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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第2章 王立ルミナス学院
7/11

7. 学院生活の始まり

前回のあらすじ

・婚約者になるらしい。

・母に相談

・クラリス決意

・そして入学へ

3年後、王立ルミナス学院 入学式当日


朝の空気は澄んでいたが、クラリスの胸は不安に満ちていた。


屋敷の玄関前には、学院行きの馬車が静かに待機していた。

銀の装飾が施された車体は、王族推薦の特待生にふさわしい格式を備えていたが、

クラリスにはそれがあまり気に入っていない。


「制服、乱れていないか?」

父ヴァルターの声は、いつも通り冷たく、正確だった。


クラリスは頷き、胸元のリボンを指先で整えた。

鏡の中の自分は、完璧な姿勢、整った髪、そして“第一王子の婚約者”としての顔をしていた。


「今日から、お前は王家の名にふさわしい振る舞いを求められる。学院は遊び場ではない。気を抜かないように。」


クラリスは返事をせず、代わりに軽くお辞儀をした。

そして視線を玄関の奥に向けた。そこには、母リヴィアが静かに立っていた。


「クラリス、頑張ってね。でも無理しちゃだめよ。」

その言葉は、あの日の庭での会話の続きのようだった。

クラリスは小さく頷いた。母の言葉が、何よりも嬉しかった。


妹セレナは玄関の階段に座っていた。まだ9歳。来年には自分も学院に入ると意気込んでいるらしい。

その瞳は、姉を見つめながらも、同時に姉ではない何かを見ているようだった。


「行ってらっしゃい、クラリス姉様。ちょっと寂しいわ。」

その声は優しかったが、どこか距離があった。


クラリスは微笑み返した。

「あなたも来年から来るのでしょう?その時は……私が案内してあげる。」

セレナは頷いたが、目は笑っていなかった。


クラリスは馬車に乗り込んだ。扉が閉まり、屋敷が遠ざかっていく。

窓の外に広がる王都の景色は、昨日までとは違って見えた。

馬車は学院へ向かって静かに走り出した。


*

馬車がゆっくりと止まった。


窓の外には、白い石造りの門と、金の装飾が施された校章――双頭の獅子と星の紋章が掲げられていた。


王立ルミナス学院。


王族、貴族、そして高運者のみが通う、選ばれた者の学び舎。


扉が開くと、春の風がクラリスの髪を揺らした。

彼女は深呼吸をひとつして、馬車から降り立った。


「クラリス・ヴェルディア様ですね。お待ちしておりました。」


出迎えたのは、とても気品のある老婦人。

彼は丁寧に一礼しながら、クラリスの制服の襟元をさりげなく確認した。

「王家より推薦を頂いた特待生として、あなたにはとても期待しております。」


クラリスは微笑み返した。

けれど、その言葉の重さは、彼女の小さな肩にずしりとのしかかっていた。


校舎へと続く石畳の道を歩く間、周囲の視線が彼女に集まっていた。

新入生たち、上級生たち、教師たち――誰もが彼女の存在を“数字”で見ていた。

「運命力94の子が来たって、本当だったのね。」

「第一王子の婚約者なんですって……まだ10歳なのに。」

「レオニス様も入学されるんでしょ?どんな方なのかしら。」

囁き声が風に乗って届く。


クラリスは顔を上げ、背筋を伸ばした。

講堂の前には、白髪の男性が立っており、厳格な表情の中にわずかな興味を浮かべていた。

「王立ルミナス学院 学院長のエルマー・グレイヴだ。クラリス・ヴェルディア嬢。制度の象徴である、あなたの入学を歓迎します。」

クラリスは一礼した。


そして講堂の扉が開き、中に入っていった。


*


講堂の空気は張り詰めていた。


新入生たちは整列し、壇上には学院長エルマー・グレイヴ、副学院長マティルダ・クローネが並んでいた。


クラリスは列の中で静かに立っていた。

制服の襟元を整えながら、周囲の視線を感じていた。


それは好奇でも羨望でもない。

“数字”を見ている目だった。


学院長エルマーが一歩前に出ると、講堂が静まり返った。


「王立ルミナス学院は、この王国の未来を背負う運命力に選ばれた者たちの学び舎です。」

彼の声は穏やかで、しかし芯のある響きを持っていた。

「だが、それだけがすべてではない。

あくまでも、数字はあなたの一部なのです。

この学院で、あなたたち自身が何者であるかを見つけなさい。

あなた方のさらなる成長を――私は願っています。」


クラリスはその言葉に、思わず目を上げた。

それは、父や王族からは決して聞けなかった言葉だった。


続いて、副学院長マティルダが前に出る。

彼女の声は冷たく、正確だった。

「運命力は、秩序の礎です。

皆さんには、数字にふさわしい振る舞いを求められます。

逸脱は許されません。誇りを持って、制度の模範となってください。」


そして、次に壇上の中央に立ったのは、第一王子レオニス。

彼は完璧な姿勢で一礼し、講堂を見渡した。


「新入生を代表して、このような場を用意していただいたことに、感謝の言葉を述べさせていただきます。」

その声は澄んでいて、よく通った。

だが、クラリスにはその完璧さが、どこか遠く感じられた。


「我々新入生は、運命力によって選ばれました。

それは誇りであり、試練でもあります。

この学院での学びが、王国の未来を形作る礎となれることを、私は信じています。」


一瞬、彼の視線がクラリスに向けられた。

だが、それは彼女自身ではなく、“制度の象徴”を見ているようだった。


「どうか、数字にふさわしい者であってください。」

その言葉に、講堂は再び拍手に包まれた。


*


式が終わり、クラリスは講堂を出る。

廊下に並ぶ新入生たちの間を通ると、囁きが風のように流れてきた。


「王子の婚約者って、あの子?」

「運命力94って、本物なのかな……」

「どうだか。入学前の測定は免除されてるんでしょ?」

「そうそう。どうやら王族からの推薦だから、わざわざ測る必要ないってことになったんだって」


クラリスは顔を上げ、背筋を伸ばした。

彼女はただ“見られている”のではない。

“測られている”のだ。

それは好奇というよりは、疑惑の目に近い。


学院の空気は、華やかで冷たい。

そして、彼女の新しい日々は、今、静かに始まった。



読んでくださりありがとうございます。

第8話は9/17(水)6時に更新予定です。


また、この小説はカクヨム、アルファポリスでも投稿しています。

そちらでも見ていただけると投稿の励みになります。

どうぞよろしくお願いします。

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