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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第1部 ■■■■■■■ 第1章 運命
5/11

5. 晩餐会の後に…

前回のあらすじ

・クラリス晩餐会へ

・あなた、レオニスっていうのね!

晩餐会が終わり、王族専用の控室には静寂が戻っていた。

エレオノーラはグラスの縁を指でなぞりながら、ゆっくりと腰を下ろす。

その目は、先ほどの晩餐会の余韻を追っているようで、実際には冷静に“選別”の結果を整理していた。


「94。……なかなかの数字ね。」


彼女の言葉に、宰相ヴィクトルが帳簿を閉じて頷いた。

「試験的な測定とはいえ、これほどの数値であればレオニス王子との婚約者としては申し分ないかと」


エレオノーラは微笑む。

その笑みは、祝福ではなく、計算された冷笑だった。

「問題は“安定”よ。今はまだいい数字。でも子どもは揺らぐ。特に、あの子は……自我が強い。」


ヴィクトルは静かに言葉を継ぐ。

「父親は従順ですが、母親は少々……」

「リヴィアね。あの女は信用できない。危険だわ。」

エレオノーラはグラスを置き、立ち上がる。


窓の外には王都の灯が広がっていた。

その光の下で、数値に選ばれ、数値に捨てられる者たちが生きている。

「クラリスは、今は“可能性”にすぎない。だが、もし数字が揺らげば――」


ヴィクトルが頷く。

「代わりはいくらでもいるかと。」


エレオノーラは窓に背を向け、控室の扉へと歩き出す。

「これから王国は“運”で成り立っていくことになるの。感情も、血筋も、忠誠も関係ない。必要なのは、数字。そして従順さ。」


扉の前で立ち止まり、彼女は最後に言った。

「クラリスがその両方を持っていれば、女王になれるでしょうね。

持っていなければ――それこそ運がなかっただけ。」


*


レオニスは控室の奥にある書架の前で、静かに手袋を外していた。

絹のような礼服の袖口を整えながら、彼は先ほどの少女――クラリス・ヴェルディア――の顔を思い返していた。


「運命力94か。」


数字としては申し分ない。

制度が始まって以来、最も安定した高数値。

王族としては、歓迎すべき“素材おもちゃ”だった。

だが、彼女の目は違った。


あの年齢にしては、あまりに強い。

好奇心でも畏怖でもない。

自分を“見ている”目だった。


「……あれは、従順には育たないかもしれないな。」

レオニスはグラスに口をつけながら、静かに呟いた。


彼は完璧な王子として振る舞うことに慣れていた。

微笑み、言葉を選び、空気を支配する。


だが、クラリスはその空気に飲まれなかった。


「母上は気に入ったようだが……。」

エレオノーラの目は、いつも通り冷静だった。

数字を見て、可能性を計算し、切り捨てる準備をする。

クラリスも、例外ではない。


レオニスは椅子に腰を下ろし、帳簿を開いた。

そこには、クラリスの家系、測定履歴、学院入学予定などが記されている。


「運命力が高い者ほど、崩れる時は早い。」

運命を味方にするか、はたまた翻弄されるか。

クラリスはどちらになるのか――それはまだ分からない。


「もし、妙な真似をするようなら……」

レオニスは帳簿を閉じた。

その手は、冷たく、慎重だった。


「その時は、切り捨てるだけだ。」

完璧な王子の微笑みの裏で、冷静に“選別”を続けていた。


*


夜の帳が降りた王都を、馬車が静かに進んでいた。

クラリスは窓の外に流れる街灯の光をぼんやりと眺めていた。

初めての王宮、初めての晩餐会。

そして、初めて王族と対面した――特に、第一王子レオニス。


彼は完璧だった。

姿勢、言葉遣い、笑顔の角度まで、まるで絵本の中の王子様のようだった。

けれど、クラリスはその完璧さに、どこか冷たさを感じていた。


「……レオニス様、私のこと、見ていたよね?」


ぽつりと呟いた言葉に、父ヴァルターは反応を示さなかった。

腕を組み、無言のまま前を見据えている。

クラリスは父の横顔を盗み見た。そこにあるのは、誇りでも慈しみでもない。

冷たい沈黙だった。


「王族は“運命力”を見ている。人間ではない。」

ようやく発せられた言葉は、感情のない事実の羅列だった。


クラリスは唇を噛んだ。

今日の晩餐会は、祝福の場だと思っていた。


運命力94という数字が、自分を特別な存在にしてくれたと信じていた。

けれど、王妃エレオノーラの微笑みは、冷たく、何かを値踏みするようなものだった。

レオニスの視線も、彼女自身ではなく、その“数字”を見ていたように感じた。


「私……じゃなくても良かったのかな。」


クラリスの声は震えていた。

ヴァルターは目を閉じ、低く言った。


「“運命力”に価値があるのだ。お前自身に、ではない。お前に価値がなければ、それまでだ。」


その言葉は、クラリスの胸に突き刺さった。

彼女はまだ幼い。けれど、その言葉の意味は、痛いほど理解できた。


馬車は静かに進む。

クラリスは窓の外を見つめながら、心の奥で何かが芽生えるのを感じていた。

読んでくださりありがとうございます。

第6話は9/14(日)6時に更新予定です。


また、この小説はカクヨム、アルファポリスでも投稿しています。

そちらでも見ていただけると投稿の励みになります。

どうぞよろしくお願いします。

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