後日談1 ◇ 慌てて婚活!二名様
後日談、全2話。明日もう1話投稿します。
相変わらず厳しい現実に打ちのめされている、三人のその後の様子です。
読んでいなくても大丈夫ですが、関連作品「婚約者様は非公表(第一部後談まで全23話)」と「僕の弟の裏の顔」をお読みいただいていると、背景が見えるのでより分かりやすいかと思います。
エゼル王国「第二王女補佐官」。
王宮の役職の一つで、その名の通り第二王女様の補佐をする。
王女様の日程管理はもちろん、ご公務に際する先方との事前連携に王女様との打ち合わせ、外遊時の移動手段や宿泊先などの調査検討に手続き、そしてご公務中のサポート全般に、書類業務の補助──などなど。
他にもいろいろあるけど、他の役職者たちと連携しながら王女様に関連するものすべてを補佐する仕事。
身の回りのお世話をする「侍女」とはまた別の角度から、王女様をお支えする役目。
まあ、言ってしまえば秘書のようなもの。
これが、「第二王女補佐官」。
…………で、私は、その「補佐官」の補佐。
──【ミモリー・ケランシェット】24歳。
王宮に就職して4年。
私の今の役職は、「第二王女副補佐官」だ。
私は日々、大ベテランの正補佐官ギリンジさんの横で仕事を学び、細々とした雑用をこなしながら王女様のために奔走している。
仕事内容は多岐にわたっていて大変だし、こき使われ過ぎて思わずげんなりしてしまう日もあるものの。それでも充実感を得られる日の方が圧倒的に多い。
正補佐官のギリンジさんが「自分は男性だから、これはミモリーさんがメインで担当した方がいいだろう。」って、女性の第二王女様に気を遣って、私に特別に役割を回してくれることもたまにある。
超絶可憐な第二王女様に、尊敬できる大先輩。やりがいのある職務内容。今は私は心から「この仕事に就けてよかった」と思っている。
……本当は「外交官」になりたかったんだけど。
でも今のこの仕事でも、外交に携われる瞬間もあるし。これでよかったと思っている。
…………うん、本当に。
ギリギリ直前で、第一志望先を「外交官」から「王女補佐官」に変えてよかった。
多分、4年前の私の実力じゃ、外交官の採用試験は突破できなかったと思うから。
そんな第二王女副補佐官を務める現在。
今日は大きなご公務もない。私は第二王女様のお部屋で、正補佐官のギリンジさんと来月の予定を確認しながらゆるく細々とした業務分担の打ち合わせをしていた。
……すると、部屋が軽くノックされて、第二王女様のお部屋に第二王子副補佐官のテッドさんが入ってきた。
そしてテッドさんは、第二王女様──ではなく、私に用件を伝えてきた。
「ミモリーさん。ロイルスヴィール様が御用があるそうです。『暇があるなら来てくれ』だそうです。」
◇◇◇◇◇◇
「……ああ、来たか。
久しぶりだな、ミモリー。最近見かけていなかったが、君は元気にしていたか?」
「昨日も元気にすれ違いましたけど。
でも、こうしてお話しするのは、ちょっと久しぶりかもしれませんね。」
大学院時代の2年と、就職してからの4年。
ロイ様とあの日に知り合ってから、何だかんだで6年。
もうそんなに頻繁に会って話したりはしないけど、すっかり気心の知れた仲。
不敬を承知で雑に言葉の応酬を繰り広げられるくらいには、仲良くなってしまった。
……仲良く……仲良く?…………うん。まあ、仲良く。
そんな私のお友達──【ロイ】様こと、第二王子【ロイルスヴィール】様は、私が部屋に入って早々に適当〜な挨拶を終えて、唐突に話題を振ってきた。
「ミモリー。君は当然知っているだろう?
──連日エゼルでも騒がれている『隣国クゼーレ王国の第一王女ご婚約』の件。」
「ああ!はい、もちろんです!つい半月前のアレですよね!
だって私、ちょうどその発表の週にクゼーレ王国に行きましたから!
