1 ◇ いきなり探偵ルイスさん
全11話+後日談2話(執筆済)。基本毎日投稿予定です。
一話の長さがまちまちなので、本日は3話分くらい投稿しようと思います。
※群像劇というほどではないと思いますが、視点が三人分あるので一応キーワードをつけておきます。
「ッ……ガハッ!」
──パリーン!
「きゃあぁぁーーーっ!!!」
春の陽気な昼下がり。
華の王都の中心部。その賑やかな大通りから少しはずれたところにある、落ち着いた雰囲気の喫茶店。
穏やかな空気が流れていた静かな店内に、突然、食器の割れる耳障りな音と悲鳴が響いた。
何事かと驚いて、店内にいた全員が咄嗟に音と悲鳴のした方を向く。
──するとそこには、机に突っ伏して脱力している男性と、その男性が落としたのであろう床で割れているティーカップ。
そして、その男性の向かいに座って言葉を失っている若い女性の姿があった。
一瞬の間の硬直。
その一瞬を打ち破り、男性ウェイターが「──っ、お客様!大丈夫ですか?!」と何とか駆け寄り、テーブルに突っ伏している男性客の肩を軽く叩き声をかける。
……しかし、反応のない男性客。
男性ウェイターは慌てたようにその客の左手首を押さえて脈を測り、口元と鼻元に手を翳し呼吸を確認し──……そして一言。慄きながら、こう言った。
「…………し、死んでる……!?」
こうして平和な昼下がりの喫茶店は一変、恐怖と困惑と悲鳴の現場へと様変わりした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「しっ、ししししし死んでる?!死んでるって……!死んでるって──?!!」
「落ち着け!ミモリー!急いで警察と──病院にも連絡するんだ!」
「はっ?!はっ、はいぃっ!!」
喫茶店の新人アルバイト【ミモリー・ケランシェット】。
世界的にも有名な「華の都」、大国エゼル王国の王都。
王都にある王立大学院に通うため、ド田舎から単身でこの華の都にやってきて1ヶ月。
生活費の足しにするために慣れないアルバイトを始めて、今日が出勤3日目。
その新生活1ヶ月目で……アルバイトを始めてたった1週間で……私は人生初の事件に巻き込まれてしまった。
慌てて店主に指示された通りに通話機を取って、震える手で警察と病院に連絡する。
「えぇ、ええっと!あの、警察ですか?!私、ミモリーって言います!
それで……今、喫茶『シャンテ』で!人が死んじゃったんです!それで警察に来てほしくて──
──っ、そうです!
シャンヴィーラ通りの──あっ、その角の有名なお菓子屋さん……はい!そこを曲がって南に少し進んだところにある喫茶店です!
とにかく、人が死んじゃったんです!──っ、はい!すぐにお願いします!」
人生で初めての無茶苦茶な通報。
私は震える手で泣きそうになりながら、とにかく「人が死んだから早く来て」だけを必死に伝えた。
どうしよう……どうしよう……っ!
どうすればいいの……?!
