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11 ◇ 真相解明!これにて落着!

全11話+後日談2話(執筆済)。基本毎日投稿予定です。

 目を丸くして「……同じ?」と小さく呟くロイ様。

 私はその言葉に、うんうんと全力で頷いた。


「はい。そうです。

 私はここから遠く離れたニーシュ地方の出身ですが、実家の子爵家ではずっと『高等部を卒業したらすぐに地元の領主家に嫁げ』って言われ続けていたんです。


 ……でも、私はそれに反発しました。婚約を拒否して粘りました。それで大学院(ここ)に来たんです。


 ──私は大学院に行って王宮に勤める。学年首席の私にはその実力があるし、そうなれば『王宮の役職者を輩出した家だー!』って絶対に(うち)の格も上がるから!

 ──それに、大学院には田舎の領主家よりももーっといい家柄の御子息がゴロゴロいる!今よりも絶対に条件のいいお相手に見初めてもらえるように、私全力で頑張るから!


 って。

 誇張だらけの理由でがむしゃらに説得をしまくって、両親と兄を何とか黙らせました。


 家族の反対を押し切って人生を賭けて猛勉強して、本当にギリギリの成績で大学院に合格して──それで、単身で初めて王都に来た日は、本当に、ものすごく興奮したんです。

『これで私も今日からは、自由な華の都の人間だー!』って。」



 野暮ったいド田舎で、近くの顔見知りの領主家の息子に早々に嫁がされる。

 私は、その未来から逃げてきた。


 ……「貴族の婚姻」だなんて言っても、まるで酪農家同士で家畜の譲り合いをしてるようで……それが、すごく(いや)だった。

 何より、婚約者候補にって挙げられてたその「お相手」が……私は、ものすごく(きら)いだった。


 彼は私と同じ学校の同級生だった。

 その彼はいつも男友達の前で「女は馬鹿な生き物だ」って、恥じることもなく言ってた。

 私が何か主張すると「女はすぐ感情的になるよな」って、内容もろくに聞かずに言い返してきた。

 それでいて私が高等部学校で一番の成績を取ってたら、今度は「女は思考力がないから、仕事では無能になるけどな」「何も考えずにただ丸暗記してるだけだから、テストでは良い点を取れるんだよな」って。何としてでも、どんな難癖をつけてでも、私を見下そうとしてきた。


 私がもしかしたら彼の婚約者になるかもって、親から話でも聞いたのか……そうしたら彼は私に向かって、「俺はもう女と寝た経験あるし。お勉強しかしたことのないお前はそういうの、全然知らないだろ?」だとか、「お前よりもお前の友達のアイツの方が全然いい女だよなー!」だとか、「正直お前だと萎えそう。お前、貧乳すぎじゃねー?」とか……そういう、妙に「女」を比べて貶めてくるような、何も笑えないことを何故か笑って言ってきた。

 私を嫉妬させようとでも思ったのか、私を焦らせようとでも思ったのか、ただ「女慣れしてる俺」でマウントを取って満足しようとしていたのか。……彼があまりにも馬鹿すぎて、私には全然分からなかった。


 だから、本当に本当に大っ嫌いだった。そんな人と結婚なんて、私は絶対にしたくなかった。


 好きでもない男の人の子どもを「とにかく産んでくださいね〜」って。「それが(メス)の仕事ですよ〜」って。交配させられてる馬みたいな。

 ……すごく失礼な例えだけど。

 なんかそういう、受け入れられない気持ち悪さが、私の中にはあった。


 それが貴族の、女性の自分の「役目」だって分かっていても。

 私には、どうしても無理だった。



 ……嫁ぎ先の家の血筋を守る「貴族令嬢の矜持」。


 その令嬢の最大の「誇り」を……私は、いつまで経っても持てなかった。



「文化が周回遅れしている遠方のド田舎出身で、しかも女性ですから。私が『王宮の役職にストレートで就く』なんて、できる可能性はほぼ皆無。

 王都に来て大学院に入ったからって、厳しい現実は在籍中の2年やそこらじゃ変えられない。


 ……分かってはいるんですけど。でも、やっぱり浮かれちゃったんです。

 合格通知を手にした瞬間からずっと『大学院を修了して外交官になって、それで王国の外交の第一線でバリバリ活躍する私ー!』って。もうそんな妄想ばかりしちゃってました。


 それで、王都での一人暮らしにも少しずつ慣れてきて……私、もっともっとはしゃいじゃったんです。

『華の都のお洒落な隠れ家カフェで、コーヒーの香りに包まれながら空き時間に優雅に働く、自立した大学院女学生の私ー!』って。それも実現させてしまおうと、浮かれて思い立ちました。


