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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第4章 王立ルミナス学院 3年目

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44/66

13. 3年目の終わりに

前回のあらすじ

・ユリウス復活。セレナも復活

・再測定するらしい

・生徒会の引継ぎ

冬の朝。


教室には、冷たい空気が漂っていた。

窓の外には薄く雪が積もり、遠くの塔の尖端が白く染まっている。


クラリスは、窓際の席に座りながら、懐中時計の蓋をそっと開いた。

秒針の音が、静かに彼女の胸の鼓動と重なっていた。

(もうすぐ再測定……数字が変わったら、私はどうなるのかしら)


そのとき、教室の扉が開き、特別選抜クラスの担任――エリオ・シュタインが入ってきた。

黒衣に金の刺繍が施された制服を纏い、冷静な眼差しを教室に向ける。


「着席」

その一言で、教室のざわめきが静まり返る。


「今日は重要な連絡がある。来年度、君たちは4年生になる。王立ルミナス学院では、4年生から専門学科に分かれて学んでいくことになる」

エリオは、手元の資料を机に置きながら続けた。

「学科は、内政、外交、軍事、学術、騎士団、文化、医療などに分かれている。君たちは特別選抜クラスであり、生徒会にも選ばれているため、原則として内政・外交のいずれかに進むことが推奨されている」


クラリスは、筆記用具を整えながら耳を傾けた。

(剣の道に進みたい気持ちはある。でも、私は“制度の象徴”。自分のやりたいことより、国の顔として、誰かの希望になれる場所に進むべきなのかもしれない)


「選択は来週までに提出すること。なお、再測定の結果も進路選定に影響される。慎重に考えろ」

エリオの声は、いつも通り冷静だったが、その言葉の重みは教室全体に緊張を走らせた。


クラリスは、配られた資料を見つめながら、静かに息を吐いた。

(進路も、数字も――全部が、私の未来を決める)


窓の外では、雪が静かに舞っていた。


*


放課後の学院は、静かだった。


冬の空は早くに暗くなり、窓の外には薄い雪が舞っていた。


クラリスは、寮の個室で机に向かっていた。

資料の上には、今日配られた学科選択の案内書。


その表紙には、王立ルミナス学院の紋章と「専門学科選択案内」と金文字で記されている。


(騎士学科……やっぱり剣の道に進みたい気持ちは、今もある。師匠のように、誰かを守れる剣士になりたい。ゼノのように、迷いなく剣を振るえる人になりたい)


クラリスは、演習で剣を握った日のことを思い出す。


獣の前に立ち、仲間を守るために剣を振るったあの日。

あの瞬間、自分の中に確かに「剣士としての誇り」が芽生えた。


(でも、私は“制度の象徴”。生徒会の一員として、学院の顔として、王国の未来を支える立場にある。剣を振るうよりも、言葉を選び、姿勢を示すことが求められている)


彼女は、資料の「政治学科」の欄に目を通す。

そこには、王国の制度運用、国際関係、儀礼、広報などの内容が並んでいた。


(政治に深く関わることは、私の役割ではないかもしれない。でも、“国の顔”として、誰かの希望になれる場所なら――私が進むべき道は、ここなのかもしれない)


クラリスは、ペンを手に取り、選択用紙の「希望学科」欄に静かに記入した。

「政治学科」


(私は、剣を振るうことはできなくても、言葉と姿勢で、誰かを守ることはできる。制度の象徴としてではなく、クラリス・ヴェルディアとして)


窓の外では、雪が静かに降り続けていた。

その白さは、彼女の決意をそっと包み込むようだった。


*


再測定の日。


講堂には、冷たい空気が張り詰めていた。


石造りの壁には、制度の紋章が刻まれた旗が掲げられ、測定装置が中央に鎮座している。

その球体型の装置は、淡い光を放ちながら、静かに起動準備を進めていた。


クラリスは、制服の襟を整えながら、講堂の隅に立っていた。


(……いよいよ、再測定。数字が変わっていたら、私はどうなるの?)


