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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第4章 王立ルミナス学院 3年目

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4. 学院祭準備

前回のあらすじ

・会長vs副会長

・レオニスvsクラリス

学院祭まで、あと一週間。


王立ルミナス学院は、まるで別の場所のように活気づいていた。

中庭には色とりどりの旗が掲げられ、回廊には装飾の布が風に揺れている。


生徒たちは忙しそうに走り回り、準備の声があちこちで飛び交っていた。


クラリスは、生徒会室の一角で、出展者リストと進行表を見つめていた。

その目は真剣で、資料に向ける手は迷いなく動いていた。

(私は、制度の象徴。けれど、それだけじゃ足りない。誰かの期待に応えるだけじゃなく、自分の言葉で、自分の姿で、示さなきゃ)


副会長リュシアが、クラリスの隣に立っていた。


彼女は、クラリスの手元を見て、静かに微笑んだ。

「ずいぶん慣れてきたわね。最初の頃よりも、ずっと頼もしくなった」


クラリスは、少しだけ照れくさそうに笑った。

「ありがとうございます。先輩の考え方を聞いてから、少しずつ……自分の中で整理できてきた気がします」


「それなら、よかったわ」

リュシアは、窓の外を見ながら言った。

「制度の中で、自分のやるべきことを見つけるのは、簡単じゃない。でも、見つけた人は、強くなるわ」


クラリスは、窓の外に広がる学院の景色を見つめた。

そこには、笑い合う生徒たち、協力し合う姿、そして制度の“外”で生きる人々の姿があった。

(私は、数字で選ばれた。でも、今ここにいるのは、私が選んだから。誰かに言われたからじゃない。私が、やりたいと思ったから)


そのとき、扉が開き、ロジーナが顔を出した。

「クラリス様、出展者の最終確認、終わりました。あとは、配置図の修正だけです」


「ありがとう、ロジーナ。助かるわ」

クラリスは立ち上がり、資料を手に取った。


リュシアは、二人のやり取りを見ながら、静かに言った。

「クラリスさん。学院祭の開会式、あなたに挨拶をお願いしたいの。制度の象徴としてじゃなく、学院の一人の生徒である“クラリス・ヴェルディア”として」


クラリスは、驚いたように目を見開いた。

「私が……?」


「ええ。あなたの言葉で、今の学院を、今の制度を、どう見ているか。それを、みんなに伝えてほしいの」


クラリスは、しばらく黙っていた。

そして、ゆっくりと頷いた。

「……分かりました。私の言葉で、伝えます。私がどう生きているかを」


リュシアは、満足げに微笑んだ。

「それでこそ、王国の未来を担う人よ」


クラリスは、窓の外に目を向けた。

春の風が、学院の塔を優しく撫でていた。

(私は、制度の象徴。でも、それだけじゃない。私は、私自身として、ここに立つ)


そして、学院祭の幕が、静かに上がろうとしていた。


*


重厚な扉が閉じられた室内には、王族直属の警備が控えていた。

窓の外には王都の灯が広がり、静かな夜の帳が学院を包み込んでいる。


レオニス・グランフェルドは、窓辺に立ち、遠くの王宮の塔を見下ろしていた。

背筋は伸び、表情は変わらない。だが、瞳の奥には、わずかな揺らぎがあった。


生徒会長アリステア・フォルドは、机の上に資料を広げていた。

その隣には、外部連携担当セドリック・ハインツが控えている。


「クラリス君の発言、制度の象徴としては危うい」

アリステアが静かに口を開いた。

「副会長に影響されすぎている。良くない方向に行こうとしている」


セドリックは、資料を閉じながら答えた。

「ですが、生徒、そして王国の民からの支持は高まっています。演習以降、彼女の名は王都でも“希望”として語られています。“象徴”としての役割は、むしろ果たしているとも言えます」


レオニスは、窓から目を離さずに言った。

「希望は、制御できなければ脅威になる。制度は盤石でなければならない。

クラリスが“自我”を持ち始めたなら、それはもう象徴ではない」


アリステアは頷いた。

「学院祭の開会式。彼女の言葉が制度にとって有益かどうか……見極める必要があります。もし、制度の正しさを疑わせるような発言があれば、王族としての立場から介入が必要になるかもしれません」


セドリックは、静かに言葉を継いだ。

「その場合、代わりはすでに用意されています。妹のセレナ・ヴェルディア。運命力も高く、性格も従順。制度の安定には、彼女のほうが適しているかもしれません」


レオニスの瞳が、わずかに揺れた。

だが、すぐにその光は冷静さを取り戻す。

「クラリスが制度の象徴であり続けるなら、それでいい。だが、もし逸脱するなら――計画を動かすまでだ」


アリステアは、資料を整えながら言った。

「制度は、個人の感情で揺らいではならない。それが、王国の秩序を守る者の責務だ」


レオニスは、窓の外に再び目を向けた。

その先には、学院の塔が静かに立っていた。

(クラリス・ヴェルディア。お前は、何を言うつもりだ?)


*


寮の廊下は静まり返っていた。

窓の外には、月が淡く輝き、中庭のチューリップが風に揺れている。


セレナは、自室の机に向かっていた。

開かれた剣術の教本には、クラリスから教わった基本の構えが丁寧に書き込まれている。


彼女は、指先でその図をなぞりながら、そっと息を吐いた。

(姉様は、学院祭でみんなの前に立つんだ……)


その姿を思い浮かべるだけで、胸が少しだけ高鳴る。

誇らしさと、ほんの少しの焦りが混ざった感情。


(私は、まだ何もできていない。剣も、勉強も、姉様みたいには……)


セレナは、机の端に置かれた銀の懐中時計に目を向けた。

それは、クラリスがかつて使っていたものを譲り受けた、大切な時計。

そっと蓋を開けると、秒針の音が静かに響いた。


(でも、姉様は言ってくれた。“あなたはあなたでいい”って)


その言葉が、胸の奥に温かく残っていた。


セレナは、教本を閉じて立ち上がった。窓辺に歩み寄り、夜空を見上げる。

(私も、頑張らなきゃ。姉様の隣に立つためじゃなくて――私自身のために)


月の光が、彼女の銀髪を優しく照らしていた。


読んでくださりありがとうございます。


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また、この小説はカクヨム、アルファポリスでも投稿しています。

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