 そうして近場の喫茶店の求人募集を探して、ここで雇ってもらったんです。

『今の私、まさに憧れの華やかな人生を送ってる!』って。アルバイト初日の朝なんか、誇張抜きで部屋で踊っちゃいました。


 ……まあ、いざ始めてみたら『この仕事、本当に向いてないな』って。

 たった3日で嫌というほど思い知ったんですけどね。」



 …………うん。私、多分普通に事務作業とか家庭教師とか。そういう感じのアルバイトの方が、まともにこなせる気がする。


 私には接客業は向いてない。

 メニューを覚えて一発で注文を聞き取ってお品を運んで空いたテーブルと椅子を拭いて、誰かに呼ばれたらそっちに行ってお客様が来たら入り口に行って、隙を見て食器を洗って拭いて、絶対に間違えないようにお会計。しかもそれを全部笑顔で丁寧に──……もう予測が全然できなくて、頭も身体も常にごちゃごちゃ動きっぱなしで、微塵も優雅じゃなかった。



「でも、たとえ向いていなくても。3日目で殺人事件に巻き込まれるなんて、笑っちゃうくらい運が悪くても。

 あのときロイ様と知り合えたこと自体は、私、全然悪いことじゃないと思ったんです。


 ──同じ大学院の学生同士。

 この一期一会の出会いは、大切にしていくべきだと思いませんか?