もうすごかったですよー?!クゼーレ側は!王都の熱気も、王宮に漂う雰囲気も、本当に『建国以来の大ニュース!』って感じでした!」
遡るまでもない、たった半月前の出来事。
エゼル王国の王家四兄妹の長子と末子──第一王子ウィルクシュレート様と第二王女リーレンゼルテ様が、隣国クゼーレ王国にご訪問された週。
その週の頭に、なんとクゼーレ王国の第一王女様が、異例の電撃婚約発表をなさったのだ。
何が「異例」かって?
──それは、お相手の方が「非公表」だったこと!
お相手を伏せた大国のお姫様の婚約発表に、クゼーレ王国の全国民はもちろん、ちょうど訪問をした我が国の王子王女のお二人も、なんなら我らエゼル王国の国民も、みんなびっくりしてしまった。
そしてそのびっくりの衝撃と興奮は未だ冷めやらず、新聞でもまだ取り上げられたりしているのだ。
私がロイ様の振りにテンション高く答えると、ロイ様は私とは真逆でげんなりとした顔になった。
「隣国の熱狂の様子などどうでもいい。
あちらの王女様に関しても『おめでとうございます』でいいんだ。
……ただ、その『隣国の建国以来の大ニュース!』のせいで、僕は今、ものすご〜く嫌〜な状況に置かれてしまっているんだ。」
そしてロイ様は、本っ当〜に不満そうに、特大の愚痴をここで吐いた。
「僕、【ロイルスヴィール・エレスフィール】第二王子。24歳、独身。
『第二王子の結婚相手の最有力候補は、クゼーレ王国の第一王女だ』と、有識者の間では散々言われまくっていた。新聞にも何年も前から、勝手に書かれたりしていた。
……これが何を意味するか、君に分かるか?ミモリー。
──……そう。いまエゼル王国の世間では、『僕が振られた』みたいになっている。
……別に、実際に婚約打診をしていた訳でも、僕が隣国の王女様に特別な好意を抱いていた訳でもないのに。
『エゼル王国側から婚約を打診しようとしていたら、お相手が別の人をサッサと選んで婚約発表してしまった。』
……そう。『僕が振られた』みたいになってしまっているんだ。」
◇◇◇◇◇◇
……あぁー…………まぁ、……ハイ。
「……2回も繰り返さなくても、ちゃんと聞き取れてますって。」
私がそう返すと、ロイ様は不貞腐れて
「僕は失恋なんてしていないのに。
今の僕は世間的に見ると、残念なことに『いい年齢してお相手様に振られてしまった痛々しい王子様』なんだ。」
と言い重ねてきた。
「…………いや。だから、そこまで言わなくても分かりますって。ロイ様がご不満なことくらい。」
「否定はしてくれないんだな。」
「個人的には、もちろん否定してあげたいですよ?
でもロイ様は私が『そんなことないです!』って言ったところで、絶対に納得しないじゃないですか。」
「ああ……ということは、やはり客観的に見ても事実なんだな。『僕が振られた』みたいになっていることは。……君にもそう見えていたんだな。」
「も〜!呼び出して早々、面倒くさい絡み方してこないでくださいよ!」
私が文句を言うと、ロイ様は止まるどころかさらに続けて、超〜不満そうに嘆いてきた。
「さらに何が辛いかって、王宮内部の者たちに気を遣われ、兄妹にあからさまに心配されてしまっていることだ。
……僕は失恋なんてしていないのに。
兄さんには『あまり落ち込むなよ』と謎に励まされて、姉さんには『国王に任せっきりで自分で何もしないからこうなるのよ』って無駄に説教されて……妹のリゼからは心配そうな顔をされて一昨日こう言われたんだぞ?
