2 ◇ 即席探偵フィリップ先輩
全11話+後日談2話(執筆済)。基本毎日投稿予定です。
一話の長さがまちまちなので、本日は3話分くらい投稿しようと思います。
…………何を見せられているんだ?俺は。
俺は突然この場を仕切りだした、探偵気取りだが明らかに素人の【ルイス】とやらのぐだぐだな捜査に、そんな疑問を抱かざるを得なかった。
「状況からして、このアレン殿の死因は『毒』。
……接種後にほぼ即死。そして時間経過とともに現れる指先の独特な変色。
間違いなく『瑠璃透黒蝶』の毒だ。」
アレンの死体の手を指差して断言するルイスとやら。
俺の隣で、この店のもう一人の従業員──新人アルバイトの【ミモリー】ちゃんが「えぇ……?そ、そうなんだ。」と呟いたのが聞こえた。
…………そこまではいい。そこまでは探偵っぽかった。
だがしかし。その探偵らしき男ルイスは、それから被害者のアレンが倒れている席の周辺を触れずに観察しながら、気になったところを、手当たり次第にかなり適当に指摘し始めていった。
「…………おや?妙だな。
被害者のアレン殿が頼んでいたのは『コーヒー』だったはず。
床に撒き散らされている液体もたしかに、角砂糖が溶けかけているコーヒーだ。
──だというのに、このカップはコーヒーカップではなく『ティーカップ』。
明らかに妙だ。この店は、わざわざ熱が逃げやすいティーカップにコーヒーを淹れるというのか?──店主。」
色付きレンズの眼鏡で目元はよく見えないが、何となくキリッとした表情で、店主の方を振り返るルイス。
ルイスの振りを受けた、俺の雇い主でもある中年の店主は、ドスの効いた声で速攻でルイスに言い返した。
「あぁ?なんか文句あんのか?
ウチの食器は全部、俺の妻と娘が選んでんだ。
──……女性ウケするカワイイ柄のカップだろうが。理由なんざ、それで全部だ。他はねえよ。
多少の熱の逃げやすさなんかどうでもいい。そんなもんで俺のコーヒーが他の店よりも不味くなる訳ねえだろうが。
俺の喫茶店一筋20年の技術と情熱を舐めんなよ。」
「「「「…………………………。」」」」
「…………なるほど。
たしかに、素晴らしい家族愛の前にはカップの種類の違いなど瑣末なことだな。失礼した。」
ルイスは店主へ謝罪した。
「んなことより、探偵さんよ。
俺の王国一美味いコーヒーに毒を入れやがった奴を早く見つけてくれよ。
…………こんなの、20年やってきて初めてだ。ふざけやがって……覚悟しろ。俺がこの手で犯人をぶち殺してやる。」
「第二の殺人はやめるように。物騒な予告をしないでくれ。」
ルイスは店主へ忠告した。
今にも包丁を持ち出して暴れだしそうなくらいに、こめかみに青筋を立てて怒りに震えている店主。
愛する妻と娘に食器やインテリアを選んでもらって、2年前に全面改装したこの喫茶「シャンテ」。ここは店主の宝物だ。
そんな大事な宝物を「殺人現場」になんてされたら……憤るのも無理はない、か。
ルイスは爆発寸前の店主を見て、一旦とりあえず店主を疑うのはやめることにしたようだった。
◇◇◇◇◇◇
「ふむ。──となると、コーヒーに毒を仕込むタイミングが問題になるな。
僕は事件直前、たまたま正面にいたアレン殿を視界に入れていたが……アレン殿が亡くなったのは、恋人である彼女がちょうど来て着席した直後だった。
彼女にアレン殿のコーヒーに毒を入れるような隙はなかった。」
ルイスはそう言いながら、死体の向かいの席に座ったまま真っ青な顔で固まっている女をチラリと見た。
言葉すらも発せないような雰囲気。ルイスはすぐにその女から視線を外し、次の犯人候補を考え出した。
「となると、素直に考えるのならば、コーヒーを手にする機会があった店主か、【新人ウェイトレス】の君が怪しいんだが……」
続けてルイスが疑ったのは、俺の横にいる後輩ウェイトレスのミモリーちゃん。
疑われたミモリーちゃんはギョッとして「わっ、私ですか?!私、犯人じゃありません!本当です!」と、必死に否定をしていた。
「そうか。……それはそうと君、さっきから随分と慌てているようだな。
というか、そもそも君は、終始挙動が不審で怪しいな。
僕に間違えて一度コーヒーを提供したこともそうだが……その後に君は、間違えたコーヒーをそのまま被害者アレン殿のもとに慌てて持って行っていた。
──僕がすでに口をつけてしまっている可能性や冷めてしまっていることを考えて、普通は作り直すはずだろう?
