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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第5章 王立ルミナス学院 4年目

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3. 地方視察の準備

前回のあらすじ

・生徒会始動

・セレナが浮いてるらしい

クラリスは、静かな生徒会室で地図を広げていた。

その指先は、王国の地図の上をゆっくりと滑っていた。


「……ここね」

クラリスは、地図の南部を指差した。

「農村地帯。制度の影響が一番分かりやすいと思う。特に、制度に恵まれなかった人たちの日々の生活、暮らしがどう変わったのか、実際に見たいの」


ロジーナは、クラリスの隣で資料を抱えながら頷いた。

「クラリス様、記録係として私も同行させてください。現場の声を、きちんと残したいです」


クラリスは、ロジーナの瞳を見つめ、静かに微笑んだ。

「ありがとう、ロジーナ。あなたがいてくれると心強いわ」


机の上には、候補地のリストが並んでいる。

農村、鉱山町、港町――それぞれに、制度の影響が異なる。


「鉱山町も気になるわね。労働環境がどう変わったのか……悪影響がないといいけど」

クラリスは、指先で北部の鉱山地帯をなぞった。


「港町は、そもそも影響がでているのでしょうか。」

ロジーナは、地図の端にメモを取りながら言った。

「目的は、実際に見て、知ること。そして、人々の声を記録することですね」


クラリスは、懐中時計の蓋をそっと開き、秒針の音に耳を澄ませた。

「数字だけじゃない価値を、見たいの。制度の中で生きる人たちが、何を感じているのか。それを知ることが、私の責務だと思う」


ロジーナは、クラリスの横顔を見つめながら、静かに言った。

「クラリス様は、もう十分“象徴”じゃなく、人の希望になってます」


クラリスは、少しだけ目を伏せてから微笑んだ。

「そうなれたらいいわね……」


そのとき、扉が軽やかに開いた。


「ふふ、面白そうな話をしているじゃない」

ミレーユ・クローディアが、優雅な足取りで入室してきた。


栗色の髪が春の光を受けてきらめいている。

彼女は涼しい笑みを浮かべている。

「地方に行くの?広報効果もあるし、私も協力してあげるわ」


クラリスは、少しだけ眉を動かした。

「これは、遊びに行くんじゃなくて、制度の現実を見るためのものよ」


ミレーユは、肩をすくめて笑った。

「分かってるわ。でも、あなたが行くってことは、どんな場も注目されるのよ。象徴だもの。それを利用しない手はないでしょう?」


クラリスは、地図を見つめながら静かに答えた。

「……注目されるのは構わない。でも、あまり仰々しいものにはしたくない。あくまで、普段の様子が見たいの」


ミレーユは、軽やかに笑いながら椅子に腰を下ろした。

「いいわ。じゃあ、私もその“目的”に乗ってあげる」


春風が窓から吹き込み、地図の端をふわりと揺らした。

その音が、三人の決意を静かに包み込んでいた。


*


ミレーユは、生徒会室を出て、学院の長い回廊を歩いていた。


栗色の髪が夕陽を受けて淡く輝いている。

その足取りは軽やかだった。


その背後から、静かな声が響く。


「ミレーユ」

振り返ると、白金の髪を揺らす少年――レオニス・グランフェルドが立っていた。

その視線は、まっすぐにミレーユを捉えている。


「レオニス様。珍しいわね、こんなところで。どうしたの?」

ミレーユは、涼しい笑みを浮かべながら歩みを止めた。


「クラリスの活動について、聞いてきたんだろう?」

レオニスの声は低く、感情を抑えていた。


「ええ、面白い試みじゃない?広報効果もあるし、制度の印象を良くするチャンスよ。象徴がわざわざ見に来るんですもの。みんな張り切るわ」

ミレーユは、軽い調子で答える。


「制度の印象を良くすることは重要だ。だが、秩序を乱す可能性がある」

レオニスの瞳が、わずかに鋭さを増す。

「クラリスは、制度の象徴だ。その行動が逸脱すれば、制度そのものが揺らぐ」


ミレーユは、肩をすくめて笑った。

「あなたって、本当に真面目ね。でも、クラリスさんはただ見てまわりたいだけよ。普段の生活を。それが、制度を壊すことに繋がるの?」


レオニスは、しばらく黙っていた。

そして、静かに言った。


「……制度は、必ず守らなければならない。それがこの国で暮らすうえで最も大事なことだ」


*


ミレーユの足音が遠ざかる。

回廊に再び静寂が戻った。


レオニスは、窓辺に立ち、夕陽に染まる学院の塔を見上げていた。

白金の髪が淡い光を受けて輝き、その横顔には、冷たい決意が宿っている。


「クラリス……」

低く、誰にも届かない声が、回廊に溶けていく。


「君は危うい。制度の象徴である以上、逸脱は許されない」

レオニスの瞳は、遠くの塔を射抜くように鋭かった。


彼は、懐から小さな銀の通信端末を取り出した。

その表面には、王家の紋章が刻まれている。


指先が、冷たい金属を静かに撫でる。

「……報告する必要があるな」

その声は、淡々としていたが、底には冷徹な響きがあった。


「クラリスの行動は、制度の秩序を揺るがしかねない。母上も動くだろう」


レオニスは、端末を閉じ、マントの裾を翻して歩き出した。

その足音は、静かでありながら、確かな決意を刻んでいた。


夕陽が学院の塔を赤く染める中、彼の影は長く伸び、回廊の奥へと消えていった。


読んでくださりありがとうございます。


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