5. 重大な秘密
前回のあらすじ
・英雄について聞きに来た
・君は英雄の剣
「英雄の剣を…継ぎし者…?」
湿った土の匂いが漂う森の奥で、クラリスは剣を構えたまま立ち尽くしていた。
目の前には、獣を一撃で屠った謎の剣士。
その影は木漏れ日の隙間で揺れ、深い沈黙をまとっている。
鳥の声すら遠ざかり、森は異様な静けさに包まれていた。
剣士が、低く静かな声で口を開く。
「――いや、まずは場所を変えよう」
その声は冷徹でありながら、どこか重い決意を帯びていた。
クラリスは、わずかに眉をひそめる。
「……場所を変える?」
問いかける声は、緊張と警戒を含んでいた。
剣士は、クラリスの視線を受け止めることなく、背を向ける。
「ついてこい」
その言葉だけを残し、森の奥へと歩き出した。
クラリスは、剣を収め、深く息を吐く。
(……危険かもしれない。でも、ここで引き下がるわけにはいかない)
胸の奥で決意を固め、剣士の背を追う。
二人の足音が、湿った土を静かに踏みしめる。
木々の間を抜ける風が、冷たい囁きを運んでくる。
だが――言葉はない。
剣士は終始無言、クラリスも声をかけられないまま、ただ沈黙が二人を包んでいた。
*
やがて、森の奥に古びた屋敷が姿を現す。
苔むした壁、崩れかけた石畳、まるで時が止まったような空気。
クラリスは、胸の奥にざわめきを覚えながら、その扉を見つめた。
(……ここは、一体?)
剣士は、無言のまま屋敷の庭へと進み、古い木製のテーブルを指し示す。
「座れ」
その声は、冷たくも、避けられない力を帯びていた。
クラリスは、静かに頷き、椅子に腰を下ろす。
苔むした石畳と枯れかけた草花が、時の止まった空気を漂わせている。
胸の鼓動が、わずかに速くなる。
(この沈黙の先に、何が待っているの?)
剣士は、対面に座り、深紅のマントを整えると、無言のまま視線を落とした。
その沈黙は、森よりも重く、冷たい。
クラリスは、耐えきれず、口を開いた。
「……ここは、一体?」
声はわずかに震えていたが、瞳には決意が宿っていた。
剣士は、ゆっくりと顔を上げる。
その瞳は、深い影を湛えながらも、どこか遠い記憶を映していた。
「――ここは、かつて英雄と呼ばれた者が暮らしていた場所だ」
クラリスの胸に、鋭いざわめきが走る。
「英雄……」
その言葉を、静かに繰り返す。
「私……その英雄について、知りたくて来ました」
剣士は、しばらくクラリスを見つめ、低く答えた。
「知っていることは、あまりない。だが――他の者よりは、覚えていることが多いはずだ」
クラリスは、眉をひそめる。
「覚えている……?じゃあ、他の人も知っていたけど、今はもう忘れてしまったと?」
声には、戸惑いと焦りが混ざっていた。
剣士は、静かに頷く。
「ああ、おそらくそうだ」
その言葉は、重く、不可解な響きを帯びていた。
クラリスの胸に、冷たい疑問が広がる。
「どういうこと……?なぜ、そんなことが……」
剣士は、視線を庭の奥に向け、低く告げた。
「その疑問を解くには、まず――この世界に関する重大な秘密を知る必要がある」
その声は、まるで封印を解く呪文のように、空気を震わせた。
クラリスは、息を呑む。
「重大な秘密……?」
剣士は続ける。
「国王なら知っているかもしれない。だが、他は誰一人として知らないだろう」
クラリスの瞳が揺れる。
「なぜ……そんな秘密を、あなたは知っているの?」
剣士は、ゆっくりとクラリスを見つめ、低く答えた。
「――英雄から託されたからだ。その秘密は、あの人の一族に代々伝わるものだった」
クラリスは、言葉を飲み込み、胸の奥で何かが崩れる音を聞いた気がした。
(英雄の一族……代々伝わる秘密……)
「じゃあ、その秘密って……何?」
声は、わずかに震えていた。
剣士は、長い沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
その瞬間、庭の空気が張り詰め、世界の呼吸が止まったかのように感じられた。
「――かつて、この世界には……魔法が存在した」
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