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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第6章 王立ルミナス学院 5年目

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72/75

12. 5年目の終わりに

前回のあらすじ

・学院祭まであと半年

・動き出す悪意

馬車の窓の外には、白い雪が静かに降り積もっていた。


王都を抜け、広がる田園は一面の銀世界。

遠くの森も、屋根も、すべてが柔らかな白に包まれている。


クラリスは、窓辺に手を添えながら、その景色をじっと見つめていた。

銀髪が淡い光を受けて揺れ、吐息がわずかに白く曇る。


隣では、セレナがマントの裾を整えながら、少しだけ頬を赤らめていた。

「……雪、きれいだね」


その声は、どこか弾んでいる。

クラリスは、微笑みを浮かべて頷いた。

「ええ、久しぶりに見るわね」


けれど、その胸の奥では、別の感情が静かに渦を巻いていた。

(セレナ……再測定で95。父様は、きっと喜ぶ。……でも、私の立場は?)

セレナは、窓の外に視線を向けたまま、ぽつりと呟く。

「学院祭までに、もっと頑張らなきゃ。……姉様もそう思う?」


クラリスは、一瞬だけ言葉を探し、静かに答えた。

「……そうね。私たちにできることを、精一杯やりましょう」

その声は穏やかだったが、胸の奥で小さな痛みが広がっていた。


雪が降り続ける中、馬車の車輪が静かに音を立て、二人を故郷へと運んでいく。


*


暖炉の炎が、広間に柔らかな光を落としていた。

窓の外では雪が静かに降り続け、白い庭園が淡く輝いている。


長い食卓には、銀の食器と温かな料理が並び、家族が久しぶりに揃っていた。

クラリスは、セレナの隣に座り、静かにスープを口に運ぶ。


その時、父の低い声が響いた。

「セレナ、よくやったな」


視線はまっすぐ妹に向けられている。

「95とは見事だ。これでヴェルディア家の未来は安泰だ」


セレナは、少し頬を赤らめながら微笑んだ。

「……ありがとうございます、父様」


クラリスは、笑顔を作りながらも、胸の奥で冷たい影を感じていた。

(やっぱり……父様の期待は、もう私じゃない)


父は続ける。

「クラリスもよくやっている。だが――」

その言葉は、形式的で、どこか遠い。


クラリスは、静かに頷いた。

「はい、父様」


声は穏やかだったが、心の奥で小さな痛みが広がっていく。


暖炉の炎が揺れ、雪の降る音が遠くで響いていた。

その温かな空気の中で、クラリスはひとり、冷たい孤独を抱えていた。


*


食後、広間の喧騒が静まり、クラリスは母と二人きりになった。

暖炉の炎がゆらめき、窓の外では雪がしんしんと降り続けている。


その静けさが、逆に胸の奥をざわつかせた。

クラリスは、グラスを指でなぞる母の仕草を見つめながら、静かに口を開いた。

「……母様、英雄レイモンド・カスティールについて、何か知っている?」


その瞬間、母の指がぴたりと止まった。


わずかに視線を逸らし、グラスの中の赤い液体を見つめる。

「……昔の話よ。もう誰も覚えていないわ」

声は穏やかだったが、どこか硬い響きを帯びていた。


クラリスは、胸の奥で小さな違和感を覚える。

(母様……なぜそんな顔をするの?)

「でも、母様は戦争の頃、王都にいたでしょう?何か聞いたことは?」


クラリスの問いに、母は一瞬だけ微笑んだ。

だが、その笑みはどこか罰が悪そうで、すぐに消えた。

「……英雄は、国を救った。それだけよ。詳しいことは、私も知らないわ」


クラリスは、視線を母の瞳に重ねる。

その奥に、言葉にできない影が揺れているのを感じた。


(何か知ってる……でも、言わない)

暖炉の炎が、二人の沈黙を淡く照らしていた。

雪の降る音が、遠くで静かに響いている。


*


夜の静寂が、屋敷を包んでいた。

窓の外では、雪がしんしんと降り続け、白い庭園が月明かりに淡く輝いている。


暖炉の炎が、部屋の奥で揺れ、壁に長い影を落としていた。

クラリスは、窓辺に立ち、冷たいガラスに指先を添えた。


その瞳は、遠くの雪景色を映しながら、深い思索に沈んでいる。

(……父様の視線は、もうセレナに向いている。それは当然のこと――95という数字は、制度において絶対的な価値を持つ。でも……私は、ただ数字で測られる存在じゃない)


懐中時計を開き、秒針の音に耳を澄ませる。

その規則正しい響きが、乱れそうになる思考を静かに整えていく。


(英雄、魔法、代償……そして制度。何も分からない。けれど――必ず突き止める)

クラリスは、ゆっくりと目を閉じ、深く息を吸い込んだ。


胸の奥で、静かな炎が燃えている。

それは、孤独の中で生まれた決意の光。

(学院祭まで、あと少し。装置の秘密を知る――そのために、私は動く)


窓の外では、雪が静かに降り続けていた。

その白さは、まるで世界のすべてを覆い隠すかのように――


けれど、クラリスの瞳には、確かな未来への光が宿っていた。

読んでくださりありがとうございます。


もし続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります!


第7章第1話は年明けの1/5(月)6時に更新予定です。

少し期間が空いてしまいますが、よろしくお願いいたします。


また、この小説はカクヨム、アルファポリスでも投稿しています。

そちらでも見ていただけると投稿の励みになります。

どうぞよろしくお願いします。

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