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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第6章 王立ルミナス学院 5年目

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9. 反制度組織『UNLUX』

前回のあらすじ

・来年学院祭らしい

・装置について調べるチャンス

・なんか悪い噂があるらしい

王都の街並みは、夏の陽射しに包まれていた。


白い石畳が光を反射し、遠くで鐘の音が静かに響く。

市場では人々の声が飛び交い、香辛料や果物の匂いが風に乗って流れてくる。


クラリスは、学院の門を抜けながら深く息を吸い込んだ。

(……久しぶりの王都。治安が悪化しているって噂、本当なのかしら)


隣には、冷静な表情で歩くカイと、腕を組んで退屈そうにしているルーク。

「で、なんで俺たちが付き合わされてるんだ?」


ルークがぼやくと、カイが淡々と答える。

「学院祭の準備のためにも、王都の空気を知っておく必要がある。合理的だ」


そのやり取りに、クラリスは小さく笑みを浮かべた。

「二人とも、ありがとう。すぐ終わるから」


その瞬間――背後から軽やかな声が響いた。

「ふふ、面白そうなことが起きそうだから、私もついてきちゃった♪」


振り返ると、栗色の髪を揺らしながらミレーユが立っていた。

涼しい笑みを浮かべ、まるで散歩にでも来たかのような軽やかさ。


「ミレーユ……どうして?」

クラリスが問いかけると、彼女は肩をすくめて答える。

「だって、あなたが行くのよ?退屈な学院より、ずっと面白そうじゃない」


ルークが呆れたように鼻を鳴らす。

「お前、ほんと自由だな」


ミレーユは、楽しげに笑いながらクラリスの隣に並んだ。

「さあ、案内してちょうだい。王都の“今”を見に行きましょう」


クラリスは、胸の奥にわずかなざわめきを覚えながら、視線を前に向けた。

(火のないところに煙は立たない――何かあるはず)


そして、4人は王都の賑わう通りへと歩みを進めた。


*


王都の通りを歩いていたクラリスは、ふと足を止めた。


視線の先――石壁に貼られた一枚の張り紙が、夏の光を受けて揺れている。

大きく書かれた文字は、黒く鋭い筆致でこう記されていた。


『UNLUX』

『運命に頼らない。自由な社会を目指す』


クラリスは、無意識に近づき、指先で紙の端をなぞった。

(……運命に頼らない?自由な社会?)


その言葉は、かつての自分なら胸を打っただろう。

だが――今は違う。

(昔なら、何も考えずに賛同していたかもしれない。でも……今は冷静に判断できる)


「なにそれ、面白いじゃない」

背後から軽やかな声が響く。ミレーユだ。


彼女はクラリスの肩越しに張り紙を覗き込み、唇に笑みを浮かべる。

「なんかクラリスが好きそうな組織ね。もしかして、あなたに関係してるんじゃない?」


クラリスは、即座に首を振った。

「無関係よ」

声は落ち着いていたが、胸の奥で小さなざわめきが広がる。


ルークが、腕を組んで張り紙を見上げる。

「UNLUX……なんだこれ?なんかの宣伝か?怪しいな」


クラリスは、視線を張り紙に戻しながら呟いた。

「……なんか危うい気がする」


カイが、冷静な声で情報を補足する。

「最近、急速に勢力を伸ばしている反制度団体らしい。創設者やメンバーは不明。王都でも噂になっている」


ルークが鼻を鳴らす。

「なるほどな。治安悪化の噂、これが原因かもな。でも騎士団が何とかするだろ」


クラリスは、張り紙から視線を外し、胸の奥で小さく息を吐いた。

(……制度を否定する声が、こんな形で広がっているなんて)


*


夕暮れ。


王都の街並みに淡い光を落としていた。

市場の喧騒も少しずつ静まり、石畳に長い影が伸びていく。


クラリスは、学院へ戻る道を歩きながら、ふと問いかけた。

「……今日見た中で、何か気になることはあった?」


ミレーユは、肩をすくめて笑う。

「特にはないわね。何も変わらないわ。張り紙以外は、退屈なほど普通だったわ」


ルークも、腕を組んだまま鼻を鳴らす。

「俺もだな。騎士団が見回ってるし、変な感じはしなかった」


クラリスは、二人の言葉に小さく頷き、視線をカイに向ける。

「カイは?」


カイは、少しだけ歩みを緩め、静かな声で答えた。

「……雰囲気が違った」


クラリスは眉をひそめる。

「雰囲気?」

「前はもっと活気があった。それでいて、秩序も感じられた。王都らしい気品があったんだ」


カイの瞳が、遠くの街灯を映す。

「でも今は……そうだな、言葉を選ばずに言うと、品がない。そんな印象を受けた」


クラリスは、胸の奥に冷たいものが広がるのを感じた。

(……制度への不満が、こんな形で表れているの?)


その時――


「……待て」

ルークが突然立ち止まった。


クラリスは驚いて振り返る。

「ルーク?」


周囲を見渡すと、異様な静けさが広がっていた。

路地裏でもないのに、人影が消えている。

さっきまで賑わっていた通りが、まるで人払いされたかのように――音がない。


クラリスの心臓が、強く脈打った。

「……何、この感じ」


ルークは低く呟く。

「何だこの気配……王都で感じていいものじゃない」


彼は、剣の柄に手をかけながら、仲間たちに視線を送る。

「合図したら学院まで走るぞ。……3、2、1!」


その瞬間、4人は一斉に駆け出した。

石畳を蹴る足音が、静寂を切り裂く。


クラリスも走りながら、背後に漂う異様な気配を感じ取った。

(……何かが、追ってきている?)


胸の奥で、冷たい恐怖が膨らむ。

だが、振り返る余裕はない。


ただ――走る。

学院まで、わき目も振らずに。


*


4人は、息を切らしながら学院の門へと駆け込む。

胸の奥で脈打つ鼓動が、耳にまで響いてくる。


クラリスは、門をくぐった瞬間、ようやく足を止めた。

冷たい風が頬を撫で、汗に濡れた髪を揺らす。

「……はぁ、はぁ……何だったの、今の……」


ミレーユは、肩で息をしながらも、まだ笑みを崩さない。

「まるで追いかけられてるみたいだったわね……でも、何も見えなかった」


ルークは、剣の柄に手をかけたまま、鋭い視線を王都の方へ向ける。

「いや……何かいた。気配だけじゃない。あれは――獣だ」


クラリスの胸に、冷たいものが走る。

(獣……?まさか……)


彼女は、ゆっくりと振り返った。


学院の門の向こう、遠くに霞む王都の影。

その暗がりの中――一瞬だけ、何かが動いた。


街灯の光を反射する、異様に光る瞳。

そして、闇に溶ける黒い影。

その姿は、あの森で見た獣と――酷似していた。


クラリスは、息を呑む。

(……どうして、王都に?)


だが、次の瞬間には、その影は消えていた。

まるで、最初から何もなかったかのように。

読んでくださりありがとうございます。


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