されてたんだ。
……でも、そんなの、言い訳でしかない。
俺とイザベラはアレンを裏切った。だからちゃんと二人でアレンに、本当のことを言って謝ろう──って。
実は、そうやってイザベラと話してたんだ。
──……けど、そのはずだったんだけど……イザベラがついさっき、喫茶店でいきなり『自殺』した。
アレンのことをこいつは本当に好きだったから。
多分、俺なんかと気の迷いで浮気したのを今さら後悔しだして、アレンに振られるのに怯えて、……何もかも、嫌になっちまったのかもな。
だから、アレン。本当にごめん。
ショックかもしれないけど、アレンが気にすることはない。
俺のことも……当然、許してくれなくていい。
それで、こんなこと言える立場じゃないけど……
──……アレンは落ち着いたらまた別の……本当にいい女と、今度こそ幸せを掴んでくれ。』
って。アレンにそう伝える。
そうやって俺は真摯に謝って、もう二度とアレンに会わないようにする。》
…………そういう計画だったのに。
ベラは──あいつはこんな大事な「話し合い」の場だったってのに、堂々と大幅に遅刻した。
それで、喫茶店の前で待ち合わせをしていたらしいアレンは、あの馬鹿を待ちきれなくなって、店に入ってきて先にコーヒーを注文してしまった。
──っ!あの馬鹿が!!
……でも、でもまだ大丈夫だ。アレンは職場ではいつも「ブラックコーヒー」一択だったから。
アレンは角砂糖は使わない。……問題ない。大丈夫だ。
俺はそう思って、素知らぬ顔でその角砂糖を放置した。
最後の最後まで「あ、ごめんアレン。ちょっと待ってくれ。」って言って角砂糖を補充し直すフリをして取り替えるか迷ってはいたけど……俺はそこで、最後の判断を誤った。
このままじゃアレンの目の前でベラが死んでしまう。
そうしたら明らかに「自殺」じゃなく「殺人」になってしまう。
そうしたら、俺が……俺じゃなくても、ベラ以外の誰かが『犯人』になってしまう──
──こんなの、こんなのもう駄目な予感……嫌な予感しかしない──……って、
頭では分かっていたはずだけど、
それでも、計画が崩れかけたことによる焦りと、ベラへの怒りを超えた殺意が勝って──……俺は、すべてを間違えた。
アレンはそこでたった一つの毒入りの角砂糖を入れてコーヒーを飲んで──……遅刻してきた、本当に死ぬべきだったベラの前で、あっさり死んでしまったんだ。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「………………なあ。
何でお前が泣いてんだよ。
……なあ。おかしくないか?
何でお前が泣いてんだよ。
…………何でお前が震えてんだよ?
何、被害者ぶって泣いてんだよ。
──……っ、何で……なんでお前の方が!!何でお前がビビって怯えてんだよ!!?
おかしいだろ!!おかしいだろ!!!
ッ……全部!!全部お前がやったんだろ!!!」
探偵のルイスさんに追い詰められて、しばらく無言になって固まっていたかと思ったら──震えながら徐々に声を荒げて、急に怒鳴りだしたフィリップ先輩。
フィリップ先輩に怒鳴られたアレンさんの恋人イザベラさんは「ひぃっ……ヒッ……!うっ、うあぁぁーーーん!!!」って、恐怖でガクガク震えながら泣きだした。
「言えよ!!『自分のせいだ』って!!!
俺がお前を殺そうとしたのも!!アレンがそれで死んだのも!!!
『全部私のせいです』って!!!ここで今全部自分がやったことを皆の前で言えよ!!!!」
「うっ、ううっうわあぁーーーん!!!」
フィリップ先輩が見たこともない形相で激昂してイザベラさんに掴み掛かろうとして、イザベラさんが泣き叫んで、店主が「やめろ!!フィリップ!!!」って怒鳴って、
私はもう目の前の事態が怖すぎて訳が分からなくって──悲鳴を上げながら泣きそうになった。
そのとき、
「──警察だ!動くな!!」
ってドカドカと警察が店内に駆け込んできて、一瞬でフィリップ先輩は彼らに取り押さえられた。
そして、続けて入ってきた救急隊の人たちが素早くアレンさんのもとに来て、遺体を保護するように取り囲んだ。
訳が分からないまま目まぐるしく一瞬で決着した事件現場。
フィリップ先輩は警官二人に手錠をかけられて引き摺られるようにして店の外に連れて行かれて、泣いて取り乱していたアレンさんの恋人も他の警官に保護されて引き連れられていった。
そうして店内に残された私たちに、残った別の警察の人が
「皆様、この店内から出ないでください。
念のためですが、今から事情聴取を行います。」
って言って……そこでようやく私は気が付いた。
「えっ……あれ?
………………【ルイス】さんは?」
自供したも同然の真犯人フィリップ先輩と、保護されていった被害者アレンさんの恋人イザベラさんがいなくなったのは分かる。
だって二人はたった今、警察に連れて行かれたから。
でも、真相を言い当てていた自称探偵の【ルイス】さんまでもが……何故かこの事件現場から、いつの間にか消えていた。
「それでは。現場検証をしますので、皆様はこちらの方に移動して──
「あ、あの!……っ、すみません!あの、事件のときにここにいた人が、今、見当たらないんですけど……!」
私たちに指示をし始めた警官に、私は慌てて声を掛けた。
「あの、もしかしたら外に出ちゃったのかもしれないです!『ルイス』って名乗っていて、暗めの茶髪で色付き眼鏡を掛けていて……
まだ近くにいるなら、彼も事情聴取のために探しに行かれた方がいいと思うんですけど……!」
警察の捜査の手順だとか規則だとか、そんなの全然専門外で私には分からなかったけど、それでも私はルイスさんの存在を警察に言わなきゃと思って伝えた。
でも、警察の人たちは私の訴えに対して、あっさりと
「──ああ、大丈夫です。
こちらでも把握しております。ご心配には及びません。」
と、問題なさそうに返してきた。
それでルイスさんの話は、あっさり流されてしまった。
「えっ?……あ、そうですか。
……すみませんでした。」
私はよく分からないまま、流れで謝ってしまった。
………………?
…………う、うん。
あ……もしかしたら、警察はお店の外でもうルイスさんに遭遇してて、それで今ちゃんと外で、他の警官がルイスさんに話を聞いていてるのかも。
……玄人の警察の人たちに、素人の私が口出しなんて、最初からしない方がよかったか。
……そういうことかも。
うわっ……私、恥ずかしー……。
急にしゃしゃり出て警察の人にズレたアドバイスをしてしまったことを後悔しながら、私は大人しく引き下がった。
そこでやっとまた少し冷静になれたから、私はなんとなく壁に掛かっていた時計を見上げた。
──時刻は、午後の2時半。
多分、事件が起こってから、だいたい30分近くが経っていた。




