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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第1部 ■■■■■■■ 第1章 運命
4/11

4. 選ばれし者との対面

前回のあらすじ

・街ざわざわ

・家族もハッピー

・お手紙来ました。お呼ばれするらしい

・運命ってすごい!

ヴェルディア邸の朝は、静かに張り詰めていた。

昨日届いた王族からの手紙は、邸内の空気を変えた。

学院特待枠への推薦、王族主催の晩餐会への招待、そして第一王子レオニスからの直筆の言葉。

クラリスは“運命に選ばれた者”として、王宮へ向かうことになった。


鏡の前で銀髪を整えるクラリスの背後に、父ヴァルターが立っていた。

「今日の振る舞いが、我が家の運命を決める。忘れるな、クラリス」

その声には誇りと期待が滲んでいた。


クラリスは頷きながら、胸元の懐中時計に指を添えた。

秒針の音が、静かに時を刻んでいる。

身支度を済ませたクラリスは立ちあがり、食堂へ向かった。


食堂では、母リヴィアが静かに紅茶を注いでいた。

「緊張しなくていいのよ。あなたはもう、王族に負けないくらい有名人なのですから」

その言葉は優しかったが、どこか遠く感じられた。


妹セレナは、少し離れた場所からクラリスを見つめていた。

「姉様、王子様に気に入られるといいね」

その声は明るかったが、瞳の奥には複雑な色が揺れていた。


玄関前には、王宮から派遣された馬車が待っていた。

黒塗りの扉には王都ルミナスの紋章が刻まれ、朝の光を受けて鈍く輝いている。


クラリスが乗り込むと、父ヴァルターも隣に座った。

「王族との会うには、当主である私も同席するが、あくまで今日の主役はお前だ」

クラリスは小さく頷いた。


馬車が動き出す。

窓の外には、王都の街並みが広がっていた。

石畳の通り、開店準備をする店主たち、広場の掲示板には昨日の速報がまだ貼られている。

「クラリス・ヴェルディア嬢、運命力94を記録」

「王族との婚約の可能性」

「制度の象徴、現る」

クラリスはそれらの文字を目で追いながら、遠くにそびえる王宮の塔を見つめた。

その塔は、まるで運命そのもののように、空高く突き刺さっていた。


父は窓の外を見ながら呟いた。

「これで我が家は名実ともに…」

クラリスは何も言わず、懐中時計の蓋をそっと開いた。

秒針は、ゆっくりと、しかし確かに進んでいた。


*


王宮の門が開かれると、馬車は静かに敷石を進んだ。


クラリスは窓の外を見つめている。

父ヴァルターは隣で背筋を伸ばし、王宮の空気を吸い込むようにして言った。

「この場に立てる者は限られている。お前もその一員だ」

クラリスは父の言葉に頷いた。


馬車が止まり、扉が開く。


銀の装飾が施された階段の先には、王宮の侍従たちが整列していた。

クラリスが一歩踏み出すと、彼らは一斉に頭を下げた。

「クラリス・ヴェルディア嬢、ようこそ王宮へ。王族主催の晩餐会へご案内いたします」

その声は礼儀正しく、しかし感情のない響きだった。


広間へと続く回廊は、白と金を基調とした荘厳な造り。

壁には歴代王族の肖像画が並び、天井には運命力制度の紋章が描かれていた。


「緊張するな。お前は、運命に選ばれた者だ」

父の声が背後から届く。


クラリスは振り返らず、ただ歩みを進めた。


広間の扉が開かれると、そこにはすでに数十名の貴族、学者、測定機関の代表者たちが集まっていた。


彼らの視線が、一斉にクラリスへと向けられる。


「運命力94を記録されたクラリス・ヴェルディア嬢でございます」

司会の声が響くと、場が静まり返った。

その場にいた者たちがざわつく。


「あれが噂の…」

「どちらの王子の婚約者になるのかしら」

「あれ、でも今日はユリウス様がいらっしゃらないわ」

「噂では、あまりお身体の調子がよろしくないそうよ」

「そうなのですか?それは心配ですわ」

「では、今日いらっしゃるレオニス様と?」


王妃エレオノーラは、白金の髪を揺らしながら微笑んだ。

「容姿だけでなく、運も備えている。まさにレオニスの相手にふさわしいわ」

その言葉に、周囲の貴族たちが頷き、ささやき合う。

宰相ヴィクトルは、資料を手にしながら言った。

「制度の象徴として、クラリス嬢の存在は極めて重要かと。

王族との結びつきは、制度の、ひいては王国の安定に寄与するでしょう」


クラリスは微笑みながらも、内心とても緊張していた。


父ヴァルターは後方の席に案内され、クラリスは中央の円卓へと導かれる。

その席は、レオニスの隣だった。


銀の食器が並ぶ晩餐会の場で、クラリスは静かに息を整えた。


*


レオニス・グランフェルド。

王国第一王子にして、運命力制度の象徴的存在。

彼の数値は“99”とされており、王都では「神に選ばれし者」とまで呼ばれていた。


クラリスは、彼の横顔をそっと盗み見た。

白金の髪に整った顔立ち。礼儀正しく、完璧な姿勢。

だが、その瞳の奥には、何か冷たいものが宿っていた。


「クラリス・ヴェルディア嬢」

レオニスが静かに口を開いた。


その声は柔らかく、よく通る。


「君に会えるのを楽しみにしていたよ。運命力94――それは、王族に並ぶ数値だ」


クラリスは礼儀正しく微笑み、頭を下げた。

「光栄です、殿下。お招きいただき、ありがとうございます」


「君の測定結果は、王国にとって希望の証だ」

レオニスはクラリスの手に触れた。

その指先は冷たく、硬かった。

「運命に選ばれた者同士、惹かれあうはずだ。そう思わないか?」


クラリスは微笑みを保ちながら、内心で言葉を探していた。

「おっしゃる通りでございます」


レオニスの瞳が、わずかに動いた。

「そうさ。運命力はすべてを決める。

君がここにいるのも、君が選ばれたからだ。違うか?」

クラリスは答えなかった。

懐中時計の蓋をそっと開いた。秒針の音が、静かに響いていた。


「君は、僕にふさわしい」


レオニスはそう言って、クラリスの瞳をまっすぐに見つめた。

その視線は、優しさを装いながらも、どこか別の気配を含んでいた。


周囲では、貴族たちが談笑し、料理が運ばれていた。


「殿下は、運命力が高い方々の結びつきが、王国の安定につながるとお考えですか?」

クラリスは、緊張しながらも疑問を投げかけた。


レオニスは微笑んだ。

「当然だ。高運者同士が結びつけば、国家は揺るがない。

君と僕が並べば、完璧だ。」

クラリスには分からなかった。レオニスは続ける。


「心配ない。我々には運命がついている」

そう言って、ワインを口に運んだ。


クラリスはその横顔を見つめながら、秒針の音に耳を澄ませた。


晩餐会の光は美しく、そして冷たかった。

読んでくださりありがとうございます。

第5話は9/13(土)6時に更新予定です。


また、この小説はカクヨム、アルファポリスでも投稿しています。

そちらでも見ていただけると投稿の励みになります。

どうぞよろしくお願いします。

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