 ですのでロイ様。……僭越ながら。私から一つ、ご提案させてください。」



 無言で再び軽く身構えるロイ様を見ながら、私は今日一番話したかった内容をお伝えした。



「ロイ様が望まれているのであれば。


 ──よろしければロイ様、これからも私のアルバイト先の喫茶『シャンテ』に、お気軽に遊びにいらしてください。


 私がいるのは週の頭と平日最終日の午後。その週二日だけですが。

 もしロイ様がその時間帯にいらしたら、私が目立ちにくい奥の席にちゃんとご案内いたします。

 ……一般市民らしい体験をロイ様がのんびり楽しめるように、私が協力いたします。(いち)店員が可能な範囲で、にはなりますが、束の間の自由をお守りします。


 いかがですか?大学院生の【ルイス】さん。」



◇◇◇◇◇◇



 私の提案を聞いて、ロイ様はなんだか中途半端な表情をした。


「…………それで?君の方は僕に何を望んでいるんだ?」


「いえいえ。望みなんてありませんよ。先ほど言った通りです。

 ただ、私も少しだけですが、ロイ様のお気持ちが分かるような気がしたので。お力になりたいと思っただけです。」


 私はそれから、にっこり笑って言い足した。


「従業員の私視点では『常連のお客様を増やせる』って、純粋に『いいこと』なので。」


「……………………。」


 ロイ様が無言で私を見つめてくる。

 私はそんなロイ様の視線を受けながら、笑みを浮かべ続けた。



 ……まあ、普通にバレちゃってるだろうな。私の「本音」くらいは。


 すぐに「推理」できちゃうだろうな。第二王子の【ロイ】様には。

 ……ううん。華麗なる探偵の【ルイス】さんには。



 でも、私が本音(それ)を口に出したら、明らかに不敬で不正だし。

 あとはロイ様ご自身に、ご判断いただこう。



 笑顔を崩す気がない私の顔を見て、ロイ様はしばらく無言でいたけど……それからフッと、その表情筋を緩めてつられるようにして笑った。



「…………そうか。

 慈悲深い女神のように甘いことを言ってくれる。


 ──……君は本当に、容赦ない悪魔のような人なんだな。」



 ロイ様は分かりやすく私に伝えてくれていた。ロイ様なりの「推理」の答えを。


 誰がどう聞いても今のロイ様の言葉は、私のことを心底軽蔑するような、嫌味ったらしいものだった。

 声色も言い方も、ものすごく分かりやすく「君はいい性格してるね」って、そういう意味を含んでた。



 …………正解です。ロイ様。


 私の本音は、ロイ様がお察しの通りです。



「恐縮です。」


 私は笑顔のまま頭を下げて御礼を言った。



 ロイ様が普段から「第二王子」のお立場を嘆いているんだということも。

 昨日ロイ様は勇気を出して、普通の学生に憧れて喫茶店に入ってみていたんだということも。

 私にはこの一連の会話で、はっきりと分かってしまった。


 …………それでも。

 それでも私は、そんなロイ様のお気持ちを、今思いっきり踏み(にじ)った。


 ロイ様に寄り添うフリをして。

 ロイ様に「協力する」なんて言って。


 私はそんなロイ様に、ここぞとばかりに受け取り拒否ができない、優しい「恩」を売りつけた。


〈ロイ様の()()は、ちゃんと黙っていてあげますね。

 これは()()()()ですよ。〉


 って。


〈この『貸し』はいつ返していただいても構いません。

 ですが、あわよくば。この貸しが()()()()()に役立つように、ご協力いただけると幸いです。〉


 口に出したら即不敬、即不正。

 でもロイ様は、ちゃんと汲み取ってくださった。


 まあ、一番はそのままロイ様が王宮に「口利き」してくれることだけど。さすがにそこまでは望んでない。

 これから私と学友として、「仲良く」してもらうだけで充分。

 ちょっとでも王宮内部の様子とか、政治に関する雑談とか、話してもらえるだけでありがたい。

 第二王子様から直々に聞ける情報は、王宮に就職希望の私にとっては、ぜーんぶ宝の山だから。


 いま私はロイ様を「ああ。僕はこのミモリー嬢にまで『第二王子』扱いされるのか。」って、傷付けちゃっていると思う。それは申し訳ないと思ってます。


 でも、私にはもう後がない。

 2年後に就職に失敗して、田舎に強制帰還になるくらいなら。

 あんな馬鹿な領主家の息子に「大口を叩いていたくせに結局就職すらできなかった無能女」って見下されて、「女は楽でいいよな。無能でも結婚するだけで簡単に『男の仕事(領主家当主)』の恩恵が受けられるんだから。」なんて言われて気色悪く触られるくらいなら。

