後日談2 ◇ 千辛万苦!それでも前進……!
これにて完結です。
相変わらず厳しい現実に打ちのめされている、三人のその後の様子です。
読んでいなくても大丈夫ですが、関連作品「婚約者様は非公表(第一部後談まで全23話)」と「僕の弟の裏の顔」をお読みいただいていると、背景が見えるのでより分かりやすいかと思います。
「それで、君を呼んだ本題な訳だが──……」
「えっ?本題は今の愚痴じゃなかったんですか?」
ロイ様が仕事に取り掛かる姿勢になりながら、長過ぎる前置きを終えてようやく本題に突入してきた。
「……その例のクゼーレ王国外遊から帰ってきてここ数日の、妹【リゼ】の様子はどうだ?
到着初日の夜会で、珍しくリゼは喋り過ぎたそうじゃないか。
──そして。そこでクゼーレ王国の姫君に、大層な無礼を働いたらしいな。
『お相手はクゼーレ王国魔導騎士団部隊長のクラウス様ではないか』と勘繰った上に、非公表の婚約者様を下げるような発言までしたと聞いたぞ。
……挙句、その姫君とクラウス殿に特別接待まで実質強要したと。」
「──…………っ!」
「どうなんだ?ミモリー。……僕が聞いた話は事実か?」
さっきまでの砕けた緩い空気が、徐々に引き締まっていく。
ロイ様は本当に自分の愚痴を終わらせて、徐々に仕事モードに戻っていっていた。
「……はい。……その通りです。」
私がそう答えると……
ロイ様は心底「がっかり」っていうような、呆れたような顔をした。
……さっきまでの冗談めいた「がっかり」じゃない。心からの失望って感じの、真面目な「がっかり」の表情。
私はそんなロイ様を見て、一気に気分を落としてしまった。
……最底辺までガクッと。一気に自分も仕事モードの、しかも反省モードに落ち込んだ。
「はぁ……やれやれ。
エゼル王国側は、随分と情けないことをしたものだ。
しかし、僕ら兄妹の中でも特にリゼは一番、人前で話すのが苦手だからな。長年の想い人のクラウス殿のことになり、つい加減を間違えてしまったんだろう。
……致し方ないことだ。話を聞いたときは思わず心配してしまったが、大事にならなかったようで安心した。
──……で、済まされる話だと思うか?」
冷ややかな声の質問が、私の耳と胸に突き刺さる。
もともと冷たい印象のロイ様の声が、今は本当に物理的に凍ってきているような……そんな錯覚に陥ってしまった。
「…………いえ。済まされません。」
「そうだな。済まされる訳がないな。
兄さんは兄さんで、『あのとき上手く誤魔化すどころか、クラウス殿の話をかえって広げてしまった。』『その日の晩にリゼに態度の悪さを怒ったが、その説教もやり過ぎてしまった。』と、一人で引き摺って落ち込んでいたが。
兄さんは優し過ぎる……というより、身内の失態に甘過ぎる。僕は兄さんが無駄に心を痛めてしまっていることの方が、今はむしろ心配だ。
──『リゼが兄さんに怒られて泣いた』?
──それで『次の日からまたろくに喋れなくなった』?
──……また人前で『ええ。』以外何も喋るなと強要されていた頃の、昔のリゼに戻ってしまったって?
その程度で済んで良かっただろう。
リゼは先方のクゼーレ王家の皆様方に怒られずに済んだことを、とにかく感謝すべきだ。
まあ……妹がここまで口下手になってしまった経緯自体には、ずっと側で見てきた兄として心を痛めてはいるが。
……だから何だ?
それが先方に無礼を働いて良い理由になり得るか?
リゼは幾つだ。甘ったれるな。先ほども言った通りだが、成人したら自分の人生は自己責任だ。
過剰に受けた理想の押し付け、理不尽な周囲からの抑圧……リゼには同情こそするが、もうその枷は、己の努力で外していかなければならない年齢だ。
……未だに自分の発言すらも公の場で制御できないというのなら、せめて今まで通りに、ただ大人しく黙っておくべきだった。『ええ。』だけの方がまだ百倍マシだ。」
「………………っ、」
「──と、この程度のことは兄さんがリゼに言っただろうからな。安心してくれ。敢えて僕が重ねて言うつもりはない。」
この場にいない妹の【リゼ】──私が副補佐官を務める第二王女【リーレンゼルテ】様への、ロイ様からの本気の苦言。
ロイ様はそう言って……次に、思わず俯きかけてしまっていた私の頭を強引に持ち上げるかのように、私のことを真っ直ぐに視線で射抜いてきた。
──俯くな。こちらを見ろ。僕の話をちゃんと聞け。
無言で命令をされたような気分になった。
透明なレンズのロイ様の眼鏡越しに目が合う。その碧色の宝石のような瞳が、今は本当に冷ややかに見えて怖かった。
「……ミモリー、君も。
僕に笑ってクゼーレ王国の様子を報告している場合ではないだろう?
