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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第6章 王立ルミナス学院 5年目

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10. 五里霧中

前回のあらすじ

・UNLUXとは何ぞや

・なんかおるわ

窓の外では、秋の気配を含んだ風がカーテンを揺らしていた。


夏の強い陽射しはもうなく、柔らかな光が石畳を淡く照らしている。

遠くで鐘の音が響き、木々の葉はわずかに色づき始めていた。


セレナは、机の上に置かれた一通の封筒に目を留める。

白い紙に、丁寧な筆跡で自分の名前が記されていた。


「……手紙?」


指先で封筒をそっと撫でると、胸の奥がわずかに高鳴る。

封を切り、中の便箋を広げる。

そこに記された文字を目で追った瞬間、セレナの瞳が大きく見開かれた。


『来年の学院祭までに、学院に復帰する予定です。

まだ本調子ではないけれど、必ず戻ります。

その時、また君と話せることを楽しみにしています。

――ユリウス』


「……ユリウス様が……戻ってくる……!」

その言葉が胸に響いた瞬間、セレナの頬が熱くなる。


指先が震え、便箋をぎゅっと握りしめる。

胸の奥で、喜びが静かに広がっていく。


窓の外では、秋風が木々を揺らし、赤く染まり始めた葉がひらりと舞った。

その景色が、セレナの胸の高鳴りをさらに強くする。


「姉様!」

声に出した途端、足が自然に動いていた。


セレナは、マントの裾を翻し、部屋を飛び出す。

石畳の回廊に、軽やかな足音が響いた。


*


石畳の回廊に、セレナの軽やかな足音が響いていた。

窓の外では、秋風が木々を揺らし、赤く染まり始めた葉がひらりと舞う。


「姉様……!」

セレナは、クラリスの部屋の前で足を止め、扉を軽く叩いた。


――返事はない。


もう一度、少し強めにノックする。

「姉様、いますか?」

静寂だけが返ってきた。


セレナは、扉をそっと開けて中を覗く。

整えられた机、閉じられた懐中時計、そして誰もいない部屋。


「……いないの?」

肩を落とし、セレナは小さく息を吐いた。


胸の奥で、さっきまで弾んでいた喜びが、少しだけしぼんでいく。

(せっかく……一番に伝えたかったのに)


その時――


「セレナ様?」

柔らかな声が背後から響いた。


振り返ると、ロジーナが資料の束を抱えながら立っていた。

栗色の髪が秋の光を受けて淡く輝いている。

「どうなされたんですか?クラリス様をお探しですか?」


セレナは、手にした便箋をぎゅっと握りしめながら答えた。

「……はい。姉様に、これを見せたくて」


ロジーナが首を傾げる。

「それは……?」


セレナは、少し照れながら便箋を差し出した。


ロジーナは丁寧に受け取り、目を通す。

――そして、優しく微笑んだ。

「……ユリウス様からの手紙ですか。『学院祭に合わせて復帰する予定』……良かったですね、セレナ様」


その言葉に、セレナの胸が再び温かくなる。

「はい……本当に、嬉しくて」


ロジーナは、柔らかな笑みを浮かべながら言った。

「クラリス様も、きっと喜ばれますよ。あとで必ず伝えてあげてください」


セレナは、小さく頷いた。

「……はい。姉様に会えたら、すぐに」


二人の間に、秋風がそっと吹き抜ける。

窓の外では、夕陽が石畳を淡く染めていた。


*


王国騎士団の詰所は、重厚な石壁に囲まれ、冷たい空気が漂っていた。

窓から差し込む秋の光が、鎧の金属を淡く照らし、静かな緊張感を醸し出している。


クラリスは、深紅のマントを纏ったレイナ副団長の前に立っていた。

その瞳には、学院での穏やかな表情とは違う、鋭い光が宿っている。


「――王都を散策した際に、気になるものを見ました」

クラリスの声は、静かでありながら、わずかな緊張を含んでいた。


レイナは、視線をクラリスに向ける。

「気になるもの?」


「はい。『UNLUX』という名前の張り紙です。反制度を掲げる団体のようでした」


レイナは、わずかに眉を動かし、低く答える。

「……確かに最近、名前は耳にする。だが、今のところ危険はない。休日に反制度のデモを行う程度だ。騎士団としても、監視はしている」


クラリスは、静かに頷いた。

「そうですか……では、王都の治安悪化の噂は?」


レイナは、資料を閉じながら淡々と答える。

「地方から出てきた高運者の一部が、横柄な態度でトラブルを起こしている。それが噂の原因だろう。制度の影響で、数字に慢心する者が増えているのは事実だ」


クラリスの胸に、冷たいものが広がる。

(制度の影響……やっぱり、こういう形で歪みが出ている)


「……もう一つ、気になることがあります」

クラリスは、声を落とし、視線をレイナに向けた。

「学院へ戻る途中、異様な気配を感じました。まるで、獣のような……」


レイナの瞳がわずかに鋭さを増す。

「獣?王都で?」


クラリスは、静かに頷いた。

「はい。姿は見えませんでしたが、確かに気配がありました」


レイナは、しばらく沈黙した後、低く答える。

「……あの森では、そんなものに出くわしたことはない。分からないな」


そして、少し考え込んだ後、提案する。

「以前話を聞きに行った剣士に、もう一度聞いてみたらどうだ?」


クラリスは、視線を落とし、わずかに唇を噛む。

「あれから何も進展がない状態で……行っても意味があるのかな」


レイナは、クラリスの肩に手を置き、真剣な眼差しで言った。

「何かあれば、必ず知らせなさい。あなたの直感は、無視できない」


クラリスは、静かに頷いた。

「……分かりました」

詰所を後にするクラリスの背に、秋風がそっと吹き抜ける。

窓の外では、夕陽が王都の塔を赤く染めていた。

読んでくださりありがとうございます。


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