──『……ロイお兄様、お相手にミモリーさんはいかがですか?お二人はとても仲がよろしいのでしょう?』って。」
そう言って、「全部お前のせいだ!」と言わんばかりに完全に八つ当たりの視線を寄越してくるロイ様。
私は理不尽に睨まれながら、ついさっきの「妹【リゼ】」──第二王女【リーレンゼルテ】様のご反応を思い出した。
「あ〜……それでさっきリーレンゼルテ様、『こちらのことはよいので、時間は気にせずロイお兄様とゆっくりお話ししてきてください。』なんて言い添えてくださったんですね。」
するとロイ様は、さらに眉間に皺を寄せて超〜不愉快そうな顔をして、それから投げやりになって天を仰いだ。
「あぁー……最悪だ。
僕は身内にすらも『片想いのミモリーをせっせと呼び出して不器用なアプローチを続けている(が、しかし一向に振り向いてもらえない)見ていられないほど居た堪れない報われないお兄様(ないし弟)』だと思われてしまっているのか。
……泣きたい。僕が何をしたっていうんだ。
振られていないのに振られたかのように憐れまれて、惚れていないのに相手にされていないと心配されて。僕のプライドはもうズタボロだ。」
「いや、私ちゃんと毎回否定してますよ?
『ロイ様は私に対して、全然そんなんじゃないです。』って。」
「ミモリー。君のその発言は、むしろリゼの勘違いを助長させているまであるぞ。
そんな言い方では『……あらまあ。ロイお兄様の渾身のアプローチ、全然ミモリーさんに伝わっていないわ。ミモリーさんはロイお兄様のことをまったく意識していらっしゃらないのですね。脈なしということなのでしょうか。……可哀想なお兄様。』ってさらに思われるだけじゃないか。
というか、実際そう思われているから、僕は一昨日も『ミモリーさんはいかがですか?』と聞かれてしまったんだろう?
……最悪だ。何が悲しくて、僕がこんな目に遭わなければならないんだ。」
「…………第一王女様のおっしゃる通り、国王様にお任せしてばかりじゃなくご自分でもちゃんとご結婚相手を探せばよかったんじゃないですか?」
「それは今猛省している。
稀代の『呑気王』な父さんに丸投げするんじゃなかった。」
……その「呑気王」の気質を一番継いでいらっしゃるのは、王家四兄妹の中でもぶっちぎりで「ロイ様」だと思いますよ。
口に出したらまた愚痴が延長されそうだったから、私は心の中だけでそう言っておいた。
私が反応を止めたことで会話が一旦、区切られる。
ロイ様は天井を見上げたまま「はぁー……」と虚しい溜め息をついてから、顔を正面に戻して軽く座り直して、いつもの表情に変わった。
「──だがまあ、現状こうなった以上、実際【ミモリー】は三番目くらいに有力な選択肢にはなったな。」
「え゛ぇっ!?」
いきなり「スンッ」としながらそんなことを言われて、私は過剰に反応してしまった。
「何を驚くことがある?
君も王宮に勤める人間ならば、国内外の王侯貴族の関係図くらいは最低限、頭に入っているだろう?
……まあ、リゼの結婚相手次第なところはあるが。
こうなったら、僕は『クゼーレ王国の他の有力貴族の令嬢をエゼル王国に迎え入れる』か、『国内で今から相手を探して結婚する』か、『独身を貫く』かの基本三択だ。
諸々を考えてみると、もし『国内で結婚』となった場合、ミモリーは僕にとっては比較的無難な選択肢にはなるんだ。」
「……ぶ、無難って。」
いや別にロイ様からの恋心なんて全然期待してませんでしたけど。
それにしても相変わらず失礼だな〜、この人。
「私、ニーシュ地方の子爵家長女ですよ?
第二王子様のお相手になるには、格が低すぎると思います。」
私が真っ当な指摘をすると、ロイ様はしれっと返してきた。
「それが逆にいいんじゃないか。
──僕はもうすぐ25歳。さすがに結婚を焦るべき年齢だ。
そして、侯爵家以上の家格の同年代の独身令嬢で、国内で問題なく縁談がまとめられそうな令嬢──あまり条件のいい相手は、今はもう残っていないんだ。
兄さんの妻がキプル家の系統からきているからな。そこの派閥周辺がもう選べない。」
「あ、あぁー……はい。」
「それを外しながらと考えると、年齢を下げて探す必要が出てくるんだが……これは完全に僕個人の意思だ。僕は年齢差のある結婚をするくらいなら、独身でいたい。
……今、10歳も下の令嬢などと婚約でもしてみろ。相手は15歳だぞ?
