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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第5章 王立ルミナス学院 4年目

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2. 未来を支えるものとして

前回のあらすじ

・ユリウスの運命力

・新生徒会発足

春先。


窓の外ではチューリップが風に揺れ、石造りの壁に掲げられた学院の紋章が、陽光を受けて静かに輝いている。


円形の会議卓には、新年度から学院の運営を担う生徒会メンバーが揃っていた。

クラリスは、副会長として、資料を手に静かに座っている。

その隣には、会長であるレオニス。完璧な姿勢で、周囲を見渡していた。


「生徒会の最初の定例会を始める」

レオニスの声は、冷静でよく通る。

「ここから3年間は、我々が生徒会として、また王国の未来を支える者として、各自役割を果たしてもらう。以前共有してもらった活動内容を、改めて共有してほしい」


クラリスは、資料に目を落とした。

(制度の象徴としてではなく、学院を支える一人として――)


「訓練の強化が必要だ」

ゼノ・ヴァルハルトが短く言う。

「昨年度の演習事故のようなことを繰り返さないために、警備体制と訓練内容の見直しを進める」


「制度の運用面の見直しも検討したい」

カイ・アストレアが資料をめくりながら言葉を継ぐ。

「数字だけでなく、柔軟な運用が必要となるのではないかと考えている」


「制度の“顔”を作る場が欲しいわ」

ミレーユ・クローディアが涼しい笑みを浮かべながら言う。

「学院祭のような催し物を定期化して、制度の印象を良くする。クラリスさん、あなたの見せ場も作ってあげる」


「より実戦的な模擬戦を大規模でやろうぜ。制度の“強さ”を見せる場になる」

ルーク・ファルマスが腕を組みながら言う。

「俺の見せ場にもなる」


クラリスは、皆の言葉を聞きながら、静かに口を開いた。

「……私は、制度が人々にどう影響しているのかを、改めて実際に見て回りたいと思っています」


その言葉に、会議室の空気がわずかに変わった。

「制度の“顔”としてではなく、一人の人間として知りたい。もちろん政治学科の授業もあるので、休日に回ろうと思っています。でも……私は、やります」


ロジーナ・エルスが、記録用のノートを握りしめながら言った。

「クラリス様、私も記録係として同行したいです。現場の声を、正しく残したい」


「賛成だ」

カイが頷く。

「実際に見てみないと分からないことはある。数字だけでは見えないものがある」


ゼノは無言で頷いた。

「行きたいなら、俺は止めない」


レオニスは、一瞬だけ沈黙した。

そして、静かに言った。

「……君の行動が制度の信頼を損なわないことを願う」


窓の外では、春風がチューリップを優しく揺らしていた。


*


中庭には、春の柔らかな陽光が差し込み、チューリップが風に揺れていた。

石畳の道を歩く生徒たちの笑い声が、遠くから微かに聞こえてくる。


セレナ・ヴェルディアは、学院の隅にあるベンチに腰を下ろしていた。

制服の袖を指先で整えながら、視線は地面に落ちた花びらを追っていた。


(……春なのに、まだ寒い)


彼女の胸には、昨年度の演習で起きた“事故”の記憶が、まだ静かに残っていた。


ユリウスが自分を庇って重傷を負ったこと。

その場で起きた、あまりにも衝撃的な出来事。

そして――それ以来、周囲の視線が、少しずつ変わったこと。


(ユリウス様が怪我をしたのは、私のせいだって……考えている人が、いる)


誰も口には出さない。

けれど、ふとした瞬間に感じる距離感。

時々、周囲の空気が変わる。


自分だけが、そこにいてはいけないような気がしてしまう。


(姉様に……相談しようかな)

クラリスなら、きっと真剣に聞いてくれる。

ロジーナさんも、優しく寄り添ってくれるだろう。


でも――


(姉様たちは、生徒会で忙しい。あまり迷惑かけたくない)

セレナは、制服の裾をぎゅっと握りしめた。


そのときだった。


「ここにいたか」

静かな声が、背後から響いた。


振り返ると、そこには第一王子――レオニス・グランフェルドが立っていた。

春の光を受けて、白金の髪が柔らかく揺れている。


「レオニス様……」

セレナは、少し驚いたように立ち上がる。


「座っていいか?」

レオニスは、ベンチの隣に腰を下ろした。


セレナは、少しだけ戸惑いながらも頷いた。


「最近、元気がないと聞いた」

レオニスの声は、いつもより少しだけ柔らかかった。


「……そんなこと、ないです」

セレナは、目を伏せながら答える。


「君は、去年の演習で我が弟に守られた。弟にとって君を守ったことは、誇りだろう。だが、同時に――君にとっては重荷になる」

レオニスは、遠くの空を見つめながら言った。


セレナは、拳を握りしめた。

「……私、ユリウス様が怪我をしたことで、周りから距離を置かれてる気がして……。でも、誰にも言えなくて……」


レオニスは、静かに頷いた。

「君が悪いわけではない。だが、君がその“重荷”を背負っていることは、理解している」


セレナは、目を見開いた。

「……レオニス様は、私のことを……?」


「君は、強い。だからこそ、誰かに頼ることも必要だ」

レオニスは、セレナの瞳をまっすぐに見つめた。


セレナは、少しだけ微笑んだ。

「ありがとうございます。……少しだけ、楽になりました」


「それでいい」

レオニスは、立ち上がりながら言った。

「また話そう」


セレナは、彼の背中を見送りながら、胸の奥に小さな温もりを感じていた。

(レオニス様……優しい人なのかもしれない)


*


セレナから離れたレオニスは、学院の回廊へと歩きながら、心の中で呟いた。

(少しずつ進めていくとしよう。セレナ・ヴェルディア――君は、計画の鍵になる)


そしてそのまま、春風に紛れるように静かに姿を消していった。

読んでくださりありがとうございます。


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