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運命力ゼロの悪役令嬢  作者: 黒米
第4章 王立ルミナス学院 3年目

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3. 対立

前回のあらすじ

・学院祭準備中

・制度に不満を持つ人がいるらしい

生徒会室には、準備資料と進行表が積み上がり、空気は張り詰めていた。

クラリスは、リュシアの隣で出展者リストを整理していた。

その手元には、先ほど掲示板で見た制度批判の張り紙の記憶が、まだ残っていた。


「……副会長。あの張り紙、どうするんですか?」

クラリスが静かに尋ねる。


リュシアは、手を止めずに答えた。

「剥がすことは簡単。でも、なかったことにはしたくないの。あれは、誰かの本音だから」


クラリスは頷いた。

「私も……そう思います」


そのとき、生徒会室の扉が勢いよく開いた。


会長アリステアが、資料を手にして入ってくる。

「リュシア。例の張り紙の件、聞いた。すぐに撤去させろ。学院祭に水を差すような真似は許されない」


リュシアは、資料を閉じて立ち上がった。

「撤去はしません。あれも、制度の中で生きる人の本音です。」


「必要ない。制度は秩序だ。秩序を乱す声に耳を傾ければ、混乱を招くだけだ」

アリステアの声は冷たく、断定的だった。


「そのために、誰かの声を抑圧するの?それは、制度の本質を見失ってるわ」

リュシアの声は静かだったが、芯が通っていた。


クラリスは、二人の間に立つようにして言葉を探した。

「……制度は、確かに秩序を守るもの。でも、秩序の中に“人”のことを考えなければ、意味がないと思います」


アリステアはクラリスに視線を向けた。

「君は制度の象徴だ。その君が、制度に疑問を持つのか?」


クラリスは、少しだけ目を伏せてから答えた。

「疑問を持つことは、それを否定しているということではないと思います。私は、制度の中で生きる人間として、きちんと理解したいから、疑問を持っているのです」


沈黙が落ちた。


アリステアは資料を机に置き、背を向けた。

「学院祭は、制度の正しさを示す場だ。それだけは忘れるな」

そして、生徒会室を後にした。


クラリスは、リュシアの隣に戻りながら、静かに呟いた。

「……私は、何をすべきなんでしょうか」


リュシアは、クラリスの肩に手を置いた。

「あなたがどう生きるか。それが、きっと誰かの希望になるわ」


*


夕暮れの学院中庭には、柔らかな光が差し込んでいた。


クラリスは、資料を抱えたまま、石畳の道をゆっくりと歩いていた。

掲示板の張り紙、会長と副会長の衝突――


今日一日で、彼女の心には多くの問いが積み重なっていた。


(私は、制度の象徴。けれど、それだけでいいの?誰かの期待に応えることと、自分の生き方が、同じじゃない……)


そのとき、背後から聞き慣れた声が響いた。


「クラリス。少し、話せるか?」

振り返ると、第一王子レオニス・グランフェルドが立っていた。


制服の襟元は整えられ、いつも通り完璧な姿勢。

だが、その瞳には、わずかな探るような光が宿っていた。


「もちろんです、殿下」

クラリスは立ち止まり、資料を胸元に抱え直した。


レオニスは、クラリスの隣に並びながら歩き出す。

「学院祭の準備、順調か?」


「はい。副会長のもとで、出展者の調整をしています。少し混乱もありますが……皆、楽しみにしているようです」

「楽しみに、か」


レオニスは、少しだけ口元を引き締めた。

「制度の象徴として、君には完璧な振る舞いを求められる。学院祭は、王国の未来を示す場だ。君がどう見られるかで、制度の信頼が左右される」


クラリスは、歩みを止めた。夕陽が彼女の横顔を照らす。

「……それは、理解しています。ですが、私は最近、この制度について少し考えるようになりました。制度の中で、何を感じているのか。数字だけでは見えないものがあるのではないかと」


レオニスは、クラリスの言葉に眉をひそめた。

「制度は、揺らいではならない。感情に流されれば、秩序は乱れる。君は、制度の象徴として選ばれた。それは、揺るがない事実だ」


クラリスは、静かに答えた。

「でも、私は“制度の象徴”である前に、一人の“人間”です。制度の中で、どう生きるかを考えることは、制度を否定することではないと思っています」


レオニスは、しばらく黙ってクラリスを見つめていた。


その瞳は、冷静でありながら、どこか測るような色を帯びていた。

「君は、制度の中で“考える”ことに意味があると?」


「はい。制度が完璧であるなら、疑問を持つことも許されるはずです。それが許されないなら、制度はただの枠でしかない」


「……君は、変わってしまったな」

レオニスの声は低く、感情を抑えていた。

「以前の君は、もっと素直だった。数字に誇りを持ち、制度に従っていた。今の君は、制度以外を見ようとしている」


クラリスは、レオニスの言葉に胸が少し痛んだ。

「私は、制度の中で生きる人たちの声を聞きたいだけです。それが、制度を支える者の責務だと思うから」


レオニスは、静かに背を向けた。

「……君が制度の象徴としてどう振る舞うか、見せてもらおう」


そして、レオニスはそのまま歩き去っていった。


クラリスは、彼の背中を見つめながら、胸元の懐中時計にそっと手を添えた。

秒針の音が、夕暮れの静けさの中に、淡く響いていた。

(私は、何を守りたいの?制度?それとも、制度の中で生きる人たち?私自身は、どうしたいの?)


「私は……どうあるべきなのか」

その問いは、風に乗って、遠く学院の塔へと消えていった。


読んでくださりありがとうございます。


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