僕個人の倫理観、相手への罪悪感、そして何より国民に抱かれてしまうであろう印象と評価。想像するだけで無理すぎる。」
「あぁー……まあ。
そういうご結婚をされて実際に幸せになっているご夫婦も、もちろんいらっしゃいますので。一纏めにして良し悪しを判断することはできないと思いますが……まあ、ロイ様の言いたいことは分かりますよ。」
「……で、だ。
そうなると同年代で伯爵家以下の家格の令嬢に当たっていくことになるんだが──…… 細かい説明は省くが、そうなったら総合的にミモリーが有力な候補になってくる。
20代後半での結婚。僕はもうとっくに成人済み。幼い少年ではないんだ。
となると、世間──特に一般市民らからは当然『完全なる政略結婚』ではなく『本人意思の強い恋愛結婚』だと思われてしまうことは避けられない。事実はどうであれ、だ。
……そうなったときに、たいした面識もない伯爵令嬢と突然婚約でもしてみろ。
『うわぁ……第二王子様、お相手探しに今さら必死になってる!もう見境が全然ない感じ!』って、また国民に引かれてしまうだろう。
それに比べてミモリーなら、こう思われることが可能だ。
『えっ?王家に子爵家のご令嬢が嫁ぐって?……ああ〜!大学院時代のご学友なんですね!
なるほど。第二王子様は日々お役目を全うされながら、年月をかけて穏やかに愛を育まれていたのですね。
家格が子爵家というのも……お相手のお家柄よりもお人柄を重視された結果なのでしょう。素敵です。』
……これだ。
男爵家まで下げてしまうと、今度はさすがに『第二王子様は家格を一切考慮できないほどそのお嬢様にのめり込んでいらっしゃる……と。かなりの恋愛脳なんですね。』になってしまう。つまり君の『子爵家長女』は、ギリギリ『謙虚誠実で素朴な結婚』になれるいい塩梅なんだ。
そしてついでに、これでいま僕が感じているやるせなさも遅れてではあるが払拭できる。
『なーんだ。クゼーレのお姫様が婚約発表されたときは、第二王子様が振られてしまったのかと思っていましたけど。第二王子様にはそのときすでに、ミモリー様がいらっしゃったんですね。……私たち国民が勝手に勘違いしていただけでしたか。大変な不敬をお許しください。第二王子様、ごめんなさい。』
いま僕を憐れんでいる者たちは全員、そう思えばいいんだ。」
「……………………。」
「まあ、デメリットとしては、身も蓋もないが『そうは言ってもやはり子爵家は家格が低い』こと。それと身内から『やっぱりロイはミモリーさんにずっと片思いしてたんだ!』という勘違いを一生され続けることだな。
……大変遺憾ではあるが、国民らに勘違いされ続けるよりはマシだ。
まったく。僕以外の兄妹三人は、皆王妃に似て恋愛脳だからな。あの三人には何を言い訳しても無駄だ。照れ隠しとしか捉えてもらえない。
……僕はもう諦めた。」
そしてロイ様は、生々しい婚活フローチャートに着地した。
「と、いうことで。僕の今後はこうなる。
──まず一つ目の可能性。
『妹のリゼがクゼーレ王国などの他国で伴侶を見つける』ならば、僕は『国内で結婚相手を探す』。
──そして二つ目。
『リゼが国内で結婚する』ならば、僕は『クゼーレ王国をはじめとする他国で伴侶を探す』。
一つ目も二つ目も、条件の良い相手方からこちらに打診があれば、そちらを優先的に検討。
──最後に、三つ目。
『条件がいまいち整わない』ようであれば『生涯独身』。
僕はもうなんならこれでいいんだが……それはそれで永遠に『いつ結婚するんだ……あの王子?』『人格に何か問題が……?』という世間の目に耐え続けなければならなくなる。辛い。
まあ……何だかんだで今後数年のうちに数件は話がくると思っているがな。
それでも僕が数年以内にいい相手を見つけられなかったとしたら、子爵家長女【ミモリー】は、ある意味で最後の『砦』──……一応の『保険』──……意外と悪くない『選択肢』の一つにはなってくるんだ。」