お前たちがどれほどのことをしでかしたのか。その自覚は本当にあるのか?
今回の件はリゼ本人と、お前たち第二王女補佐官らの失態だ。
夜会の歓談一つまともにできなかったことを恥と思え。もっと本気で反省しろ。」
「っ!……はい。大変失礼いたしました。」
ロイ様は私にも本気の説教をしてきた。
私はもう「僕に笑ってクゼーレ王国の様子を報告している場合ではないだろう?」の一文で、本気で穴があったら入りたいほど、ここに立っているのが辛くなった。
そんな羞恥と後悔に追い討ちをかけるように、ロイ様は私に誤魔化さずに、キッツい言葉をハッキリと伝えてきてくださった。
「ミモリー。君が僕にいくら無礼を働こうが、僕は一向に構わない。
……だが、クゼーレの姫君は『僕』ではない。クゼーレの魔導騎士団の部隊長殿は、君の『お友達』ではないんだ。
場を弁えろ。相手を選べ。先方の善意に甘えるな。
半月やそこらで失態の反省を忘れるな。その腑抜けた意識を叩き直せ。
今後はリゼとギリンジとともに、二度とそのような失敗を犯さないよう徹底的に対策をしろ。」
「………………はい。申し訳ございませんでした。」
さっきのロイ様の愚痴とは違う。
ただ「世間が勝手にロイ様に何かを思っている」って話とは質が違う。
……今のこれは私の、完全なる「駄目」だった点。
本当に「先方のクゼーレ王国の方々に嫌な思いをさせた」出来事。
副補佐官として、その事態を招いたのは事実。
そして、それを忘れて、ロイ様とついさっきまで楽しくお話ししちゃってたのも──……
と、私がどんより沈みきったところで、ロイ様は説教終了の合図のように、視線を私から外して手元の書類に落としてフッと表情筋を緩めて笑った。
「まあ、反省しているならばいい。
……さて。それで、君を呼んだ本題の前置きが少々長くなってしまった訳だが──……」
「……あっ。今の、まだ本題じゃなかったんですか。」
意気消沈したままの声で、辛うじてツッコミを入れる。
ロイ様はもう私との会話と同時に仕事に戻りかけているようで、目を伏せ気味にして碧色の瞳を左右に動かして、書類の文章を読んでいた。
「そんなクゼーレ王国に行ってきた兄さんと妹のことが、心配ではあるからな。
そして、まあ……最終的には円満に、リゼはクラウス殿との久しぶりの対面を楽しめたらしいじゃないか。
そのクゼーレ王国外遊の楽しかった部分の話も、二人から聞こうと思ってな。
久しぶりに四兄妹水入らずの時間でも作って、皆で話そうかと思ったんだ。
──ということで、ミモリー。遅くなったが本題だ。
そこにいる僕の副補佐官テッドと協力して、第一王子と第一王女の方も含めて予定を確認し、上手いこと調整をしてくれ。
僕ら四兄妹で集まれる時間を、近日中に確保してくれないか。
朝餐会でも昼餐会でも茶会でも晩餐会でも何でもいいが。
……やはり理想は晩餐会だろうか。たまには終わりの時間を気にせず、兄妹で表に出せない話でもしながら酒でも飲み明かしたいな。」
見た目のひんやりとした印象とは裏腹に、王家四兄妹の中で一番、こうして皆にお声掛けをすることが多いロイ様。
第一王子ウィルクシュレート様も、第一王女アリスミラーデ様も、私が現在補佐している第二王女リーレンゼルテ様も。
御三方は口を揃えて、ロイ様のことをこう評価されている。
──「自分たち兄妹が今こうして仲良くしていられるのは、ずっとロイが間を取り持ってくれたお陰だ」って。
ロイは私たちと違って昔から、いつでも根性で「安定」してくれていたの。
ロイお兄様はわたくしたち兄妹の「心の拠り所」です。
って。私は裏でそう聞いている。
きっとロイ様は、お兄様のウィルクシュレート様と同じくらい身内に甘く──実はまだこっそり落ち込んでいるリーレンゼルテ様を、優しく励ましてあげるおつもりだろう。
すでに嫁がれて王宮から離れているお姉様のアリスミラーデ様にも兄妹の楽しかった外交活動のお話をお聞かせして、一緒に楽しんでもらうおつもりだろう。
そうして、今回の諸々の失敗を引き摺って気に病んでいらっしゃる「第一王子」様のことを、陰ながらお支えするつもりなんだろうな。
……「サブ業務」なんて口では言っていたけど。ちゃんと「第二王子」様として。