 大国の第二王子様だって、私は全力で利用する。


 私はただ自分のために、下衆な手段を取った。



◇◇◇◇◇◇



 ………………。


 私とロイ様の間に、ちょっと嫌な感じの……でも不思議と気まずくない、変な沈黙が流れる。


 その変な沈黙を打ち破ったのは、ロイ様の方だった。

 ロイ様は私のことを遠慮なく睨んだ後、この状況に失笑した。


「……まあ、100%善意で気遣われる方が、僕が余計に惨めになるか。

 君くらいの温度感の方が案外、丁度良いのかもしれないな。」


 そしてそれからロイ様は続けて、私のさっきの提案をあっさりと却下してきた。



「では、ミモリー嬢。今後は今のように学内で、いつでも僕に声を掛けてくれていい。それを全面的に許可しよう。

 君の将来の『足し』になるかは分からないが、何か知りたいことがあれば適当に質問でも何でもしてきてくれ。僕が答えられる範囲で答えよう。


 ──……だが、僕はもうあの喫茶店には行かない。


 ……あの一回の経験でもう充分だ。僕は充分『ごっこ遊び』を楽しんだ。いい加減、もう終わりにする。

 だから、そこの気遣いは不要だ。」



 ロイ様がそう言って、席を立ち上がろうとする。


 私はそんなロイ様の横顔を眺めていたら……




 不意に、バレバレの建前でも打算でもない、



 まったく意識していなかった「本当の本音」が、私の口から自然に、勝手にポロッと漏れだした。




「………………駄目です。」


「…………?」


「……っ、駄目です。ロイ様。

『もうあの喫茶店には行かない』なんて、駄目です。


 お願いです。来てください。

 ──っ、お願いですから、お願いですから絶対にまたシャンテに来てください……!」



 突然の不敬な「駄目です」の発言に、立ち上がったロイ様は笑みを消して「ミモリー嬢?……どうした?まだ何かあるのか?」と、訝しみながら私を見下ろしてきた。



 透明なレンズの眼鏡越しに、ロイ様と目が合う。


 その宝石のような碧色の瞳を見ていたら──……


 ……もう一つ。自分の本当の本音が、今この瞬間に自覚できた。



 …………うわぁ。私、いま気付いた。


 ……他でもない自分のことなのに。どうして私、全然気付けなかったんだろう。



 絶対にロイ様にはまだ「推理」できていないであろう、もう一つの私の本音。

 私のこの無謀すぎる、第二王子様への突撃の「真実」。


 私はロイ様の瞳を眺めながら、今の気持ちをそのまま正直に口にした。



「…………私、いま気が付きました。

 私がこうして、王子様にいきなり話しかけちゃった理由。

 柄にもなく推理なんか披露して、ロイ様に失礼なことを言った理由。」


 突然変なことを言い出した私を訝しむように、ロイ様が顔を顰める。

 そんなロイ様を見ていたら、私は急に泣きたくなった。


 自覚した途端、自分の声が、手が、身体(からだ)が震えていくのが分かった。



「………………そうです。私、()()()()んです。


 人が殺される瞬間なんて、殺された人の死体なんて……、今まで、見たことなかったから。

 殺人現場なんて、人を殺しちゃう人なんて……私、初めて見たんです。」



 私は昨日あの後、警察の取り調べを受けて……日が落ちて夜になって、ようやく解放された。

 それで、店主(マスター)に「いきなりこんなことに巻き込んじまって、本当に悪かったな。」って言われて……それから、こう訊かれたんだった。


「ミモリー。お前はここでの仕事、このまま続けられそうか?」


 って。

 店主(マスター)に気を遣われたんだった。


 でも私はそのとき、「大丈夫です!」って笑顔を作って即答した。

 ……多分、混乱してたから。私は本気で全然平気だと思って、いつもみたいに笑って、全力で頷いてしまった。


 …………何だっけ?こういうの。

「正常性バイアス」って言うんだっけ。

 心理学は専門外だから、合ってるかどうか分からないけど。……多分あのときの私は、そういう状態だった。


 それで私は昨日その後、暮らし始めて1ヶ月の賃貸の部屋に一人で戻って──……それからずっと、消えた探偵【ルイス】さんのことばっかり、ずっとずっと考えてた。



「……脳が現実を受け入れるのを、ずっと拒否していました。

 昨日私は、心配してくれた店主(マスター)に『大丈夫です!』って返事をして、アルバイトを継続することにしてしまったんです。


 それで……何でしたっけ。心理学は専門外なので分からないんですけど……多分、『逃避』ってやつだと思います。

 ──昨日の夜は私ずっと、【ルイス】さんの正体ばっかり考えてました。

 それで正体を推理した後は、今日午前中ずっと、第二王子の【ロイルスヴィール】様に話しかける機会ばっかり、ひたすら窺っていました。


 …………っ、怖かったんです。


 まさか、……まさか角砂糖に毒が入っていたなんて。

 じっ、自分の運んだコーヒーで、人が死んじゃったなんて……!

 知らない間に()()()()()()()()()()()()なんて──……!


 そんなの……そんなの家で一人で考えたくなかった。

 多分っ、……私、怖くて仕方がなかったんです。」



 口に出してみたら、いきなりすごく怖くなってきた。


 昨日、探偵のルイスさんが推理を披露してたとき。

 フィリップ先輩は()()()()()()()()()

 人を殺した後なのに、私よりも何倍も落ち着いていて、()()()()()()()()()()


 ルイスさんに罪を(なす)りつけようとして。都合のいい証言を私にさせようとして。

 あれは……あの会話は、あの笑顔は全部……全部、人を殺した後の──……



「だから──だからっ、私、もう王都に一人暮らしなんて、……怖くて仕方がないんです。


 ……こうやって誰か、同じ事件現場にいた人と『本当に災難だったね』って話して……それで、とにかく誰かにこの恐怖を、一緒に共有してもらいたかったんです。


 っ……あの喫茶『シャンテ』も……来週から、営業再開するって……私っ、今になって怖くなってきちゃいました。


 ──だから、お願いですロイ様。お願いですから、絶対に来週も来てください。


 あの席に『第二王子様が座っている』くらいの衝撃がないと、私っ、……アレンさんが倒れていたあの光景を上塗りすることができません……!


 ──……っ、私、『あの殺人事件をきっかけに第二王子様とお知り合いになれた』くらいの()()()()がないと、……一人じゃあの()()を忘れられそうにありません!!」



◇◇◇◇◇◇



 昼休みが始まってもう数十分は経っている。

 この大講義室に残っている学生は、私とロイ様の二人だけ。

 ……それと少し離れたところに、ロイ様の護衛が何人か。この人たちは多分、あの喫茶「シャンテ」にもいたと思う。


 私は自分の本当の本音をようやく理解して……気付いたら泣きながらそう訴えていた。

 荒くなってしまった最後の声が、大講義室に少し響いた。



 泣きながら声を荒げて滅茶苦茶な訴えをしてきた私を、ロイ様は目を丸くして見ていた。


 ロイ様はしばらくポカンとして私を見て──……



 ……それから、失礼なのか。ありがたいのか。



 私を見ながらロイ様は、可笑(おか)しそうに笑った。



「あっはっはっは!

