11. 残り半年
前回のあらすじ
・全然進捗がありません
秋の光が斜めに差し込んでいた。
円形の会議卓の上には、学院祭に関する資料が整然と並ぶ。
窓辺には学院の紋章を刻んだ旗が静かに揺れている。
外では、色づき始めた木々が風にそよぎ、遠くで鐘の音が響いていた。
クラリスは、副会長として定位置に座り、銀髪を整えながら資料に目を落とす。
(学院祭……今回は、ただの行事じゃない。王都中の視線が集まる場になる)
胸の奥で、静かな決意が燃えていた。
「――学院祭の進捗を確認する」
レオニスの声が、張り詰めた空気を切り裂いた。
白金の髪が秋の光を受けて淡く輝き、その瞳には冷徹な光が宿っている。
「模擬戦の準備は?」
「問題ない。騎士団との調整も完了している」
ゼノが短く答える。腕を組んだ姿は、いつも通り無駄がない。
「文化行事は?」
「演出と広報は私に任せて。学院祭は“華”がなきゃね」
ミレーユが涼しい笑みを浮かべ、唇に指を添える。
その声には、どこか意味深な響きがあった。
「制度関連の広報と測定公開イベントは?」
カイが資料をめくりながら答える。
「測定装置は王宮から搬入予定。公開測定は学院祭の目玉になるだろう」
クラリスは、その言葉にわずかに視線を落とした。
(測定装置……学院祭なら、近くで見られる。装置の秘密を探るチャンス)
胸の奥で、小さな炎が静かに灯る。
「異論はないな?」
レオニスの視線が円卓を一巡する。
誰も言葉を発しない。
「では、各自準備を進めろ」
その声で、会議は締めくくられた。
クラリスは、資料を片付けながら深く息を吐いた。
(学院祭まであと半年――必ず、装置の謎を掴む)
その時――
「クラリス様!」
慌てた声が、生徒会室の静寂を破った。
扉の前に立っていたのは、ロジーナだった。
栗色の髪を揺らし、息を切らしながら資料の束を抱えている。
「これを……見てください」
クラリスは、差し出された紙に目を落とした。
そこには、黒い鋭い筆致でこう記されていた。
『UNLUX』
『運命に縛られない、自由を』
クラリスの胸に、冷たいものが走る。
「……学院内で、これが?」
ロジーナは、緊張した声で答える。
「はい。掲示板に貼られていました。誰が貼ったのかは分かりません」
その瞬間、レオニスが資料を閉じ、冷たい声を発した。
「学院内にまで入り込んだか……騎士団に報告する必要があるな」
室内に、重い沈黙が落ちる。
クラリスは、張り紙を握りしめながら、胸の奥で呟いた。
(制度を否定する声が、こんな形で広がっているなんて……)
窓の外では、秋風が学院の旗を揺らしていた。
その揺れは、嵐の前触れのように、不穏な影を落としていた。
*
王宮の奥、厚手のカーテンに囲まれた重厚な部屋。
燭台の炎がわずかに揺れ、赤いワインが血のようにグラスの中で光っている。
その空気は、甘やかでありながら、氷の刃のように冷たかった。
エレオノーラ・グランフェルドは、金糸の刺繍が施された椅子に腰掛け、指先でグラスをゆっくりと回していた。
その瞳は、遠く王立ルミナス学院の塔を見下ろすように、冷たく光っている。
「――学院祭は、制度の信頼を示す場になるはずよ」
甘やかな声が、静寂を切り裂いた。
「クラリスには、象徴としての役目を果たしてもらうわ。……ただし、私たちの望む形で」
宰相ヴィクトル・ハインツが、無表情のまま資料を閉じる。
「計画通り、測定装置への細工は可能です。数字を揺らがせ、象徴としての信頼を失墜させます」
その声は、冷徹な鋼の響きを帯びていた。
エレオノーラは、わずかに微笑む。
「ええ。でも、それだけじゃない」
彼女の声が、さらに低くなる。
「例の件――学院祭までに終わらせなさい。そのすべての責任はクラリスにあると、世間に信じさせるのよ」
その言葉に、部屋の奥で控えていた騎士団長グレイ・ヴァルハルトが、無言で膝をついた。
燭台の炎が、その影を長く伸ばす。
「命令とあらば、内密に処理します」
その声には、感情の欠片もなかった。
エレオノーラは、グラスを机に置き、ゆっくりと立ち上がる。
窓辺に歩み寄り、王都の灯りを見下ろした。
「秩序を乱す芽は、必ず摘み取る――静かに、確実に」
燭台の炎が、赤いワインの影を壁に映し出していた。
その影は、王国の未来に忍び寄る闇の形をしていた。
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第6章第12話は12/17(水)6時に更新予定です。
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