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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第6章 王立ルミナス学院 5年目

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2. 消えた英雄

前回のあらすじ

・サプライズですわ

・言ってくれてもいいじゃない

・一人で調べますわ

重厚な扉に囲まれた生徒会室は、午後の柔らかな光に包まれていた。


窓から差し込む春の陽射しが、机の上の資料を淡く照らし、外では若葉が風に揺れている。


クラリスは、その資料を指先でめくりながら、深く息を吐いた。

「自分で調べるとは言ったものの……、一体どうしたら…」


小さな声が、静かな空気に溶けて消える。

ページをめくる手は、すぐに止まった。


王宮の管理下にある装置。学院には、仕組みも記録も残されていない。

もちろん、いち学生がどうこうできるものではない。


その現実が、胸に重くのしかかる。

焦りが胸を締めつけ、苛立ちが指先に宿る。


(どうしようもないのなら……いつかチャンスは来るかもしれない。その時のために、今できることをする。)


懐中時計を開き、秒針の音に耳を澄ませる。

その規則正しい響きが、乱れそうになる思考を静かに整えていく。


「……先に制度について、調べるかな」


数字の意味、英雄たちの始まり――すべてを知る必要がある。

装置の謎を追う前に、土台を固めなければならない。


クラリスは、机の上の資料を閉じ、立ち上がった。

窓辺に歩み寄り、春の光に染まる学院の塔を見つめる。


その瞳には、迷いではなく、決意の光が宿っていた。

「図書館に行こう。始まりを知るところから」


マントの裾を整え、重厚な扉に手をかける。

冷たい金属の感触が、彼女の決意をさらに強くした。


扉が静かに開き、クラリスの足音が回廊に響く。


*


学院の回廊は、春の光に包まれていた。


高い窓から差し込む陽射しが、石畳に淡い影を落とし、外ではチューリップが風に揺れている。


クラリスの足音だけが、広い廊下に響いていた。


(制度の始まり……英雄たちの記録……)

心の中で繰り返す言葉が、柔らかな空気に溶けていく。


やがて、重厚な扉の前に立つ。


学院図書館――知識の殿堂。


扉を押し開くと、紙の香りと春の風がふわりと漂ってきた。

高い天井まで届く本棚が並び、陽光が静かに本の背表紙を照らしている。


まるで時間が止まったような静寂。

クラリスは、マントの裾を整え、奥へと歩みを進めた。


指先が古びた革表紙をなぞり、やがて一冊の分厚い本を引き抜く。

机に本を置き、ページをめくる。


紙の匂いと、淡いインクの跡。

クラリスの瞳が、文字を追う。


(……授業で習ったことと、同じ。)


「制度の基盤を築いた英雄」「運命力の概念を確立」――

どれも知っている言葉ばかり。


まるでおとぎ話のように、ずっと同じ言葉が並ぶ。


ページをめくる手が、次第に速くなる。

だが、どこまで読んでも、核心には触れない。


(じゃあなぜ、彼は今、“象徴”ではないのか…)


胸の奥の小さな疑問。

英雄レイモンド――制度を築いた人物なのに、なぜ歴史の表舞台から消えたのか。


クラリスは、深く息を吐いた。

「……これだけじゃ何もわからない」


声は、誰にも届かないほど小さかった。

(もっと深い記録が必要。学院にはないなら――王国騎士団。戦争の記録ならあるいは…)


クラリスの脳裏に、鋭い剣と深紅のマントが浮かぶ。

「……師匠なら、何か知っているかもしれない」


クラリスは、本を閉じ、立ち上がった。

図書館の静寂を背に、重い扉を押し開く。


春風が頬を撫で、決意をさらに強くした。

(師匠に会いに行こう)


*


王都から離れた療養施設。


窓の外には、春の花が咲き始め、庭園に淡い色を添えていた。

暖炉の炎が、柔らかな光を部屋に落とし、静寂の中で時計の音だけが響いている。


ユリウスは、椅子に腰を下ろし、窓の外を見つめていた。

その瞳には、何かを待つような影が宿っている。


ノックの音が、静けさを破った。


「どうぞ」

ユリウスはそう言い、扉の前の人物に中に入るよう促す。


スッと音もなく入ってきたのは、老齢の男性。

「ユリウス様。例の件について、先方から返事がございました」


「向こうはなんていってるの?」


「近いうちに直接会って話したいと…。こちらに来るよう伝えますか?」


「うん。ここなら、大丈夫だと思う。来るように伝えて」


「承知しました。では」

そう言うと、老齢の男性はまたスッと姿を消した。


ユリウスは力を抜くかのように、息を吐き、手元を見つめる。

そこには、学院からの手紙があった。


その手紙を握りしめる指が、わずかに震えている。


「急がないと……手遅れになる前に」

その声は、暖炉の炎にかき消されるほど小さかった

読んでくださりありがとうございます。


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