周囲では、同じ学年の生徒たちが緊張した面持ちで並んでいる。

ロジーナも、クラリスの少し後ろで手を握りしめていた。


「クラリス様……緊張しますね」


「ええ。でも、逃げられないわ。制度の中で生きる以上、数字は避けて通れない」


測定官が、名簿を確認しながら一人ずつ呼び出していく。


「ゼノ・ヴァルハルト」

「運命力:95」


「ルーク・ファルマス」

「運命力:95」


「ミレーユ・クローディア」

「運命力:95」


運命力は変わらない。


それが、かえってクラリスの胸をざわつかせた。

(みんな変わっていない。私だけ、もし下がっていたら……)


「クラリス・ヴェルディア」

その名が呼ばれた瞬間、講堂の空気がわずかに変わった。


クラリスは、ゆっくりと歩みを進め、測定装置の前に立つ。

銀髪が光に照らされ、赤い瞳がまっすぐに装置を見つめる。


「脳波安定。量子揺らぎ、同期開始」

技術官の声が響く。


装置が起動し、空間に光の波が広がる。

脳波と量子場が共鳴し、空気が震える。


数秒の沈黙の後――


装置の上部に、数値が浮かび上がる。

「運命力:94」


講堂が静まり返る。


変わっていない、あの日見た数字。

クラリスは、息を吐いた。


(……変わらなかった。よかった。でも……)


周囲では、ロジーナがほっとしたように微笑み、他の生徒たちも頷いている。


「クラリス様、さすがだな!」

「それでこそ制度の象徴だ」

「やっぱり、安定してるな」


クラリスは、測定装置から離れながら、胸の奥に小さな波紋を感じていた。

(変わらなかったことに、安堵している。でも、もし変わっていたら、私はどうしていたのだろう)


その問いは、答えのないまま、彼女の中に静かに沈んでいった。

(数字に頼らず、私自身で価値を示す。それが、私にできること)


*


再測定が終わった後、クラリスは講堂を出て、学院の中庭へと歩いていた。


雪は静かに降り続けている。

石畳の上に積もった白い雪が、足音を吸い込むように静かだった。


クラリスは、懐中時計の蓋を開き、秒針の音に耳を澄ませる。

その音は、さっきまでの緊張を少しずつ溶かしていくようだった。


(何も変わらなかった。運命力は94のまま。……それは、きっと良いこと。でも、どこかで少しだけ、変わっていてほしいと思っていた自分もいる)


彼女は、雪の積もったベンチに腰を下ろし、空を見上げた。

灰色の空に、白い雪が舞っている。


(数字が変わらないことに、安堵している。でも、変わらないということは、私自身も変わっていないということなのかもしれない)


そのとき、ロジーナがそっと近づいてきた。

「クラリス様、寒くないですか?」


クラリスは微笑みながら首を振った。

「大丈夫よ。少しだけ、考え事をしていたの」


ロジーナは、クラリスの隣に座りながら言った。

「私も、変わりませんでした。80のまま。でも、少しだけ……期待していたんです。上がっていたら、何かが変わるんじゃないかって。クラリス様に近づけるんじゃないかって」


クラリスは、ロジーナの言葉に静かに頷いた。

「私もよ。変わらないことは、安心でもあるけれど、少しだけ不安でもある。……でも、数字が変わらなくても、私たちは変われる。そう信じたい」


ロジーナは、クラリスの横顔を見つめながら言った。

「クラリス様は、もう十分変わられたと思います。制度の象徴としてだけじゃなくて、みんなの希望として」


クラリスは、少しだけ目を伏せてから、空を見上げた。

「ありがとう、ロジーナ。……私、頑張るわ。数字に頼らず、私自身で価値を示す。それが、私にできること」


雪が、静かに舞い続けていた。


そして、彼女は立ち上がった。

新しい年、新しい学び、新しい責任。

そのすべてを、クラリス・ヴェルディアとして、受け止めるために。



読んでくださりありがとうございます。


もし続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります!


第1部第4章のキャラクター紹介も設定集の方に更新しておりますので、そちらもよければご覧ください。


また、この小説はカクヨム、アルファポリスでも投稿しています。

そちらでも見ていただけると投稿の励みになります。

どうぞよろしくお願いします。

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