◇◇◇◇◇◇
……………………。
「あのー……ロイ様。」
「何だ?」
微塵も照れたり恥ずかしがったりすることなく、本気でただ私を「立ち位置」と「条件」だけで評価してくるロイ様。
私はときめく要素が微塵もない今の会話に、そっとツッコミを入れてみた。
「別に、他のご兄妹様のように『結婚は心から愛する御方と結ばれてこそです』とまでは言いませんけど。
……あまりにもお人柄軽視すぎません?もうちょっとご自分もお相手も『人間』として見ましょうよ。」
するとロイ様は、私のことまでご兄妹の御三方のように「恋愛脳」扱いしてきた。
「ミモリー。君はまるで童話のお姫様のようなことを宣うんだな。
そんな恋愛結婚に夢を見ている乙女な君に現実を突きつけるのは、いささか心苦しいが……
いいか?人間が相手を異性として評価し配偶者に検討する場合、それは究極、ただの『二択』に収束するんだ。
──『生理的に無理』or『許容範囲内』。
基本的に前者でなければ、あとから後者を『恋愛対象』に意識的に引き上げることはいくらでも可能だ。特に男側からしたらな。」
「う……うわぁ〜…………それ、思ってても言っちゃダメですって。特に女性の前では。」
私がドン引きすると、ロイ様は
「言う訳ないだろう?釘を刺されるまでもない。
そんなことを少しでも人前で言ってみろ。僕は王国全土の良識ある女性すべてを敵に回し、王宮内の全方位から非難の嵐にさらされる。
僕はもうこれ以上、自分の好感度を下げたくないんだ。
だからミモリー、……そこに立っているテッドも。お前たちは絶対に他の者たちに今の僕の発言を漏らすなよ。」
と堂々と言ってきた。
「うわぁ〜……さっきから『世間体』しか気にしてないよ、この人。」
「当然だろう?
ミモリー。君は『第二王子』の真の役目が、一体何か知っているか?
王にならない王家男児の仕事は『常に世間体を気にして民衆らの厳しい審査の目に怯えて、王家への好感度だけは絶対に下げないよう無難に慎ましやかに過ごす』ことだ。」
「……『国王様と第一王子様を側でしっかりとお支えし、王国の平和と発展のために国政に邁進する』ことだと思います。」
私がそう指摘すると、ロイ様は即座に反論してきた。
「浅いな。そんなのはただの『サブ業務』だ。
君に分かるか?……君には分からないだろうな。
生まれてからこの方ずっと、世間の目に晒され続けて、一挙手一投足を見られて、粗探しばかりされてきた僕の苦悩が。
僕のこれまでの人生なんて、全部ただの国民の話題のネタなんだ。
人前に出れば、当たり前のように四兄妹で顔面を比べられる品評会。喋ってもいないのに勝手に性格を類推され能力を推測されて勝手に総合判定される、理不尽過ぎる測定会なんだ。
四兄妹で一番顔面が地味で、うっかり何度か笑顔を作りそびれてしまったから?
……僕が8歳のときに行われた新国王の戴冠式で、国民らの中での僕の『キャラ付け』は確定した。
僕は『エゼル四兄妹の中で一番愛想が悪く王族としての意識も低い。ついでに特別な才能も雰囲気からして何も持っていなさそうな、容姿が微妙な残念王子』だ。
僕はただ、前日の夜に好きな小説を読んで夜更かししてしまっていただけなのに。ただ眠くてボーッとしてしまっていただけなのに。」
「…………『意識が低い』は本当だったんじゃないですか。
そんな大事な国家の儀式の前日に、趣味で夜更かしをしちゃうなんて。ちゃんと寝るべきでしたよ。」
私はツッコんだけど、ロイ様は無視して続けた。
「王家の人間に人権などない。
国民らに好き勝手言われて新聞に好き勝手書かれるのを、僕は黙って見ているしかないんだ。
『第二王子は兄の第一王子とは元来不仲で、姉の第一王女とも長年の確執がある。妹の第二王女に対しては、激しい嫉妬と劣等感を抱いている。』
何故だ?何故か?……何故だろうな?
