4 ◇ 煽りだらけの推理劇
全11話+後日談2話(執筆済)。基本毎日投稿予定です。
本日も3話分投稿することにしました。
──えっ?
るっ、ルイスさんも私に質問……?
「えっ?……ええーっと、そのアレンさんをご案内したのは、フィリップ先輩だと思います。……私がご案内した記憶はないので。
角砂糖の補充も、フィリップ先輩がやってくれています。私はまだ、やったことありません。
……仕事内容の説明は全部一通り、初日に受けたんですけど、まだ角砂糖の補充まで全然気が回せてなくて。
今はまだ全部フィリップ先輩が先回りしてくれてます。」
私はいきなりルイスさんに話を振られてびっくりしながらも、聞かれた質問に答えた。
すると、答えを聞いたルイスさんはそっと目を伏せて「そうか。ありがとうミモリー嬢。」と言って、それから静かに息を吐いて──…… いきなり事件解決後の犯人に対する問いかけみたいな締めの言葉を、私の隣にいるフィリップ先輩に言った。
「…………だ、そうだ。
何か言い残すことはあるか?フィリップ殿。」
フィリップ先輩は当然、ルイスさんに向かって怒った。
「『言い残すこと』って何だよ!?」
「何って……君が犯人なんだろう?今のミモリー嬢の答えが『答え』だ。さっさと大人しく認めたらどうだ。」
明らかに探偵の活躍の山場「推理披露からの犯人当て」の部分をすっ飛ばして、事件の幕引きの場面「項垂れた犯人による『探偵さんの言う通りです……私がやりました……!』という自供」を引き出そうとしているルイスさん。
そんなルイスさんに向かってフィリップ先輩は、
「俺を犯人扱いするなら理由を言え!証拠はあるのか!」
と、当然の主張をした。
「はぁー……仕方ない。やれやれ。
そこまで言うのならば、簡潔に説明しよう。」
色付き眼鏡のせいで目元はよく分からないけど、ルイスさんは口をムッと曲げてちょっと不快そうにした後、盛大に溜め息をついて……
この場にいる私たちに、その推理を披露してくれた。
◇◇◇◇◇◇
「──まず、結論から言おう。
瑠璃花黒蝶の毒により死亡した被害者【アレン】殿。
彼を殺害した犯人は、この喫茶シャンテのウェイター【フィリップ】殿だ。
……たしかに、フィリップ殿はコーヒーに一度も触れる機会はなかった。
そんなフィリップ殿が毒を盛る手段として使ったのは『角砂糖』。あらかじめ毒を仕込んだ角砂糖を用意して、それを小瓶に入れておいたのだろう。
そうすればコーヒー自体には触れる必要がないからな。
……毒の在処に関しては、かなり推測が入ってはいるんだが。『フィリップ殿が犯人である』という前提をもとに逆算して考えてみた結果、角砂糖が一番有力だ。
フィリップ殿はその一番奥のテーブルの小瓶にだけ、毒を仕込んだ角砂糖を補充した。
その後、その一番奥のテーブルに、何食わぬ顔でアレン殿を案内した。
そしてアレン殿は、その案内された卓上にあった角砂糖をコーヒーに入れて混ぜてしまったが故に、亡くなってしまった……というところだろう。
──以上、これが事件のあらましだ。」
聞いてしまえば至ってシンプルな推理。
フィリップ先輩は疑われているのが不快なのか、眉間に思いっきり皺を寄せて
「たしかに。そこだけを聞けばそれっぽくはなってると思うが。
そもそもその『俺が犯人だ』から始まる逆算思考がおかしいじゃないか!
わざわざ俺を疑う根拠はあるのか?こじつけもいいところだ!」
とルイスさんに対抗した。
「君を疑うに至った根拠はいくつかある。一つ一つは極めてささやかなものだがな。
……そうだな。時系列に沿って、一応挙げていくか。」
ルイスさんはフィリップ先輩にそう言って、自分で確認するように指を折り数えながら、フィリップ先輩の疑わしい要素を列挙し始めた。
「根拠と言えるものは、大まかに数えると三つだな。
──まず一つ。
最初に君を疑わしく思ったのは、《君が誰よりも早く被害者アレン殿のもとに駆け寄り死亡を確認した》からだ。
探偵であるこの僕ですら、一瞬固まってしまい判断が遅れたというのに。君は医療従事者かと思うほどの素早く素晴らしい対応だった。
……まあ、その一点だけならば、不自然というほどでもないがな。
君が突発的な事態に咄嗟の判断で適切な対処を行える有能な人間である可能性は否定できない。もしくはお客様に常に気を配りお客様第一の精神を体現し続けている接客のプロ中のプロだ。」
フィリップ先輩が「『この僕ですら』って、お前は探偵じゃないだろ!探偵気取りの不審者め!」と言い返す。
私も正直、そこはフィリップ先輩が正しいと思った。
……というか、このルイスさん。
いちいち嫌味ったらしいというか……なんかフィリップ先輩を苛立たせる言い方してるなぁー……。
口に出せない私の感想の通り、ルイスさんはフィリップ先輩を分かりやすく煽りながら続けた。
「君の最初の狙いは、『今の僕の立場』だったんだろう?