私は何を考えていいのかすらも、何に慌てているのかすらも、何ももう分からないまま、とにかく警察と病院に通話をした。
そして私が病院への救急要請を終えて、通話機を置いた瞬間。
人生で一度も聞いたことがないはずなのに。
なぜか既視感しかないお決まりの台詞が、よく通る理知的で格好良い男性の声で、ビシッ!と私の耳に飛び込んできた。
「──皆さん、それ以上は下手に動かないように。物も触らないでください。
これは殺人事件です。
そして恐らく──犯人は、この中にいる!」
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
事件のあらましは、こう。
〈被害者の男性……彼の名前は【アレン】。
アレンは午後2時頃、一人でこの喫茶シャンテに訪れた。
そして彼……アレンは店の一番奥の席に着き、若い男性ウェイターにコーヒーを注文。鞄から本を取り出し、それを広げて読んでいた。
ウェイターから注文を受けた中年男性の店主は、コーヒーを淹れてそれを男性ウェイターに渡そうとしたが……ちょうどそのとき、彼は別の客の食器を持っていて両手が塞がってしまっていた。
そのため、彼は自分の代わりにコーヒーを運ぶよう、若い女性の新人ウェイトレスに頼んだ。頼まれた彼女は、お盆にコーヒーを載せて慎重に運んでいった。
……しかし彼女はそのコーヒーを一度、違う客に渡してしまった。
被害者アレンが座っていた一番奥の席の、一つ手前のテーブル。
そこに座っていた若い男性客のテーブルに、彼女はコーヒーを置いてしまった。
間違えて提供されたその客の男もまた、アレンと同じように読書をしていた。
男は本に夢中でコーヒーを置かれたことに数分ほど気付いていなかったが、不意に顔を上げたときに、身に覚えのないコーヒーがテーブルの上にあることに気付く。
男は店員を呼び、その声に反応した新人ウェイトレスに「提供するテーブルを間違えているのではないか」と尋ねた。
彼女は慌てて謝罪をし、コーヒーを受け取り、それを一つ先のアレンの席に提供しなおした。
それからさらに数分が経ったところで、アレンと待ち合わせをしていたらしい若い女性が来店。彼女はアレンがいる一番奥のテーブル席を見つけ、真っ直ぐアレンの元へ行った。
そして、彼女がアレンの向いの席に座った直後──……突然、悲劇が起きてしまった。〉
「──ということだな。なるほど。」
私たちの話を簡潔に取りまとめて、頷く若い男性。
いかにも探偵らしく「犯人はこの中にいる!」と言ったその男性……探偵?……探偵っぽい彼は、私が一度間違えてコーヒーを提供してしまった、被害者の一つ手前のテーブルに座っていた人だった。
「あらゆる可能性を考慮しなければならないものの……
今のところ、この事件に関わっていそうなのは、この話に出てきた者たちだな。」
そう言ってその探偵(仮)は、私たちを見回して、名を名乗るように言ってきた。
いきなり聞かれて戸惑いながらも、名前を教える私たち。
彼はみんなの名前を聞いて、改めて頷いた。
「──ふむ。分かった。
被害者の名前は、【アレン】。
アレン殿殺害の容疑者候補となるのは……
注文を取った【男性ウェイター】。
コーヒーを淹れた【店主】。
アレン殿に一度間違えながらコーヒーを提供した【新人ウェイトレス】。
アレン殿の待ち合わせ相手だった【恋人】。
そして、アレン殿のコーヒーを一度間違えて受け取ってしまっていた僕──……客の【ルイス】という訳だな。」
……………………。
あのー……私たち今、ちゃんと名前言ったんですが……?
ルイスさんは私たちに名前を名乗らせたくせに、それを丸無視してまとめた。
……うん。でも私、理由分かります。見ちゃいました。
私たちが順に名乗っていったとき、店主が名乗ったあたりで、ルイスさんが「うわ名前ややこしっ!一回じゃ覚えらんないわコレ。」みたいな顔してたの。
多分、途中で諦めたんだろうな。名前で人物整理をするの。
…………この人、本当に探偵?
私は徐々にパニック状態から落ち着きを取り戻し……その代わりにじわじわと、ルイスさんへの不信感を抱き始めていた。
探偵気取りの【ルイス】さん。
チョコレートクッキーのような濃い茶色のもさもさとした髪に、赤褐色の色付きレンズ眼鏡でよく見えない目元。色白な肌と細身な感じの身体は、確かに探偵っぽい、インドア頭脳派な雰囲気を醸し出している。
服装は至って普通の軽装。たまたまだろうけど、亡くなったアレンさんと似たような色合いの白い長袖のシャツにオリーブ色のベストを着ていた。
歳は恐らくだけど……雰囲気的に、20歳前後くらい。
私の通っている王立大学院もすぐそこだし。もしかしたら、今18歳の私と同じ、大学院生なのかもしれない。
そんな私とそう変わらないっぽい若者のルイスさんは、私とは違って妙に慣れた感じで堂々と──……ふわっふわな推理ショーを、ここ、喫茶「シャンテ」で開幕した。