……僕は何もしていない。
一時期僕以外の兄妹が、それぞれ余裕をなくしていただけだ。あの三人が昔、勝手にギスギスしていただけだ。
僕は兄妹の中で一番、穏やかに反抗期を終えたはずなんだ。むしろ僕が一番、いつだって全員と普通に話していた。」
一気に日頃の……というか、長年の積み重なってきた鬱憤をここぞとばかりにぶち撒けてくるロイ様。
王子としては表に出しちゃいけない愚痴だらけのような気もするけど、少し同情もしてしまった。
「うーん……まあ、そうですよね。
たしかに『王子様』みたいな有名人は、周りにあれこれ言われるのが宿命なところはありますよね。」
私も正直、ロイ様と直接知り合うまでは、第二王子様のことは「エゼル四兄妹の中で一番影が薄い」と思っていましたから。印象すら持ってませんでした。
……ごめんなさい。私もそんな風に四兄妹を勝手に比較して評価をしてしまっていた、浅はかな国民の一人です。
「……でも、ロイ様もお父様の国王様に似た精悍な顔立ちだと思いますよ。……他のご兄妹のお顔の印象が強すぎるだけで。『隠れイケメン』ってやつですよ。
裏ではこうして意外とよく(森羅万象を小馬鹿にして鼻で)笑っていますし……個性的で才能溢れる、魅力的な御方だと思います。」
いたたまれない気持ちになって、思わずそっとそうフォローすると、ロイ様は鼻で笑って
「……フンッ。ああ、ありがとう。
だがしかし誠に申し訳ないんだが、実は僕は『凡人』の方に憧れがある。
今度から世辞を言ってくれる際は『個性的で才能溢れる魅力的な御方ですよ』ではなく、『凡人でありながら不屈な素晴らしい努力家ですね』と言ってくれ。」
と返してきた。
……まったく。素直に受け取ればいいのに。
そういうところですよ。偏屈な「第二王子」様。
「せっかく私が褒めて差し上げたんですから。
私のことも婚約者候補だって言うなら、ここで私がときめきそうな一言でも試しに言ってみればいいじゃないですか。」
「そんなことを僕がいきなり言ったら、君の腕に鳥肌が立って、むしろ好感度が下がるだけじゃないのか?」
「まぁ……高熱と正気は疑いますね。」
ロイ様は「そうだろう?」と言って、今度は軽く私の現状を指摘してきた。
「──というか、ミモリー。
君の方こそ、僕以上に悠長に構えている暇はないんじゃないか?
君ももう今年で20代後半。
……僕は今後相手が同年代で見つからなければ、かなり歳下の婚約者を充てがわれてしまうだろうが、女性の君は逆になる可能性が高いぞ。
いつまでも相手を作らずに独身で居続けたら、君の場合、かなり歳上の男性を充てがわれてしまうかもしれないぞ。」
「──!!」
「あと5、6年……君が30代になったら、一気に増えていくだろうな。
『何やら事情がありそうな50代資産家の後妻に』とか。
『すこぶる評判が悪い愛人持ちの40代地方領主の夫人に』とか。
そんな明らかに危険な香りがしているのに、家格的に断るのにも苦労する厄介すぎる縁談が。」
「ひぃぃーっ!!