あの流れで、警察と救急隊が到着するまでの場を仕切る。
そうして被害者アレン殿の死体を保護するフリをして、隙を見て証拠の『角砂糖』を片付けようとした。
しかし、そこで誤算が生じた。
偶然居合わせていた探偵の僕が、この場を君よりも先に仕切り始めてしまったんだ。」
…………まあ。フィリップ先輩が犯人がどうかは置いておいて。
たしかに。野良の自認探偵(なお今回が初事件)がお客様に紛れ込んでいるっていうのは……犯人からしたら誤算すぎただろうな。
「──そこで、二つ目だ。
僕が場を仕切り始めてしまい焦った君は、疑わしい行動を重ねてしまった。
《僕から主導権を奪い返すべく、君は僕に対抗して推理披露をし始めた》。
……これは明らかに不自然だ。
君が『突発的な事態に咄嗟の判断で適切な対処を行える有能な人間』である可能性までは普通に追えるが、そこに『突発的な事態に湧いて出た【探偵】に対抗して自らも【探偵】になる人間』という属性まで付加すると、明らかにおかしくなる。
まともな人間なら、ここで犯人当ての推理披露などする必要はないんだ。大人しく僕を止めて、あとは警察の到着を待てばいいだろう?
それなのに君は《後輩ウェイトレスのミモリー嬢に何やら含みのある質問までして、僕を犯人に仕立て上げようとした》。
……その行動に至った理由は、僕から主導権を奪い返し、証拠を隠滅する隙を得たかったから。もしくは、僕に真実を言い当てられる前に、僕の方を犯人に仕立て上げてしまいたかったから。違うか?」
「それを言ったら、終始『探偵』気取りのお前こそまともじゃないだろ!?
お前も推理を披露していないで警察の到着を待てよ!」
「僕は終始『探偵』気取りで、態度は一貫している。君とは違う。」
「ぐっ!……コイツ〜!」
フィリップ先輩の真っ当な指摘を思いっきり屁理屈……というか、「僕は探偵」の超理論で薙ぎ倒していくルイスさん。
そしてルイスさんは、最後に三つ目の疑わしい点を挙げた。
「──そして、最後。三つ目だ。
君は僕を犯人だと疑う会話の中で、被害者のアレン殿についてこう言っていたな。
『たまたま不幸にも、アレンが死んでしまったけど。本当は誰が死んでも構わなかったんだろ?』と。
僕はそこで最大の違和感を覚えたんだ。
……フィリップ殿。君は《初対面の僕のことは【ルイスさん】と呼ぶくせに、被害者の彼のことは【アレン】と呼び捨てにする》んだな。
君とアレン殿は、実は『知り合い』なんじゃないか?もしくは、君が『一方的に彼を認知している』か。
どちらにしろ僕よりも君の方が、殺害の動機が何かあったんじゃないか?」
◇◇◇◇◇◇
ルイスさんの鋭い問い掛けに、フィリップ先輩が顔を歪める。
……そして私はちょうど、視界の端で捉えてしまった。
ずっと無言で座ったまま固まっていた被害者アレンさんの恋人が、ちょうど同じタイミングで──……ビクッと肩を揺らしていたのを。
私はチラッと見てしまった。
…………えっ?
今反応したってことは……図星?
もしかしてあのアレンさんの恋人……フィリップ先輩の知り合い?
──っ、もしかして、今度こそルイスさんの推理……「確信」に迫っていってるってこと……?!
「……先ほどの店主のティーカップやミモリー嬢の不慣れな接客のように。一つ一つの要素だけなら、『まあ、そういうこともあるか。』と流せる程度のものではあるのだが。
さすがに三つも重なってくると、そこに何らかの意図を感じざるを得なくなってくる。
フィリップ殿。もし僕の推理が合っているとしたら、早めに罪を認めて警察到着と同時に自首した方が賢明だぞ。
自首の方が、少しだが罪は軽くなる。
警察はすぐに角砂糖から毒を検出し、被害者との人間関係を調査してしまうだろう。……自力で採取してきた訳でなければ、毒の入手方法から足が付く可能性もある。そうなれば確定だな。
どちらにしろ言い逃れはできないのではないか?」
ルイスさんが店主と私を順にふわっふわな推理とともにとりあえず疑ってきていたときとは違う。
今はルイスさんが、徐々にフィリップ先輩を追い詰められているような感じが……この場の雰囲気と隣にいるフィリップ先輩の表情から、なんとなく感じ取れた。
(ま、まさか……本当に、フィリップ先輩が『犯人』なんですか?)
口には出さずにそう心の中で呟きながら、私はそこで無意識に、フィリップ先輩の顔を見上げたまま一歩だけ後退りをしてしまった。
──私のその片足を引いた「ザッ……」という音を聞いた瞬間。
フィリップ先輩は本当にブチッと血管が切れちゃうんじゃないかと思うくらい一気に額に青筋を立てて、本気で怒った顔になった。
それからいきなりズカズカとルイスさんの方へ大股で歩いていって、ルイスさんの胸を片手でドンッと押して突き飛ばし、そのまま死体のアレンさんのもとへと行った。
ルイスさんは突き飛ばされて少しよろけてしまったけれど、転びはせずに踏み止まった。
そしてルイスさんは、フィリップ先輩に向かって驚いたように「何をするんだ?」と文句を言いかけて──……
……そのまま口を開けて絶句した。
何故ならフィリップ先輩が、被害者のいるテーブルの小瓶を開けて、指先を突っ込んでいくつかの角砂糖を一気に素手で取って──……そのまま躊躇いなく、自分の口に放り込んでガリガリと齧って食べたから。
私は突然のことで何が何だか分からなかったけど、ただ考えるよりも先に口から「ひぃっ!」という恐怖の悲鳴をあげてしまっていた。
「ほら見ろ!僕は何ともなってない!!
角砂糖に毒なんて入っていないじゃないか!!」
突然の行動に出たフィリップ先輩を見た探偵のルイスさんは、口を開けたまま固まって──……それから今までで一番フィリップ先輩をイラつかせるであろう煽りを、恐らく完全に素で口にした。
「………………フィリップ殿。
申し訳ないが、今のその君の行動も──
──……ものすっっっごく『犯人』っぽいぞ。」




