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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第4章 王立ルミナス学院 3年目

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6. 声は届かず、秩序は揺らがない

前回のあらすじ

・スピーチ

・マイクトラブル

控室の扉が閉まり、クラリスは静かに椅子に腰を下ろした。


ロジーナの言葉が、まだ胸の奥で響いている。

「……私の声、届いていなかったのね」


クラリスは懐中時計の蓋を開き、秒針の音に耳を澄ませた。

その音は、まるで彼女の心のざわめきをなだめるように、静かに時を刻んでいた。

「でも、前の席の人たちは聞いてくれていた。ゼノも、ミレーユも、カイも、ルークも……」


そのとき、控室の扉が再びノックされた。

「クラリス、いますか?」

ゼノ・ヴァルハルトの声だった。

クラリスが立ち上がると、扉の向こうには特別選抜クラスの5人が揃っていた。

「大丈夫そうだな」

ゼノは短く言い、クラリスの顔を見て頷いた。


「スピーチ、聞いたよ」

ミレーユが言った。

「あれだけ堂々と話せるなんて、ちょっと嫉妬しちゃうわ」


「俺は、ああいうの苦手だけど……あんたはすげーな」

ルークは腕を組みながら、少し照れくさそうに言った。


「制度の本質を問う姿勢も、王国の未来に必要かもしれない」

カイは資料を手にしながら、静かに言葉を添えた。


クラリスは、彼らの言葉に胸が熱くなるのを感じた。

「ありがとう。……でも、全員には届かなかったみたい」


「それでも、前にいた私たちには届いた。それだけで、意味はあるわ」

ミレーユの言葉は、いつもより少しだけ柔らかかった。


クラリスは、静かに頷いた。

「学院祭、まだ始まったばかりよ。ここから、私の行動次第で、もっと多くの人にも伝わるはず」


「なら、頑張るしかないわね」

ミレーユが笑った。

「私は衣装と演出担当。あなたの見せ場、ちゃんと作ってあげる」


「俺は模擬戦の準備だ。派手にやってやるよ」

ルークが拳を握る。


「僕は安全性の確保などを。制度の象徴が怪我でもしたら、王国が騒ぐからね」

カイが冗談めかして言う。


「俺は……剣を振るうだけだ」

ゼノは短く言い、クラリスに視線を向けた。


「ありがとう、みんな。私も、案内係として来賓対応を頑張るわ」


そのとき、ロジーナが控室の奥から顔を出した。

「クラリス様、出展者の調整、終わりました。次は配置図の確認です」


「ありがとう、ロジーナ。行きましょう」

クラリスは、仲間たちと共に学院祭の準備へと向かっていった。


*


学院祭の喧騒が、王立ルミナス学院の中庭を包んでいた。

色とりどりのテントが並び、香ばしい焼き菓子の匂いと、笑い声が風に乗って広がっていく。


セレナ・ヴェルディアは、少し緊張した面持ちで、制服の裾を整えながら、隣を歩く少年をちらりと見上げた。

「ユリウス様、どこから回りますか?」


「うーん……」

ユリウスは、少し考えるように空を見上げた。

「まずは、あっちの模擬店通りに行ってみようか。セレナさん、甘いものは好き?」


「はい。姉様ほどではないですけど……」

セレナは小さく笑った。


「君はそんなに甘いものは好きではないんだね」

ユリウスも微笑んだ。

「君たち姉妹は、似ているようで、違っているんだ」


「……そうですね」

セレナは少しだけ視線を落とした。

「姉様は、すごい人です。私は、まだまだ……」


「そうかな?」

ユリウスは立ち止まり、セレナの方を向いた。

「僕には、君がとても立派に見えるよ。自分の力で前に進もうとしている。お姉さんの影に隠れずに、自分の道を探してる」


セレナは驚いたように目を見開いた。

「……私、そんなふうに見えますか?」


「うん」

ユリウスは頷いた。

「お姉さんのように前に出るのも素晴らしい。でも、隣に立って支える人も、同じくらい大切なことなんだ」


セレナは、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

「私……姉様のようになろうと…。でも、私なりに、誰かの力になれたらって、心の片隅にずっと思ってて……」


「それでいいんだよ」

ユリウスは優しく微笑んだ。

「君は、君のままでいい。君の優しさは、きっと誰かを救う」


セレナは、そっと頷いた。

「ありがとうございます、ユリウス様。……私、もっと頑張ります。姉様の隣に立つためじゃなくて、私自身のために」


「それでこそ、セレナ・ヴェルディアだ」

ユリウスは、彼女の言葉に満足そうに頷いた。


そのとき、近くのブースから甘い香りが漂ってきた。

「……あ、焼きリンゴのタルトだ」

セレナが目を輝かせる。


「じゃあ、行こうか」

ユリウスは笑いながら、セレナの前に手を差し出した。


セレナは一瞬戸惑ったが、そっとその手を取った。


学院祭の喧騒の中、二人の影が並んで伸びていく。

それは、まだ始まったばかりの、二人の物語の小さな一歩だった


*


学院祭1日目の夜。


王立ルミナス学院の生徒会室には、静かな緊張が漂っていた。

窓の外では、祭の余韻を残す灯りがちらちらと揺れ、遠くから笑い声が微かに聞こえてくる。


だが、この部屋では、まったく違う空気が流れていた。

アリステアは、資料を机に並べながら、冷静な口調で話し始めた。

「学院祭初日は、概ね予定通りに進行した。来賓対応、模擬戦、展示、すべて大きな混乱はなかった。だが――」


彼は、クラリスのスピーチに関する報告書を手に取った。

「開会式における制度の象徴による発言は、当初こちらで用意していた内容とは違う内容を含んでいた。『数字だけがすべてではない』『制度の外側にも目を向けるべき』――これらの言葉は、制度の安定性に疑問を投げかける可能性がある」


リュシアは、静かに反論した。

「ですが、クラリスさんの言葉は、制度を否定したものではありません。むしろ、制度の中でどう生きるかを、聴衆に考える姿勢を示しただけです」


「それでも、制度の象徴が“疑問”を疑問を口にしたことは、王族や貴族の間で波紋を呼ぶ可能性がある」

アリステアは、冷静に言葉を重ねる。

「マイクの出力制限は、問題ない判断だったと考えている。混乱を未然に防ぐための措置だ」


その言葉に、リュシアは眉をひそめた。

「それは、“制度の象徴”の声を、誰かの顔色をうかがって遮ったということです。それこそ、制度の信頼を損なう行為では?」


沈黙が落ちる。


クラリスは、静かに口を開いた。

「私は、制度の象徴として、誇りを持ってこの場に立っています。ですが、制度の中で生きる人々の声を無視することは、制度の本質を見失うことになると思っています」


アリステアは、クラリスを見つめた。

「君の言葉は、とても理想的だ。だが、制度は理想だけでは成り立たない。秩序と安定が必要だ」


クラリスは、懐中時計の蓋を開き、秒針の音に耳を澄ませた。

「秩序と安定のために、誰かの声を消すのなら――私は、その秩序に意味があるのか、問い続けたいと思います」


その言葉に、リュシアは静かに微笑んだ。


アリステアは、資料を閉じながら言った。

「明日以降、君の行動が制度への信頼を高めるものであることを願っている。君の言葉が、制度の未来を左右するのだから」


そして、ミーティングは静かに終わった。


窓の外では、夜の王都が静かに広がっていた。



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