…………はぁ。ロイ様はこんなにもきちんと仕事をされているのに。役目を果たされているのに。
はあぁ……私はもう何やっちゃってるんだろう。……本当、自己嫌悪がヤバい。
「…………はい。かしこまりました。」
まだお説教から全然頭を切り替えられていない私の暗い返事の声を聞いて、ロイ様は書類から顔を上げないまま軽く笑った。
◇◇◇◇◇◇
はぁ………………へこむ。……っ、辛い。
……ロイ様にこんなに真面目に怒られたの、6年間で初めてかも。
「あぁ〜……もう、泣けてくるぅぅ……」
私は泣く前に自分の涙腺を誤魔化すために、敢えて口に出して呟いた。
いや、怒られてるうちが華なんだけど。
ロイ様の言う通り、本当に反省しなきゃいけない大失態だったんだけど。
……ロイ様が私のことを嫌ってるとか、そんなことはないって──……私のためを思ってお説教してくれたんだって、頭では分かってるんだけど。
……けど、辛い。時間を巻き戻してやり直したい。
仲良しな「お友達」のロイ様だからこそ、
そのロイ様の前でクゼーレ王国訪問時のことをヘラヘラ笑って話しちゃって、それでロイ様に──……
──「ああ。ミモリーはあのリゼの一件をもう笑って話せる程度の出来事にしか思っていない『補佐官としてのプロ意識が低い人間』なんだな。」
……って、そう失望されちゃったであろうことが、それが一番……っ、一番キツい。
「うあぁぁ〜……!も〜〜〜私の馬鹿馬鹿バカあぁぁ〜……っ!」
ロイ様の執務室を出てリーレンゼルテ様のお部屋に戻るまでの間に、私は少し寄り道をした。
人気の無いトイレの個室に5分程度篭って「うぁぁ〜……!」って呻きまくって、それからトイレの化粧台の鏡を見て、なんとか笑顔を自分の顔面に無理矢理根性で貼り付けた。
◇◇◇◇◇◇
「でもっ……、ふおぉ〜ん……!へこむぅ〜……あぁ〜!立て直せないぃ〜……!」
こういうの、本当にしんどい。
今日はちょうど、夜はリーレンゼルテ様にご予定がない。
私はいつもよりも早く仕事時間が終わったのを利用して、夕方すぐに、とある場所に直行した。
大学院時代の2年間、ずっとお世話になっていた元アルバイト先。
王宮からも割と近い、お洒落な隠れ家喫茶「シャンテ」。
私はその元アルバイト先のカウンター席に座って、店主特製のふわふわ二段パンケーキに特別にクリームを倍増して乗っけてもらって、それをブラックコーヒーとともに堪能した。
……堪能って言うより、やけ食い……むしゃくしゃ喰いをした。
「ミモリー。久しぶりに来たと思ったら、やたら今日は凹んでるな。
仕事で失敗でもしたか?」
コーヒーを淹れたり、料理をしたり。忙しく動いている店主とは、営業時間中にそんなにのんびりは話せない。
手が空いた一瞬の隙に軽くそう訊いてくれた店主に、私は
「仕事の失敗それ自体っていうか……その後の意識の低さっていうか……
あぁ〜……でも、振り返ったらその仕事自体も、やっぱり本当に酷かったんです……。」
って落ち込みながら返した。
……うん。振り返ったら、やっぱり……本当、今さらすぎるんだけど……
ご婚約を発表されたばかりのクゼーレの第一王女様に……本当、取り返しのつかないことしちゃった。
「うわぁぁ〜……最悪だよ〜もぉぉ〜〜〜!」
そっち自体の後悔も、併せて遅れて再びやってきた。
店主には、そんな私に親身になって「よしよし、大変だったな。話聞いてやろうか?」なんてゆっくり寄り添っている暇はない。
他のお客様のご迷惑にならない程度に小声で嘆く私に、「ま、仕事やってりゃそういうでっかい失敗の1回や2回、誰だって経験するもんさ。」とだけ言って、再び仕事に戻っていった。
「ふおぉん……生クリームが沁みる〜……!」
甘さ控えめのふわふわな生クリーム。
私はお洒落な店内で、荒々しく大口を開けて、生クリームだらけのパンケーキを貪った。
◇◇◇◇◇◇
立ち直れないまま追加で注文してやけ食いして、コーヒーもおかわりしちゃって、私は店内が満席にならなかったのをいいことに、結局閉店まで居座った。
お客様も減ってきて余裕が出てきた店主が、今度は少しだけ余裕を持って、再び私に話し掛けてくれた。
「──にしてもミモリー。ちょうど今日来れてよかったな。
明日だったら店やってなかったから。」
「え?そうなんですか?