 そうかそうか。僕の洞察力は、まだまだ未熟だったんだな。

 やはり『探偵』という職業(もの)は難しいな。僕には向いていないな。」



 ………………笑うところじゃないと思うんですけど。


 不敬を承知で申し上げますが、人の心を何だと思っているんですか?



 不敬だから言えなかったけど、私のロイ様に対する好感度は、この瞬間に一気にダダ下がりした。


 ロイ様はそんな私のじっとりとした視線に気付いたのか、笑いながら軽く弁明をしてきた。


「ああ、すまない。違うんだ。馬鹿にしているつもりはない。

 ……ただ、喫茶店で見た君と今日話しかけてきた君があまりにも違いすぎたから、ついさっきまで僕も少し『違和感』を覚えていたんだ。

『昨日はあんなに動揺してドタバタしていたのに、今日は随分と(したた)かだな。もしかして二重人格なのか?』と。」


「…………ちょっと失礼ですよ。」


 私は思わず口に出してしまった。

 でもロイ様は私の指摘を完全に無視して、笑顔のまま続けた。


「しかし、君の今の話でようやく納得がいった。


 ──要するに君は《昨日の事件発生時からほぼ丸一日、一人でずっと混乱し続けていた》という訳か。


 僕に不遜にも話しかけてきて散々図々しい態度を取っておきながら、脳内では終始ドタバタしていたという訳だな?

 それはご苦労だったな。」


 ………………それは、そうなんですけど。


 でも笑いながら言われると、さすがにけっこう腹が立つ。……何なの?この人。

 そのちょっと嬉しそうな顔をするの、やめてもらっていいですか?私、泣いちゃってるんですけど?


 私はもう完全に不満だらけで思わず睨みそうになってしまったけど、ロイ様は私たち下々の民には到底共感できない、変な着地をしてきた。


「僕は君よりも早く、君の本心を正しく『推理』すべきだったな。

 ……たしかに。殺人事件の目撃者が遅れて恐怖を感じるのは当然か。そこにまで思い至らなかった。……そうか。今後はそういった人々への保障ないし支援も、多少なり考えていく必要がありそうだな。

 いい知見を得た。ありがとう。今度折を見て、国王(父さん)第一王子(兄さん)に雑談の一つとして振ってみるのもアリか。……いや、そうしたら『お前が主導でやれ』と言われてしまいそうだな。それはそれでキツイな。」


 ……雑談で「進言」しようとする人、私、初めて見た。


 それから最後にロイ様は、どこか吹っ切れた笑顔で、嬉しそうにこう言った。



「『第二王子』の僕が再度あの喫茶店を訪れることが『(いち)国民の救済』に繋がるのなら、僕の罪悪感も多少は薄れるというものだ。


 ミモリー嬢、感謝する。

 君の本音のお陰で、僕は僕で、嫌な喫茶店の記憶を上手く上塗りすることができそうだ。

 僕はこれからは『君の恐怖を紛らわすべくお忍びの喫茶店来訪を繰り返す()()()()』になるとしよう。


 ……来週は君の要望通り行くようにする。だが、それ以降は申し訳ないが、あまり頻繁には行けないだろう。周囲にバレてしまうからな。

 しかしまあ……先ほども言ったが、学内でならばいくらでも、このように気軽に声を掛けてくれ。君が望む程度の軽い雑談ならば、付き合うことも可能だ。


 うむ。……そうだな、それがいい。これで僕もようやく、夢への諦めがついた気がするな。

 僕は所詮(しょせん)『第二王子』なのだから。今も身の丈に合った仕事を任されたと思って、粛々とミモリー嬢の要求に応えればいいか。

 今後はもうそうやって、大人しく生きることにする。」



 ……………………。



「う……うわぁ〜……」

「何だ?」

「『第二王子』というお立場を『所詮』やら『身の丈に合った』やらのお言葉で表現なさる御方……私、初めて見ました。」

「それはそうだろうな。この国では『第二王子』は僕しか該当者がいないからな。」

「あ、あぁ……はい。まあ……それはそう、なんですけど……」



 大国エゼル王国の、華やかな王家四兄妹。

 その中でも、申し訳ないけど国民たちからは一番「パッとしない」と思われている、第二王子【ロイルスヴィール】様。


 私も正直、昨日までは第二王子様の印象の感想なんて、全然持ったことなかったんだけど……


 こうして会話をしてみて、少しずつ、なんとなくだけど……分かってきちゃった気がする。


 国民たちがまだ知らない……第二王子様の「中身」が。


 腹立つし嫌味っぽいのはそうなんだけど、意地悪……とまでは言い切れない。

 尊大ではあるんだけど、傲慢……とはちょっと違う。

 高貴な精神……は、お持ちかなぁー……?