ちょっ……そんな脅かすようなこと言わないでくださいよ!!」
私が思わず身震いをすると、ロイ様は再び鼻で笑って私に忠告をしてきた。
「ミモリー。君も僕と同じように現実を見ろ。
そして君は女性で、僕以上に立場が弱い。今からでも最悪を想定して立ち回れ。
──王宮で働けている今のうちに、手当たり次第『許容範囲内』な同年代の異性相手には、見苦しくとも婚活をしておけ。
君らの言う『愛』だの『恋』だのというものも、基本的には受動的なままでは得られない。
……君はさっき思いっきり引いていたが。結局、相手を『恋愛対象』に押し上げる、自分を『恋愛対象』として意識させる──これだって、自然に恋に落ちなかった場合は、意図的にやらなければいけないことなんだ。
『運命的な出会い』を夢見ること自体は悪くないが。
ただ口を開けて餌を待っていればいいのは、幼い雛鳥の年齢までだ。
いい年齢してもまだ『なかなかいいお相手に巡り逢えない』『自分は環境に恵まれていなかったから仕方ない』と嘆いてただ口を開けて待っていたら、周囲に憐れまれながら餓死するか、馬鹿にされて口に塵を突っ込まれて窒息死してしまうぞ。
君こそ急がないと本当に、『第二王子』のこの僕が一番マシな選択肢に繰り上がってきてしまうぞ。
断言できるが、君の育ちでは王族文化には馴染めない。君の気性には第二王子妃の役は合わない。
僕にとって君は意外と悪くない選択肢の一つだが、君にとって『第二王子の僕との結婚』は『人生の墓場行き』と同義だぞ。
『地獄行き』よりはまだマシだというだけだ。」
「………………。」
それ、ご自分で言ってて虚しくならないんですか。
「人生は屈辱と妥協の連続だ。
……だが、成人したらさすがに自分の人生は自己責任。いつまでも他人のせいにはしていられない。
最悪な死を避けるためならば、時には不味い餌でも口に入れて生き抜くしかないんだ。
…………さて。
僕はもうそろそろ愚痴を終える。
そうしたら頭を切り替えて再び前を向く。今日これ以降は皆の前で、意地でも『まったく何も堪えていない』フリを貫くぞ。」
──「人生は屈辱と妥協の連続だ」。
夢のない言葉を吐いたロイ様は、宣言通り自分の頭を切り替えるかのように机の上に広げられていた書類を纏めて、軽くトントンと整えた。
あの大学院の大講義室で、私が初めて話し掛けたときのように。
本当に何でもなさそうな顔をして、ロイ様は大好きだった魔導工学の学術書とノート──ではない、お嫌いな内政のお仕事の書類を整えた。
…………まあ、今でもロイ様がお仕事中にたま〜にこっそり「内職」をしてること、私は知ってますけどね。
何だかんだ言いつつも、やっぱりどうしても「好き」を捨てきれない性格のロイ様。
私はそこまでしんみりはせずに、久々の「ロイ様節」に何だかんだ元気をもらいながら、笑って感想をお伝えした。
「いやぁ〜……こうやって明け透けに語り合える相手が近くにいるだけ、まだ私たちは恵まれてますよ。
お互い、頑張りましょうね。」
そうしたら、ロイ様は軽く微笑みながら、
「ははっ、まあな。
僕にとっては君が結局一番、会話をしやすい相手だからな。
……他人と気兼ねなく話すというだけでも、こんな僕にとっては、なかなか難しいものなんだ。」
って返してきた。
…………………………。
………………まったく、も〜〜〜。
もっと普段からそういう部分を前面に出していれば、これらの愚痴もすぐに解決できるんじゃないですか?
私はそう思ったけど、口に出すのはやめておいた。
……ロイ様、今は頭を切り替えようとして本当に頑張っているみたいだから。
「珍しく可愛い『本音』がついでに零れちゃってますよ〜?」なんてここで私が茶化したら、今度は本当に本気で恥ずかしがっちゃって、今度こそ心が折れちゃうだろうし。
ここは一番の「仲良しさん」として、そっとしておいてあげよう。
とにかく世間体を気にしちゃう、「他人の目」第一なロイ様。
窮屈な「第二王子」の肩書きを背負って、これまでも頑張られてきた御方。
私は本っ当〜に数年振りに、実は割と本気で余裕がなくなっていたらしいロイ様に、割と本気で同情した。
関連作品を通しての、謎というほどではない小さな(?)違和感。
「リーレンゼルテ第二王女の言動の変化」についての答え合わせに近いものが、明日の分の番外編に含まれます。
関連作品の内容を覚えていらっしゃる方は、よろしければリーレンゼルテが〈クゼーレ王国来訪初日の夜会では、ラルダを困らせるほど喋っていた〉のに〈翌週の魔導騎士団見学では、ほとんど『ええ。』しか喋らなくなっていた〉理由について、少し予想してみてください。