店主、明日は何かあるんですか?」
喫茶店の定休日はカレンダー的には昨日のはず。
私は不思議に思って、素直に店主に質問した。
すると店主は、さらっとこう返してきた。
「明日は、フィリップの奴に会いに行ってやろうと思ってな。」
………………あぁ。【フィリップ先輩】か。
「なるほど。それでですか。」
私が王都に来てすぐに始めたアルバイト。
たった3日だけだった、私の……仕事の先輩。
ここ喫茶「シャンテ」で人を殺す罪を犯してしまったフィリップ先輩のことを、店主はずっと気にし続けている。
「あいつには身寄りが一人もいねえからな。あいつに面会する奴なんて、俺くらいしかいねえんじゃねえか?」って言って、定期的に店主は、フィリップ先輩がいる刑務所に通ってる。
「あいつが出所してきたら、前科持ちでもアルバイトくらいはまたさせてやるか。」って言って。そうしてずっと心配してる。
……私にとっては、あの日の事件も、フィリップ先輩の最後のあの形相も──……やっぱり、怖い思い出だけど。
でも、私はあれから後日、店主にフィリップ先輩が本当はどういう人だったのか、どんな辛い状況で頑張り続けてきていた人なのかを聞いた。
アルバイト4日目の閉店後。
店主がボロボロ涙を溢しながら
「……っ、何であんな馬鹿なことをしちまったんだ!フィリップ!
お前は……お前はもっと、……これから幸せになるべきだったってのに……!
今まで頑張ってきてたじゃねえか!
あんなに頑張って耐えてきたんじゃねえか!!
……どうしてあとほんの少し──っ、ほんの少しを耐えられなかったんだ!
どうしてあともうちょっとだけ──……もうちょっとだけ頑張れなかったんだ……!!」
って悔しがっていたのを聞いたとき、
私のフィリップ先輩への恐怖心は、そのときにかなり薄れた。
でも、私は3日間分しか知らないから。……やっぱり、まだトラウマだから。面会に行く気にまではなれない。
……それでもフィリップ先輩のことは、私も気になっちゃうんだよな。
「…………店主。フィリップ先輩、最近はお元気そうです?」
私の質問を聞いた店主は、笑って
「ハンッ!元気な訳ねえだろ。相変わらずだよ、あいつは。
刑務所の中でずーっと同じことしてっからな。気が滅入っちまうんだろ。」
って答えてきた。
フィリップ先輩は店主が面会に行くたびに、泣いて謝ってくるらしい。
「馬鹿なことをしてごめんなさい」「心配かけてごめんなさい」って。
──「いくら罪を償ったって、アレンにはもう二度と謝れない。本当にごめんなさい。」……って。
……店主はその「ごめんなさい」を聞くのが、とっても……すごく嫌いなんだって。この前、そう言ってた。
殺人は重罪。フィリップ先輩はまだ服役して6年。出所なんてまだまだ全然できない。
…………それでも、店主はフィリップ先輩のことを、ずっと見捨てずに行くんだろうな。
アルバイトだった私のことも今でも可愛がってくれる店主。
義理人情の権化のような店主と話して元気をもらって、私はちょっとだけ落ち込んだ心を回復できた。
………………けど。
お会計をして「店主、ありがとうございました!また来ます!」って言った、そのとき。
店主が何気なく付け足してきた一言に、私はまたズドンとやられた。
「ああ、またいつでも来いよ!
──おう、そうだミモリー。そういえばお前、まだあの【ルイス】とたまに会ったりしてんのか?
