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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第6章 王立ルミナス学院 5年目

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7. 魔法の代償

前回のあらすじ

・この国の始まり

・原初の魔女と選ばれた6人

・英雄は何をしたのか

クラリスは、剣士の言葉を胸の奥で反芻していた。

(代償?どんな魔法を使ったの?……もし仮説が正しいなら、英雄は魔法を使えたことになる。それだと、魔女に魔法を返したという歴史と矛盾するじゃない……)


クラリスは、眉をひそめながら問いを投げる。

「……あなたの言ったことが正しいなら、英雄は魔法を使えたことになるわ。それだと、魔女に魔法を返したという歴史と矛盾するじゃない?」


剣士は、静かに頷いた。

「確かにそうだ。だが、こうは考えられないか?魔女は今も存在していて、英雄は魔法を授かったのではないか?――歴史に出てくる、かつてこの国を作った6人のように」


クラリスは息を呑む。

「……それなら、あり得ない話じゃないわ」

胸の奥で思考が渦を巻く。

(英雄について聞きに来たはずなのに、魔法、魔女、代償――考えることが多すぎる。こんなこと、他の人に言えるわけがない……)


クラリスは、視線を剣士に向けた。

「魔女のことは正直、今はこれ以上何も知りようがない。魔法の代償も。それに英雄についても、あなたはこれ以上知らないのよね?」


剣士は、短く頷いた。

「ああ、そうだ。申し訳ない」


クラリスは、深く息を吸い込み、最後の疑問を口にした。

「じゃあ、最後に――あなたは言ったわ。運命力は魔女の祝福の影響を示す指標じゃないかって。それなら……運命力が0になったら、人はどうなるの?」


剣士の瞳がわずかに揺れた。

「この国で生きている以上、0にはならないはずだ。この国にいる以上、魔女の祝福の影響は誰もが受けているはずだ。だが、仮に0になるなら――その者の命運が尽きたか、それか、その者が魔女自身だということだ」


クラリスは驚きに目を見開いた。

「命運が尽きる…つまり、死ぬ可能性があるということは理解できるけど……なぜ魔女だということになるの?」


剣士は、低く答える。

「魔女の祝福を、魔女自身が使うと思うか?唯一魔法を使える存在だぞ」


クラリスは、息を呑み、ゆっくりと頷いた。

「……確かに、何でもできる魔女を脅かす存在なんて考えられないわ。」


剣士は、静かに問いかける。

「これで君が知りたいことは知れただろうか?」


クラリスは、わずかに笑みを浮かべた。

「ええ、何も分からなかったところから、さらに分からないことが増えたわ。でも――何が分からないかが明確になった。何を調べなきゃいけないかも。」


剣士は、深く頷いた。

「そうか。それは何よりだ。」


彼は席を立ち、クラリスも立ち上がる。

剣士は、屋敷の奥から森の方を指し示した。

「このまままっすぐ行けば、森の入り口だ。気を付けて帰りなさい。」


クラリスは、静かにお辞儀をし、屋敷を離れる。

湿った土を踏みしめながら、言われた通り森の入り口を目指す。


胸の奥で、決意が静かに燃えていた。

(魔女、魔法、代償、そして英雄――何も分からない。でも、必ず突き止める)

春風が、彼女の銀髪を揺らし、森の影がゆっくりと遠ざかっていった。


*


クラリスの姿が森の奥に消えた後、屋敷に静寂が戻った。


剣士は、深く息を吐き、独り言をつぶやく。

「ああ……ようやく役目を終えた。歴史は紡がれた。――隊長。あなたから託されたこの秘密は、正しく次の代へ引き継がれました。これでようやく……」

その言葉を最後まで言い切る前に、剣士は異様な気配を感じた。


ふと周囲を見渡すと、屋敷を取り囲むように獰猛化した獣たちが姿を現していた。

その数は、あの日クラリスが遭遇したものを遥かに超えている。


まるで、誰かに命令されたかのように統率された動き。

そして――その群れを率いているかのように、黒い外套をまとった人影が、静かに近づいてくる。


剣士は、剣の柄に手をかけながら低く呟いた。

「……役目は終えた。このまま死を受け入れる覚悟はある。だが――確かめなければならないことがある」


彼の視線は、黒い外套の人物に向けられる。

「あなたは……誰だ?」


一瞬の沈黙。だが、次の言葉は剣士の胸を凍らせた。

「いや……見た目は間違いなく、あの英雄――レイモンド・カスティール。私にこの役目を託した、私の記憶の中にある、あの人そのものだ。だが……」


剣士は、声を震わせながらもう一度問いかける。

「あえて問おう――お前は誰だ!」


黒い外套の人物は、わずかに手を動かした。


その瞬間、低い声が剣士の耳に届く。

――その言葉を聞いた剣士は、驚愕に目を見開いた。

「……そんな、馬鹿な……!」


剣士は即座に攻撃を仕掛けようとした。


だが、時すでに遅し。

おびただしい数の獣が一斉に襲い掛かる。


剣士は必死に剣を振るうが、数の暴力には無意味だった。


(今聞いたことを……あの少女に伝えなければ……)

その思いだけが、意識を繋ぎ止めていた。


だが、もう手足の感覚はなく、視界は暗闇に沈んでいく。

最後に見えたのは――煙のように消える黒い外套の人影と、跡形もなく消えた獣たち。


残されたのは、地面に広がる黒い染みだけだった。


読んでくださりありがとうございます。


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