 無神経……は、そうかも?


 でも、それが本質ってわけでもなくて──……



 うーん……。

 ただ、何というか…………うん。



 ──……本当にこのロイ様って、「偏屈な()()」っぽい人なんだなぁ。




 相手を無駄に煽ってくるような、クセのある言い回しも。

 いかにも王子様らしい、偉そうな言葉遣いと堂々とした態度も。


 ……好奇心に負けてつい実際に行動に移しちゃう、危なっかしいその性格も。



 ロイ様はさっき「自分は『探偵』に向いてない」っておっしゃっていましたけど。そんなことないと思います。


 今も「今後は大人しく生きることにする」って宣言なさっていましたけど。

 …………多分、無理だと思います。



 ロイ様はご自分で自覚なさってるよりもずっと、インパクトの強い御方です。



 時間差で遅れてやってきていた、殺人事件の恐怖。

 でも、ものすごくありがたいことに、今日のこのロイ様とのやりとり一つだけで、だいぶその恐怖は薄れた。


 その日の晩。

 私は王都の下宿している部屋で一人で横になって……何度かアレンさんの死体とフィリップ先輩のことを思い出して怖くなりかけちゃったけど、すぐに今日のロイ様とのやりとりを何度も思い浮かべまくって、恐怖を相殺しながら寝た。

 ……意外といけた。怖くなかった。……意外と寝れたからよかった。


 これからは「恐怖」を感じたら「ロイ様」。

 あの素の性格がもうバリバリ探偵くさい第二王子様との今日の会話を、今後は「お守り」代わりにしていこう。



 そして私は新生活開始から一ヶ月で、かなり斬新な恐怖心克服術(ライフハック)を確立した。



◇◇◇◇◇◇



 こうして殺人現場から始まった、私【ミモリー】と第二王子【ロイ】様の奇縁。

 ロイ様──ときどき【ルイス】さんのお陰で、私の恐怖心は激減した。


 …………毎回あの殺人が起きた一番奥の席に案内し過ぎて、5回目あたりで普通に怒られちゃったけど。


 だって、仕方ないじゃないですか。

 早く記憶を上塗りしたいんですもん。


「殺人が起きた事故テーブル」じゃなくって、「お忍び王子の特等席」に、早く塗り替えちゃいたいんです。



 不敬を重ね、嫌味を重ねられ……お互いに呆れ呆れられながら。私とロイ様は変な友情を築いていった。


 ……「腐れ縁」って言えるほど、まだ長い付き合いではないんだけど。


 それでも大学院に在籍中の2年間、結局まっっったく大人しくしない好奇心旺盛で偏屈で嫌味なロイ様──ときどきルイスさんに、私は探偵助手よろしく散々こき使われ振り回されまくった。

 そして「自分の直感はやっぱり正しかった」と毎回げんなりしながら、素のロイ様の面倒くささを嫌というほどに思い知った。


「推理小説というものは難しいな。自分には向いていないな。……『推理』ジャンルからは本作限りで撤退だ。」と思いながら。

 恐らく一度きりの「推理小説っぽいものを書いてみる」体験を、存分に楽しむことができました。

 拙い素人探偵ばかりの小説でしたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


 さて、明日は後日談を投稿いたしますが、この作品はすでに投稿済みの拙作の舞台裏的な位置付けとなっております。

 ですので、もし「後日談の背景(登場人物や別視点)を詳しく知りたい」という方は、


異世界〔恋愛〕

【連載】婚約者様は非公表

(長い作品ですが、第一部と第一部後談まで(全23話)だけで大丈夫です。)


ヒューマンドラマ〔文芸〕

【連載】僕の弟の裏の顔

(こちらの方は割と短い作品です。)


をお読みいただければと思います。

(もちろん、関連作品には目を通さずに、ただ本作の三人の後日談としてお読みいただくことも可能です。)

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