あいつにもよろしく伝えとけ!しばらく見かけてねえが、またお前も来いよって言っとけ!」
………………っ、
「あっ!……あぁ〜……あははっ。
ハイ。今度会ったら伝えときま〜す。」
私がアルバイトをしていた2年間、約束通り喫茶「シャンテ」にちょいちょい遊びに来てくれていた、元常連の【ルイスさん】。
大学院を修了してからは、全然来なくなっちゃったルイスさん。
……当然だよね。「お願い」をしてた私もいないし、何より……【第二王子様】なんだし。
店主にはすっかり「仲良しさん」認定されている私たち。
たしかに大学院修了以降も、ちょくちょく会ってはいるんですけど──……
でも、違うんですよ店主〜。私とルイスさんの関係は、別にそんな微笑ましいもんじゃないんです。
──……つい数時間前に本気のお説教をされちゃった、そんなしょっぱい間柄なんですよぉぉ〜……おぁぁ〜……!
せっかく回復しかけていた精神が、ルイスさん──もとい【ロイ様】の名前を出されたことでまた一気に沈んだ。
私は今日の出来事を再び鮮明に思い出して、自己嫌悪に陥りながら久々の思い出の場を後にした。
◇◇◇◇◇◇
私は喫茶シャンテを出て、脇道から夜の大通りに出た。
まだまだ人がいる大通り。夜だけどまだまだ活気がある華の都。
私はレストランや酒場から聞こえてくる人々の笑い声を背景にして、大通りをノロノロと歩いて……そしてふと立ち止まって、王城とその上に光る月を見上げた。
「ロイ様……『お説教』は話の最初にしてくれればよかったじゃん……。」
自分がいけないってことは、それはそれとして置いておいて。
まだまだ立ち直れそうにない今日のダメージの鬱憤を、私は説教してきた御本人のロイ様にこっそりぶつけた。
……でも、振り返ってみたら本当にそうじゃない?
私がクゼーレ王国の話を笑ってロイ様にしちゃったの、呼び出されてすぐのときだったじゃん。
そこで即座に「おい。笑っている場合か?」ってお説教してもらえた方が……その方がまだよかったんですけど。
最初はとりあえず好きなように会話の中で泳がせて、私がダメなことをしちゃったその瞬間も普通にあっさり聞き流して──
それですっかり私が油断しきったところで、不意打ちで追及し始めるんですか?
「ところで。君はさっき、僕にこんなことを言っていたが?」……って?
それで、忘れかけていた頃にぶち込まれたこっちは、最大値でダメージを喰らう。
気付かないうちにボロを出させる手法。
そしてそれすらも一旦隠して勿体ぶって、いきなり最後に落とす手腕。
無駄に恐ろしい話題の順序。限りなく嫌らしい会話の構成。
なんかもう、それって……それって──……
「──っ、なんでロイ様、そんな『探偵』みたいなことするんですかあぁ〜……!!
うおぉ〜ん!
ロイ様の馬鹿馬鹿バカバカあぁぁ〜〜〜!!」
今日は思いっきり撃沈した私【ミモリー】。
コーヒーをガボガボ飲んじゃったせいで夜中まで全然眠れなくって、本っ当〜にダメダメな状態のまま、私は一日を終えた。
それでも明日はやってくる。
「うぅー……頑張れミモリー!……立ち上がれ、私!」
一晩経ってもまだしんどい気持ちとキッツイ寝不足をなんとか根性で隠して、私は次の日も空元気で王宮に出勤した。
──……「どうかロイ様と遭遇しませんように!今日はまだロイ様に会いたくない!」って、心の中で唱えながら。
この後、なんやかんやで末妹の恋を優しく応援してくれたエゼル王家の兄姉三人。その結果が関連作品「僕の弟の裏の顔」へと繋がっていきます。
(リーレンゼルテはたしかに盛大な無礼をやらかしましたが、「僕の弟の裏の顔」のクラウスの方も思いっきり非礼をかましているので、そこもお似合い(?)な二人だと思います。)
ということで、ここまでお付き合いいただいた読者の皆様、最後までお読みくださりありがとうございました。
今回初めて拙作を覗いてくださった方、シリーズ全体に目を通してくださっている方……読者の皆様のお陰で、今回も楽しく投稿することができました。
生まれながらにして王の資質を備えていた、クゼーレ王家の二人兄妹。王族の覚悟を泣きながら必死に身につけた、エゼル王家の四兄妹。そして、生まれに仕事に男に女に……しょっぱい現実に振り回され続ける、三人の素人探偵たち。
関連作品の舞台はクゼーレ王国ですが、今作でエゼル王国側の様子も少しでも伝われば幸いです。