だと言うのに、そのまま持って行ったということは……『すでに毒を仕込んでしまった後だったから、殺人を成功させるためにはそのコーヒーを使うしかなかった』。──そういう可能性も、考えられるとは思わないか?」
色付きレンズの眼鏡で目元はよく見えないが、何となくキリッとした表情で、ミモリーちゃんの方を振り返るルイス。
ルイスの振りを受けた俺の後輩のミモリーちゃんは、ぶんぶんと首を振ってルイスに言い返した。
「どっ、毒を仕込むなんて……!私はそんなことしていません!
提供する方を間違えてしまったのは、その……っ、手が塞がっていたフィリップ先輩に『そのコーヒー、あちらの奥の、白シャツにベストの男性に運んでくれ。』って言われて──
──それで、『白シャツにベスト、白シャツにベスト……』って意識していたら、ルイスさんがいたから……それで『白シャツにベスト!』ってなって、そこに置いちゃったんです。
もう一つ『奥』の席にも同じ格好の方がいるって、気が付かなくって。それで間違えてしまったんです。」
「それで、作り直さずにそのままそのコーヒーをアレン殿に提供してしまった理由は?」
「っ、それは──テーブルを間違えていたことを貴方に言われて──
それで、頭が真っ白になっちゃって──……っ、焦ってそのまま持っていってしまいました!」
「「「「…………………………。」」」」
「…………君、どうやら新人だということらしいが……この仕事を始めてどのくらい経っているんだ?」
「3日です。」
「そうか。……不慣れとポンコツが見事に掛け合わさっていたということか。紛らわしいな。」
「……っ、ごめんなさい。」
「いや、半泣きになって謝るな。まるで僕が悪いみたいじゃないか。
……新人ならば失敗も視野の狭さも当然だ。これから精進してくれ。」
ルイスは困惑しながら納得した。
ルイスの言葉を聞いたミモリーちゃんは、しおしおとした表情で「……ごめんなさい。頑張ります。」と弱々しくもう一度謝罪した。
…………それにしても。
さっきからこの男、行き当たりばったり過ぎないか?
ルイスはミモリーちゃんへの疑いも一旦撤回して、次は死体の様子を調べることにしたようだった。
──と、そんなルイスをボーッと見ていたそのとき、俺はピンと閃いた。
「なあ、ミモリーちゃん。」
「…………?はい。何ですか?フィリップ先輩。」
急に俺に話しかけられたミモリーちゃんが、こちらを向いて返事をしてくる。
俺は後輩のミモリーちゃんに、今しがた閃いた通りに、協力を求めることにした。
「なあ。あの探偵気取りの【ルイス】って男。
あいつこそが、一番怪しいと思わないか?
──きっと、犯人はあいつだ。
ミモリーちゃん。真相を突き止めるために、俺に協力してくれ。」
◇◇◇◇◇◇
「えっ?……きょ、協力……ですか?
って、え?あのルイスさんが犯人?……フィリップ先輩、何か分かったんですか?
『協力』って、具体的に何を──……」
いきなり俺にそんなことを言われて戸惑うミモリーちゃん。俺は軽く彼女に
「ははっ。『協力』って言っても、大したことはないよ。
ただ今から俺が自分なりの推理を話すから、ミモリーちゃんは俺の質問に正直に答えてくれればいい。
それでいいんだ。……事件解決の鍵はミモリーちゃんにかかってる。大役だけど、よろしくね。」
と頼んだ。
案の定ミモリーちゃんは、ただでさえ動揺と混乱の連続をしている中で俺にそんなことを言われて、完全にビビってしまっているようだった。
「はっ!?──ええっ?!わたっ、私が『鍵』?!
そ、そんな……っ、ええっ!?」
…………まあ、いいか。多分大丈夫。俺の「推理」、いけるだろう。
そうして俺は、探偵気取りの犯人ルイスに、俺なりの推理を突きつけてやることにした。




