10. 五里霧中
前回のあらすじ
・UNLUXとは何ぞや
・なんかおるわ
窓の外では、秋の気配を含んだ風がカーテンを揺らしていた。
夏の強い陽射しはもうなく、柔らかな光が石畳を淡く照らしている。
遠くで鐘の音が響き、木々の葉はわずかに色づき始めていた。
セレナは、机の上に置かれた一通の封筒に目を留める。
白い紙に、丁寧な筆跡で自分の名前が記されていた。
「……手紙?」
指先で封筒をそっと撫でると、胸の奥がわずかに高鳴る。
封を切り、中の便箋を広げる。
そこに記された文字を目で追った瞬間、セレナの瞳が大きく見開かれた。
『来年の学院祭までに、学院に復帰する予定です。
まだ本調子ではないけれど、必ず戻ります。
その時、また君と話せることを楽しみにしています。
――ユリウス』
「……ユリウス様が……戻ってくる……!」
その言葉が胸に響いた瞬間、セレナの頬が熱くなる。
指先が震え、便箋をぎゅっと握りしめる。
胸の奥で、喜びが静かに広がっていく。
窓の外では、秋風が木々を揺らし、赤く染まり始めた葉がひらりと舞った。
その景色が、セレナの胸の高鳴りをさらに強くする。
「姉様!」
声に出した途端、足が自然に動いていた。
セレナは、マントの裾を翻し、部屋を飛び出す。
石畳の回廊に、軽やかな足音が響いた。
*
石畳の回廊に、セレナの軽やかな足音が響いていた。
窓の外では、秋風が木々を揺らし、赤く染まり始めた葉がひらりと舞う。
「姉様……!」
セレナは、クラリスの部屋の前で足を止め、扉を軽く叩いた。
――返事はない。
もう一度、少し強めにノックする。
「姉様、いますか?」
静寂だけが返ってきた。
セレナは、扉をそっと開けて中を覗く。
整えられた机、閉じられた懐中時計、そして誰もいない部屋。
「……いないの?」
肩を落とし、セレナは小さく息を吐いた。
胸の奥で、さっきまで弾んでいた喜びが、少しだけしぼんでいく。
(せっかく……一番に伝えたかったのに)
その時――
「セレナ様?」
柔らかな声が背後から響いた。
振り返ると、ロジーナが資料の束を抱えながら立っていた。
栗色の髪が秋の光を受けて淡く輝いている。
「どうなされたんですか?クラリス様をお探しですか?」
セレナは、手にした便箋をぎゅっと握りしめながら答えた。
「……はい。姉様に、これを見せたくて」
ロジーナが首を傾げる。
「それは……?」
セレナは、少し照れながら便箋を差し出した。
ロジーナは丁寧に受け取り、目を通す。
――そして、優しく微笑んだ。
「……ユリウス様からの手紙ですか。『学院祭に合わせて復帰する予定』……良かったですね、セレナ様」
その言葉に、セレナの胸が再び温かくなる。
「はい……本当に、嬉しくて」
ロジーナは、柔らかな笑みを浮かべながら言った。
「クラリス様も、きっと喜ばれますよ。あとで必ず伝えてあげてください」
セレナは、小さく頷いた。
「……はい。姉様に会えたら、すぐに」
二人の間に、秋風がそっと吹き抜ける。
窓の外では、夕陽が石畳を淡く染めていた。
*
王国騎士団の詰所は、重厚な石壁に囲まれ、冷たい空気が漂っていた。
窓から差し込む秋の光が、鎧の金属を淡く照らし、静かな緊張感を醸し出している。
クラリスは、深紅のマントを纏ったレイナ副団長の前に立っていた。
その瞳には、学院での穏やかな表情とは違う、鋭い光が宿っている。
「――王都を散策した際に、気になるものを見ました」
クラリスの声は、静かでありながら、わずかな緊張を含んでいた。
レイナは、視線をクラリスに向ける。
「気になるもの?」
「はい。『UNLUX』という名前の張り紙です。反制度を掲げる団体のようでした」
レイナは、わずかに眉を動かし、低く答える。
「……確かに最近、名前は耳にする。だが、今のところ危険はない。休日に反制度のデモを行う程度だ。騎士団としても、監視はしている」
クラリスは、静かに頷いた。
「そうですか……では、王都の治安悪化の噂は?」
レイナは、資料を閉じながら淡々と答える。
「地方から出てきた高運者の一部が、横柄な態度でトラブルを起こしている。それが噂の原因だろう。制度の影響で、数字に慢心する者が増えているのは事実だ」
クラリスの胸に、冷たいものが広がる。
(制度の影響……やっぱり、こういう形で歪みが出ている)
「……もう一つ、気になることがあります」
クラリスは、声を落とし、視線をレイナに向けた。
「学院へ戻る途中、異様な気配を感じました。まるで、獣のような……」
レイナの瞳がわずかに鋭さを増す。
「獣?王都で?」
クラリスは、静かに頷いた。
「はい。姿は見えませんでしたが、確かに気配がありました」
レイナは、しばらく沈黙した後、低く答える。
「……あの森では、そんなものに出くわしたことはない。分からないな」
そして、少し考え込んだ後、提案する。
「以前話を聞きに行った剣士に、もう一度聞いてみたらどうだ?」
クラリスは、視線を落とし、わずかに唇を噛む。
「あれから何も進展がない状態で……行っても意味があるのかな」
レイナは、クラリスの肩に手を置き、真剣な眼差しで言った。
「何かあれば、必ず知らせなさい。あなたの直感は、無視できない」
クラリスは、静かに頷いた。
「……分かりました」
詰所を後にするクラリスの背に、秋風がそっと吹き抜ける。
窓の外では、夕陽が王都の塔を赤く染めていた。
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